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米国行政ポータルサイト計画"FirstGov" 2000年8月16日 Home >>> 論考・資料室 >>> 米国行政ポータルサイト計画"FirstGov" |
米国の電子政府ポータルサイトである"FirstGov"について解説しています。 「税金を使わず官民学で作る」、「フィードバック機能の充実で利用者が育てるポータルにする」点などが特徴となっています。 (4)フィードバック機能の充実 |
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税金を使わず官民学で作る (1)"FirstGov"とは? |目次へ いわゆる「ワンストップサービス」(=たらい回しをされることなしに、一箇所で事足りるというサービス)を体現する手段として、リアル空間の場合は郵便局やコンビニまたは行政書士事務所などを拠点とすること考えられますが、サイバー空間の場合は、行政ポータルサイトということになるのでしょう。「電子政府への総合受付窓口」と考えるとわかりやすいでしょうか。 行政ポータルサイト計画は、既に98年頃から考えられていたそうですが、ここに来て急展開を見せているようです。今秋スタート予定のFirstGovには、2,700万人の訪問者を見込んでいるそうです(一日一億ビューぐらいには耐え得るようにするとのこと)。 クリントン大統領とゴア副大統領による電子政府計画("E-GOVERNMENT" INITIATIVES)では、FirstGovの説明と共に、2000年度中に次の3点を実現するとうたっています。 行政ポータル"firstgov.gov."を開設して、連邦政府がオンラインで提供する全ての情報を入手できるようになる。 Web上にある情報を整理して提供することは、ポータルサイトの基本ですね。 FirstGovのサイトが本格的にスタートするのは今秋だそうですが、今でもアクセスすると、パワーポイント資料などの関連情報が入手できます。 行政ポータル"firstgov.gov."において、約5000億ドルもの補助金や公共調達の機会を得ることができる。 より透明で公正なシステム作りにも役立つことでしょう。 電子政府に関するアイデアを広く募集して、最優秀アイデアには賞金5万ドルを授与する。 電子政府における市民参加の一形態ですね。日本でも意見募集(パブリックコメント)などでやるべきでは。やってくれたら作者もウンウンがんばって応募するのですが。 ちなみに、優秀なアイデアの条件とは、利用者に優しく使いやすいものであること、簡易にアクセスできること、費用対効果が高いこと、セキュリティーが高いこと、個人情報・プライバシーを保護するシステムであることなどです。電子政府が抱える課題が見えてきますね。 詳しい内容はThe Council for Excellence in Governmentにありますので、皆様も応募されてはいかがでしょうか。. (2)"FirstGov"の機能と役割|目次へ さて、FirstGovのどのあたりが「電子政府への総合受付窓口」なのかと言いますと、FirstGovに行けば、あらゆる連邦政府関連の情報を入手することが可能であり、縦割り行政の弊害を超えて、複数の行政機関にまたがる手続なども、このサイトに行けば全て済んでしまうということです。 例えば、申請先の行政機関によって手続が異なっていた補助金の申請なども、煩雑な手続に悩まされることなくFirstGovで済んでしまうという感じです。 FirstGovをきっかけとして、個々の行政機関が市民のニーズに応える行政サービスを改めて認識する中で、サービスの統合化が進むことでしょう。さらに、サービスの統合化を実現するためには、常日頃から行政機関の間でネットワークを利用した情報交換・共有が必要ですので、自然と横の繋がりも生まれてくるということですね。 市民重視のサービス充実・統合化については、企業における顧客志向、トータルソリューションの提供などと異なるところはありません。 ただし、行政の場合は、個人情報・プライバシーの保護やセキュリティーなどに、より深い配慮を必要とする(しかも説明義務を伴う)など、企業と異なる点もあります。 また、個々の職員の意欲維持が難しいので、具体的な成果については金銭の付与を伴う表彰などがあっても良いでしょうし、企業からの引き抜きなどが自然に行われるようになれば、行政も人材確保の重要性(電子政府においては非常に重要であり、危機意識を持った早急な対策が望まれます)を少しは認識することでしょう。 FirstGovが面白いのは、政府の予算(税金)を使わずにデータベースやサーチエンジンの開発を行い、Webサイトの運営(維持管理)を行うという点です。 それでは誰がするのかと言えば、政治からフリーな非営利団体:the Council for Excellence in Governmentなのです(最高責任者はEric BrewerというWebビジネス企業家)。もちろん、企業や大学等の民間からの協力を得ながら運営されます。 こうした試みは、州政府においても行われており、ポータルサイトの構築ソリューションが大きなビジネスになっていることを考えれば、政府だけでウンウン考えて行政Webサイトを作ってみてもやはり限界があり、市民のニーズを満たす良いものなどは出来るはずはないのですよね。 ここが厳しい現実でありまして、例えば、行政職員が時間も予算も限られた中でサービス残業までして○○町のWebサイトを作ってみても、実際にアクセスする町民等に満足して利用してもらえなければ、結果的には単なる自己満足でしかないのです。 行政Webサイトは、今後ますます政策上重要な存在となってくることは必至であり、一部の職員による手作りサイトで満足する時代は終わったと言って良いでしょう。 こんなことを言っていると各地方自治体ホームページ担当者に怒られそうですが、作者も神奈川県行政書士会のホームページ運営管理を担当しているので、ある意味同じような立場にあり、厳しい現実を実感しているのでした。 (3)FirstGovの情報はオープンが原則|目次へ ところで、FirstGovのデータベースには、 連邦政府系サイト約25,000分、1億ページ以上の情報が集約され、高速検索エンジンを利用して必要な情報を探し出すことができるそうです。 言い換えれば、今までは2万以上もある政府系サイトの中から、自分が欲しい情報を探し出す必要があったということですので、随分と便利になるものです。 このデータベースは、一定の要件を満たした提携サイト(サイト上に証明書の掲載を許される)であれば利用可能ということですので、行政手続に関係しそうなサイト(例えば電子調達仲介サイト、旅行サービス、自動車販売など)で活用されれば、利用者にとってより良いサービスと選択肢の提供をもたらすことになるでしょう。 FirstGovデータベースの利用を許されるサイトの要件は次のようなものとされています。 FirstGovが提供する情報を加工なしにそのまま利用すること とかく一人歩きをしてしまいがちなWeb上の情報ですので、誤った情報提供による被害や、意図的な情報操作などに対する配慮があるのだと思います。 また、政府が提供する情報が基本的に著作権フリーである中で、その加工を許してしまうと、新たな著作権の問題を生じるという懸念もあるのでしょう。 情報が無料で公開され、政府系サイトへのアクセスを妨害しないこと 有料による公開では、誰もが欲しい情報に容易にアクセスできるというFirstGovの基本理念に反しますので、無料公開が当然ですね。 また、利用者が入手した情報を基にして、関連する政府系のサイトにアクセスしようとした場合、そこへのリンクやナビゲーションがあると便利でしょう。 政府関連情報へアクセスする個人を追跡しないこと FirstGovは、基本方針として個人情報を収集しないことを定めています。アクセスログの解析はサービス向上のためにも重要ですが、特定の個人を追跡する必要はありませんね。政府によるオンラインサービスを実施する上で、プライバシー保護への懸念が筆頭に挙げられるという事実もあります。 特定の個人を追跡することで、その人の嗜好などがわかるのは事実ですが、これを有効に活用するマーケティング手段は未だ確立していないというのが作者の実感です(表市場では)。 これらは、単純に個人情報として売買されたり、国家権力による犯罪防止策(有効であるかは疑問)などに利用される場合が考えられます。このようなケースでは、当然ながら本人の意思は完全に無視されていますので、表の市場としては成り立ち難いのでしょう。 FirstGovのページが表示されているスクリーン上に、アクティブバナー広告を入れないこと アクティブバナー広告とは、勝手にウィンドウを開いて表示される広告のことです(作者も苦手)。アダルト系のサイトでは、閉じても閉じても開いてくるなんてことがありますね。これらの広告は、画面が見づらいばかりか、パソコンが不安定になったり、利用者に誤解や混乱を招きますのでダメということですね。 すべての政府関連情報が、わかりやすく明示されること 電子政府における情報公開には、次のような段階(順番はあまり関係ないのですが)があると思います。 1. とりあえず全部見せる=ほとんど垂れ流し状態 2. それに加えて概要版などをつける=全部見なくても理解できる 3. 情報デザインを考える=見やすい配置で、欲しい情報が探しやすい 4. 子供版など選択肢を提供=誰もが理解できる形で 5. 情報の表示形式を各自がカスタマイズ=自分だけのページで必要な情報だけ入手 といった感じです。つまり、紙による情報公開とは異なることを認識しながら、Webの機能を最大限に活用するということです。 政府関連情報を、ポルノ系コンテンツや違法コンテンツが掲載されているページ(またはその近く)に置かないこと ポルノとか違法の概念定義が難しいところですが、怪しい感じのするコンテンツと一緒に掲載してはダメということでしょう。 ヌード画像があって、右の乳首をクリックするとブッシュ大統領候補、左の乳首をクリックするとゴア大統領候補の応援サイトに繋がるなんてのは面白いけどダメなのですね。 情報が提供されるサイトが、Rehabilitation Actにより制定されたアクセスに関するガイドラインに対応するものであること 日本においても公共交通機関のバリアフリーが進められ、障害者や高齢者によるパソコン等の利用に関するアクセシビリティガイドライン制定についてのパブリックコメント募集なども行われています。公的な情報は、誰もが簡単にアクセスできるような手段で提供される必要があるということですね。 日本でも、国民のニーズに応える行政ポータルサイトができると良いのですが。 フィードバック機能の充実で利用者が育てるポータルに (4)フィードバック機能の充実|目次へ FirstGovの訪問者は、利用してみた感想や批判などを気軽に投稿することができます。管理者付きチャットルームで意見交換をしたり、他の利用者の意見や感想を入手することができるのです。 利用者からのフィードバックは日本の政府系ホームページでも行われていますが、それに対する返信システムは確立されていないといって良いでしょう。極端な話、黙殺されてもわかりません。 作者も政府系のサイトに質問メールを出すことがありますが、きちんとした返事が迅速に返ってくることは期待していません(返事がないこともしばしば)。 FirstGovでは、感想や批判をオープンなシステムで受け付けることで、きちんと返信されるシステム作りを心がけているようです。利用者にとっては、少なくとも意見や感想があったこと、それに対する返信の有無、などを知ることができるのですね。 (5)米国行政サイト(オンラインサービス)の現状|目次へ さて、今回のテーマは ○Twenty Things You Can Do and Learn
On U.S. Government Web Sites ホワイトハウスのプレスリリースより。 FirstGovでは、市民に役立つあらゆる種類の政府関連情報が提供されるわけですが、米国政府ではすでにオンライン情報・サービス提供をしており、代表的なものを20ほど挙げています。これらに触れることで、米国の電子政府事情を理解しFirstGovをイメージをしやすくなることでしょう。 行政がスポンサーになって、実際の運営は非営利団体や大学の研究機関が行うという仕組みや、問合わせ先等がわかりやすく表示され、訪問者のフィードバックを大切にする姿勢などは、日本の行政機関も多いに見習うべき点でしょう。ということで、ほんの一部をご紹介。 ●医療関連情報サービス 健康プラン、医者、治療コース、入院施設などの情報があります。病気や健康に関する資料も豊富。医療・健康サイトはビジネスとしても人気がありますが(深刻な病気からダイエット・健康法まで)、公的機関によるサイトは情報の信頼性も高く、利用者も比較的安心して利用できそうですね。 トップページ上部に検索エンジンを設置するWebデザインもシンプルで使いやすそうです。日本の政府系とは根本的なセンスからして違う気がするなあ。プライバシーポリシーや問合わせ先などの情報公開も、当然ながらしっかりしています。年齢や性別などによりターゲットを絞ったサービス提供(Just for you)なども良いですね。1999年度には450万人の訪問者があったそうです。 ●教育関連資料提供サービス 先生や両親から学生・生徒までが利用できる教材を提供。140ものWebサイトへリンクを張ることで、あらゆる分野についての教材を簡単に入手できるようにしています。検索機能も充実していまし、FAQの設置や提供資料一覧リストなども当然あります。 同じようなサービスを提供するサイトとして ○Federal Resources for Academic
Excellence もおすすめです。 ●スモールビジネス援助サービス 小規模ビジネスを始める際に役に立つ情報を提供。融資や女性・少数民族に有利な特典に関する情報などを提供すると共に、電子メールを使った相談業務やオンライン教育、契約に関するデータベースなども提供しています。 実際に利用してみると、内容の充実振りに驚きます。こうしたサービスを行政機関に無料でされると、民間の経営・法律コンサルタントの質も上げざるを得ないですね。 ●社会保障に関する情報提供サービス 定年退職した後のライフプランをサポート、といった感じのサイトです。年金計算ができるサービスなどは便利ですね。ちょっとゴチャゴチャしたデザインですが、内容は大変充実しています。既に実施されている電子申請サービスの紹介もありますね。ちなみに、米国の社会保障制度では州政府機関が実際の運営を行います。 ●環境汚染情報サービス 自分たちが住んでいる町の環境汚染状況を知ることで、環境問題を身近に感じ、被害者にならないために何をするかを知ることができます。 日本のニュースで、環境汚染などの被害者から「こんな危険な工場とは知らなかった」なんて発言が見られますが、こうしたサイトで少なくとも自分が住んでいる町の状況を理解することができるのですね。子供向けページもあります。 (6)政府系サイト成功のポイント|目次へ こうしてみると、行政機関によるWebサイトが成功する秘訣は、 ★ターゲットを絞った専門化されたサイトになること 国民は、郵政省のサイトを見たいのではなく、郵便サービスについて知りたいのあり、外務省のサイトを見たいのではなく、パスポート申請や渡航手続について知りたいのですよね。 運営や資金提供は行政組織単位でも良いのですが、Webサイトを行政組織単位別に分ける必要は全くないでしょう。 ★情報が探しやすいサイトにすること 提供されるサービスや情報が充実すればするほど、自分の欲しい情報を探し出すことが困難になります。見やすいデザインを心がけ、自分がサイトのどこにいるのか簡単に確認でき、様々な手法による検索サービスを提供したいものですね。 ★利用者からのフィードバックを大切にすること 前述のとおり、FirstGovでも重要視されています。 さらに、もう一つ作者が追加したいものとして ★関連法令データベースの提供 があります。行政手続は全て法令に基づいて行われます。法律を知ることで、どんな権利を自分(国民)が持っているのかを理解できるのです。 誰にでもわかる簡易な説明と共に、根拠となる法令の提供は、電子政府における情報公開の理念を実現するためにも必須のサービスと言えるでしょう。 (7)日本における政府系ポータルサイトは?|目次へ 日本政府もポータルサイトとは言えませんが、総合的なサイトを運営していますので、作者が利用するものを紹介しておきましょう。 ●官公庁 Web Server 首相官邸のサイトより。官公庁のホームページに飛びたい時は使えるかも。 ●総合案内クリアリングシステム/ホームページ検索
官公庁ホームページの中身を、かなり絞り込んで検索できます。作者が提供する各種リンク(電子申請、司法制度改革など)を作成する際に利用しました。 ●総合案内クリアリングシステム/クリアリング検索 行政が保有する文書を検索できるらしいのですが、作者の使い方が悪いのか結果が「0件」ばかりで、全然利用していません。 ●全国自治体マップ検索 NIPPON-Netのサイトより。地方自治体のホームページ探しはこちらで。 ●地域発見 全国地方自治体ホームページの中身を検索したい時はこちら。作者が提供する申請書式ダウンロードは、このサイトで検索して作りました。 ●国会会議録検索システム その名の通り国会会議録が検索できます。使い勝手は良いと思います。 こうしてみると、電子政府に必要なサービス精神が、圧倒的に足りないようです。電子政府実現に関して、日本は米国とあまり差がないと言う人もいますが、こうした「意識」に関して大きな差があると言わざるを得ないように思います。 なのとかがんばって、サービス精神に溢れる電子政府・電子申請を、日本でも実現させたいですね。 (8)おまけ:子供向けページについて|目次へ 見るとけっこう楽しい子供向けページも少し紹介しておきましょう。こうしたページは情報公開・説明責任の観点からも非常に大切だからです。 子供向けだからといって侮るなかれ。実は大人にとってもためになる場合が多いのです(たぶん)。なぜなら、大人であるがゆえに、恥ずかしくて人に聞けないようなことを楽しく勉強できるから。 だいたい、自分が知らない分野の話は、理解に苦しむ場合が多い。「入門者向け」「基本の基本」と謳っていても、「なんやよーわからん」というケースがよくあります。 そんな時は、子供向けサイトを読んで基礎知識を身に付けておくと、他の大人に対して、さもよく知っているかのように話ができるのです(たぶん)。 ●環境庁:エコキッズ 「この指とまれ!エコキッズ」のキャッチフレーズは素直に楽しい。こう言われると、ついついとまりたくなっちゃうなあ。 ●官邸キッズルーム どうも政治の話は苦手という方に。だいたい政治の話は難しいので、作者はあまり関心がない。 ●子供のためのルールとマナー集 電子ネットワーク協議会による提供。政府系サイトではありませんが紹介します。インターネット初心者だけでなく、万人におすすめ。 |
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