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汎用システムに見る電子申請の課題と対策 2004年8月12日(更新:10月25日) Home >>> 論考・資料室 >>> 汎用システムに見る電子申請の課題と対策 |
汎用的な電子申請システムが抱える課題は深刻ですが、そこから学ぶべき点も多い。課題を整理し、対応策を考えることで、より良い電子申請への道が見えてきます。 | |
平成16年6月9日発表の総務省行政評価局による「電子政府の推進に関する調査(PDF)」を見ると、各府省の汎用的な電子申請システム(以下、「汎用システム」とします。)についての利用が進んでいない状況にあることがわかります。 そこで、改めて「汎用システム」の課題を整理し見つめなおすことで、より良い電子申請にするための方策を考えてみたいと思います。 1 広報活動の不足 そもそも電子申請サービスの存在を知らない人が、まだまだ多いとされています。様々なメディア、チャネルを利用したプロモーション活動が必要ですし、パンフレットの配布や説明会の実施など、地道な活動も大切です。 現在でも、広報活動がされていますが、非常に効率が悪く、的を絞れないまま漫然と行っている印象があります。 2 利用者のニーズや実状に合ったサービス提供 利用者である市民や企業のニーズを無視することはできません。特に電子化・オンライン化が望まれる手続を抽出した上で、本当に電子申請を行うべき手続を選択し集中することが必要です。 政府では、「年間の申請件数が多い手続について、電子申請の利用を推進する」としていますが、これではあまりにも短絡的です。申請件数は、電子化するべき手続を選択する際の、一つの要素に過ぎないからです。 最低でも、 年間の申請件数が多い手続の抽出>>電子化が望まれる手続の抽出>>電子化に馴染みやすい手続の抽出 といったプロセスは必要です。その際には、利用者の業種・スタイルやITリテラシー、手続で扱われる情報の性質などを考慮します。 ニーズと共に重要なのが、実状への配慮です。電子申請システムを考える場合、
は考えるのですが、その前後が考えらることがほとんどありません。 申請書を作成するためには、必要事項を埋めるための「情報」が必要になります。利用者のニーズを考えると言うことは、この「情報」の流れを探ることに他なりません。 つまり、その「情報」がどこから生まれ、どのように処理されているのかを考えることで、利用者の実状に合ったサービスを提供することが可能になるのです。 利用者において「情報」が電子データとして管理されているのであれば、その電子データがそのまま電子申請で利用できるようにする必要がありますし、紙文書として散在しているのであれば、入力を簡素化したり、スキャニング文書での提出を認めることも良いでしょう。 申請の結果として交付される許可書等の公文書が、営業所で保存・掲示しておけば良いものであれば、紙文書の交付で足りますし、取引先の企業や役所に提示・提出したりするものであれば、配付・閲覧・印刷に対応しやすい電子署名付きのPDFファイルとして交付するのが良いでしょう。 こうした実状への配慮がない電子申請は、「自分達のことしか考えない独り善がりの電子申請」となってしまい、利用される可能性が低くなってしまいます。 3 事前準備の簡素化 「汎用システム」を利用するにあたり、事前準備が面倒なのは致命的です。何しろ、利用しようと思ってくれた人を遠ざけてしまうのですから。 しかし、政府の方で 「事前の利用者登録:ID・パスワードの発行については、電子署名で本人確認ができるので、利用者登録をなくす方向で進めよう。」 としているのが気になります。この方向で進む場合、ID・パスワードで済んだ手続でも電子署名が必要になってきます。 そもそも「事前の利用者登録」や「ID・パスワード」というものは、本人確認だけのために使われるわけではありません。むしろ、「より良いサービスを提供するため」に使われているのです。 インターネット上で成功するサービスの中でも、「事前の利用者登録」や「ID・パスワード」を活用している例が多く見られます。つまり、「事前の利用者登録」をなくせば、利用者が増えるというわけではないのです。 事前準備の簡素化として、作者が考える対応策は、
4 インセンティブの提供 インセンティブとは、電子申請をより魅力的な存在にしてくれるものを意味します。 例えば、手数料や税金の割引・優遇制度です。わざわざ面倒な事前準備等をして、電子申請を利用してくれるのですから、金銭的な面で何らかのお得感が無いと、魅力に欠けます。 利用者から見ると、電子申請はコスト削減ではなく、新たな投資に他なりません。 電子申請を利用するためには、導入費用といった経済的なコストだけでなく、新しい方法を覚えて実践するという精神的なコストがかかるのです。ですから、投資(コスト)に見合った見返りがないことには、「実際の利用」とならないのです。 他のインセンティブとしては、添付書類の省略、許認可等の更新時における優遇措置(簡易な更新)などが考えられます。 そうしたインセンティブが多くなればなるほど、利用者から見た費用対効果は向上する(と期待させる)ので、利用してもらう機会が増えるでしょう。 5 利用者への支援・教育 利用者への支援・教育としては、ITリテラシーの向上施策、サポート体制の充実(Q&A、コールセンター、ヘルプデスク等)などがあります。 ITリテラシーの向上については、これだけインターネットユーザー数が増え、利用者層も多様化しているのですから、それほど大切であるとは思いません。民間企業等の努力により、今後も改善されていくでしょう。 それより深刻なのは、サービスを提供する役所の基本姿勢です。 電子申請を利用するためには、ある程度の知識が必要となります。現在の電子申請は、この必要とされる知識レベルが、一般的なインターネットユーザーが期待される知識レベルより高い位置に設定されています。 この問題は、オンラインサービスにおいては致命的ともいえる欠点であり、早急な改善が望まれるところです。少なくとも、オンラインショッピングやオンラインバンキング等が問題なく使えるユーザーであれば、ストレスや戸惑いを感じることなく利用できるようになる必要があります。 言い換えれば、電子申請を利用するために必要な知識レベルを下げることが、最大の利用者支援となるのです。 6 システムの改善 システムの改善としては、操作性の向上、ナビゲーション・検索機能の強化、情報提供(手引書など)の充実、完全オンライン化手続の拡充などがあります。 なかでも、ナビゲーション・検索機能の強化や情報提供の充実は大切です。なぜなら、電子申請を利用して困るのが、必要な「手続の選択」であり、選択した「手続の実施」だからです。 まず「手続の選択」ですが、これは自分にとってどの手続が必要なのか、どの手続が最良の選択肢なのかという問題です。 専門家の場合、まず初めに、依頼者からのインタビューや調査により、依頼者の抱える問題の本質を理解します。そして、この「問題発見」というプロセスこそ、専門家の力量が問われるのです。 電子申請システムに、こうした専門家の知識・能力を組み込むことは、あまり現実的な話ではありません。 なぜなら、最新の情報を基にした高度な判断力やコミュニケーション能力が必要とされるものなので、システム化するにはお金がかかるしアップデートも頻繁に行う必要が出てくるからです。 では、どうするかと言えば、入り口の部分で絞込みを行うのです。 例えば、「電子申告・納税システム」といった専用システムにしておけば、それだけで利用者と手続の対象が絞られることになります。利用者が抱える問題についても、今までのノウハウが蓄積されています。これだけで、「問題発見」がかなり容易になるでしょう。 これが、役所ごとに「汎用システム」が設置されるとなると、「問題発見」が非常に困難なものになります。 問題の所在がわからない段階で、申請先となる役所がわかるはずもないし、運よく申請先を見つけることができたとしても、何千何百とある手続の中から自分にとって必要な手続を見つけることは、相当に優秀なサポートシステムが無い限り、利用者にとって大変な労力となります。 電子政府の実現においては「選択と集中」が大切な要素とされていますが、何でもかんでも電子申請とすることは、役所にとっても市民にとっても混乱・困惑を生み出す結果となるのです。 次に「手続の実施」ですが、これは申請書の作成や添付書類の作成・収集を意味します。 現在の電子申請は、紙の様式・書式をそのまま電子化しているものが多く、必要な情報を入力することについて手続や法律の知識がないと、申請書や添付書類を完成させることができません。 少なくとも、ヘルプや入力補助機能が必要であり、様式・書式といった概念から脱却する必要があるでしょう。 オンラインショッピングでは、法律の知識が無くても買い物(売買契約)することができます。それは、電子申請でも同じことで、法律の知識が無くても手続を完了することができなければいけません。 申請書や添付書類の作成で利用者が理解に苦しむようであれば、それは役所の説明方法が悪いのです。文章・用語が難しい、構成がわかりにくい、説明が不足している等々。 電子申請においては、手続の簡素化・合理化が必要とされています。簡素化・合理化されない手続は、市民だけでなく、役所自身の負担となることを理解する必要があるでしょう。 7 他の事務処理システムとの連携 最後に、「他の事務処理システムとの連携」を挙げておきましょう。 連携には大きく分けて二つの意味があります。一つは、「利用者のシステムとの連携」であり、もう一つは、「役所内部の連携」です。 「役所内部の連携」は、ワンストップサービスとも関係するものですが、ここでは「利用者のシステムとの連携」のみ解説しておきましょう。 「利用者のシステムとの連携」とは、申請に必要となる情報(申請データ)を利用者が保有している場合、その申請データを日常的に管理しているシステムと連携させるということです。 例えば、電子申告をする際に、日常的に利用している会計ソフトウェアや申告書類作成ソフトウェアのデータを利用できなければ、「利用者のシステムとの連携がされていない」ことになります。 ここで重要なのは、仮に、電子申告に必要なデータ仕様を公開していても、一般的に利用されている会計ソフトウェアが電子申告に対応していなければ、それは「利用者のシステムとの連携がされていない」となることです。 つまり、 役所の視点: 利用者の視点: ということです。もし、電子政府の考え方を正確に理解してる役所であれば、 電子申告に必要なデータ仕様を公開しただけでは不十分である。少なくとも、良く売れている会計ソフトのベスト5ぐらいが電子申告に対応し、添付書類も郵送ではなくオンラインで受付けられる仕組みを作ってから、電子申告を開始しなければいけない。 と考えることでしょう。 これまで挙げてきた1から7の電子申請の課題は、実は、全て「電子政府をよく理解しない役所的な発想」から生まれてくるものなのです。 役所が、電子政府・電子申請の本質を理解し、利用者の視点を十分に考慮するようになれば、電子申請の課題は自ずと解決されていくことでしょう。 |
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