本ページは、作者(牟田)による私的メモである。最終更新:2007/3/23
はじめに | 投入資源(インプット)の調査と公開
電子行政サービスの評価 |
はじめに |目次へ
電子政府の評価については、多くの電子政府先進国や国際機関等で検討されている。
これらを理解し、実践する流れとしては、
とするのが良いだろう。
しかし、実際には「電子政府」というくくりだけでなく、社会・経済政策、IT戦略、IT投資管理(eガバナンス)、行政サービス、行政改革、行政経営、ガバナンス(いわゆる「ITガバナンス」ではなくて、「政府による統治のあり方・仕組み」といったより広い概念)などの観点から理解していく必要がある。
なぜなら、電子政府は、単なる情報化・電子化ではなく、構造改革であり、行政改革であり、組織文化、そして各人の意識の変革を目指すものだからである。
だからこそ、電子政府の評価は、単なるシステムの評価に終わることなく、政府(行政)の改革・変革のプロセスと成果を評価するものでなければいけない。
適切な評価体制を伴った政府による改革の意思表示と実践は、国民の支持を得ると共に、電子政府への信頼性を高めてくれるだろう。
評価実施時の注意点 |目次へ
評価を実践していく場合、次の3点に注意したい。
評価実施の流れ |目次へ
具体的には、次のような流れで評価していくことになる。
大切なのは、全体のバランスを考慮しながら、中・長期的な視点で、評価していくことである。
なぜなら、評価の対象となる施策等(体制と組織、インフラ、住民・企業向けサービス、行政業務システム、人材の育成と活用など)は、相互に関係し影響を与え合うものであり、限られた分野だけを短期的に見ていても、全体の底上げ、そして実際の利用・普及に繋がらないからである。
電子申請だけ、業務システムの最適化だけといった評価は、できれば避けた方が良い。
電子政府とは |目次へ
評価の対象が「電子政府」である以上、「電子政府」を簡単に定義しておこう。
電子政府は、およそ次の要素で構成される。
電子政府を評価する場合、1と2(4を含む)を中心としながら、3の要素を上手に取り込む必要がある。
つまり、
などをチェックしていくことになる。
参考:Assessing E-government progress? (PDF:ノルウェー・オスロ大学)|How to Evaluate E-Government? (PDF:国連)
電子政府がもたらす恩恵(利益、成果)とは |目次へ
電子政府がもたらす利益は、次のように分類できる。
電子政府の施策を評価する場合、基本的には、直接的な利益である1と2に重点を置くことになるが、3や4の視点からも施策の価値を判断する必要がある。
日本の電子政府は、コスト意識に欠けるものが多く、1と2の利益を軽視してきた。
政策的・戦略的に重要な施策ほど、費用対効果が考慮されない傾向にあるので、徹底的な費用対効果の検証から始めるのが良いだろう。
なお、電子政府の利益とコストについては、OECDによる「Proposal for Work on an Inventory of E-Government Business Case Indicators(wordファイル)」(2006年2月)が、先進国の比較を含め、より詳細に整理している。
日本の電子政府における評価対象とは |目次へ
電子政府を評価する場合、評価の対象は、いわゆる「IT投資・IT調達」に限らない。むしろ、まず基本となるのは、「体制と組織」や「人材の育成と活用」などへの評価である。
なぜなら、「体制と組織」や「人材の育成と活用」は、電子政府に対する「政府の本気度・実践度」を計る指標となるからである。「体制と組織」が不十分なままでは、IT投資・IT調達を適切に評価することもできない。
「体制と組織」や「人材の育成と活用」の評価については、投入資源(インプット)として、個別の電子政府施策の中で評価することも必要となる。
具体的な評価の対象と範囲は、政府が掲げる基本戦略や計画等を踏まえて、必要と思われるものを選び、その中で、相互の関連性に注意しながら、優先順位をつけていくのが良いだろう。
なお、情報セキュリティ関連については、別段の評価が必要となる。
IT新改革戦略|重点計画2006 | 評価のポイント(指標例) | |
体制と組織 | ・CIO連絡会議 ・PMO(プログラム・マネジメント・オフィス) ・電子政府推進管理室 ・電子政府評価委員会 ・電子政府利用推進員 |
・組織の種類(名称と所管) ・権限と責任 ・予算 ・人材(人数、専属、外部人材など) ・活動状況 ・実績 |
人材の育成と活用 | ・CIO補佐官の活用 ・「IT人材育成指針」の策定 ・自治体CIO育成研修カリキュラム |
・予算 ・民間人材の人数と配置 ・関連資格者の人数 ・プロジェクト管理者の人数 ・研修等の実施状況 ・官民学連携の実施状況 |
インフラの整備 | ・公的個人認証サービス ・住民基本台帳ネットワーク ・総合行政ネットワーク(LGWAN) ・霞ヶ関WAN ・政府認証基盤(GPKI,LGPKI) ・住基カード ・地域情報プラットフォーム ・次世代電子政府構築の検討 ・電子政府OSセキュリティ ・IPv6 ネットワーク整備ガイドライン |
・費用(構築、運用、将来予想) ・利用状況 ・利用者満足度(国民、行政) ・インフラ間の連携 ・代替手段の検討状況 |
電子行政サービスの実施 | ・オンライン利用促進行動計画 インセンティブ措置 登記(不動産、商業登記) 全国登記所のオンライン化 国税 社会保険・労働保険 ・自動車保有関係手続 ・電子政府の総合窓口(e-Gov) ・電子自治体オンライン利用促進 地方税の電子申告 ICカード活用の公共サービス 公的個人認証対応の電子申請 ・地理情報システム(GIS)の利用 |
・実施体制(所管、人材) ・費用(構築、運用、将来予想) ・利用状況(件数、利用率) ・利用者のコスト(時間、費用) ・利用者満足度(国民、行政) ・利用者の参加度 ・インセンティブ措置と効果 ・広報の実施と効果 ・サービス間の連携・統合 |
業務・システムの効率化 | ・レガシーシステムの見直し ・業務・システム最適化計画(地方、国) ・各府省共通システムの共同利用 ・地方公共団体への調査・照会業務 ・地方公共団体のデータ標準化 ・共同アウトソーシング推進(地方) ・独立行政法人等の最適化 ・地域情報化ナレッジベース |
・実施体制(所管、人材) ・費用(構築、運用、将来予想) ・削減コスト(時間、人件費) ・スケジュールの管理 ・品質の管理 ・利用状況 ・利用者満足度(行政) ・利用者の参加度 ・システム間の連携・統合 |
電子取引 | ・情報システム政府調達の基本指針 ・電子入札の推進 |
・費用(構築、運用、将来予想) ・利用状況(件数、利用率) ・利用者のコスト(時間、費用) ・利用者満足度(国民、行政) ・利用者の参加度 ・競争性の向上(地域、参加企業数) ・収益性の向上(落札率・価格) ・品質の向上(工事、サービス) ・透明性の向上(談合・不正取引率) ・サービス間の連携・統合 |
評価手法、評価指標の決め方 |目次へ
IT投資や電子政府の管理・評価について、日本は、まだ未成熟であり、体制も整っていない。そうした状況の中で、いきなり複雑な評価手法や指標を採用しても、十分に使いこなすことは難しく、文書の作成・管理・修正に追われることになる。
身の丈にあった評価で、確実にPDCAを回していくことを心がけたい。
日本語の資料としては、
平成17年度調達モデル研究会 報告書
http://www.nmda.or.jp/choutatsumodel/index3.html
具体的な指標例が提示されている。地方自治体向けであるが、国の電子政府評価でも使える。
PRMを用いたITポートフォリオモデル活用ガイド・サマリー
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ea/data/report/r21/index.html
米国政府の手法を基礎とした業績評価のガイドブック。
などがあり、これらを実践・応用していくことで、一通りの評価はできるだろう。
マーケティングの観点からも、「利用者の参加度」などは大切にしたい。
なお、IT新改革戦略で掲げる評価指標は、次の通り。
作者が重要と考えるのは、今まであまり考慮されてこなかった「申請者が要する時間・費用」であるが、大切なのは、利用者の視点で時間と費用を算出することである。
参考として、パスポート電子申請の例を挙げておく。
参考:IT投資対効果に関する調査報告書|ITIM (Information Technology Investment Management) 2004年3月改訂版(バージョン1.1)|FEA Reference Models |Government Auditing Standards(米国政府監査基準)|パスポート電子申請の停止について
評価と指示の種類 |目次へ
投資内容、経過、成果等を踏まえて行う評価と指示は、次のように分類できる。
2までが合格ラインであり、3以下は不合格となる。3と4は、会社で言えば、事業整理や企業再生にあたる。
4については、他の電子政府施策に与える影響も考慮する必要がある。特に、インフラ(住基ネット、公的個人認証サービスなど)の廃止は、他のシステムやサービスに与える影響も大きいので、代替措置等の検討を十分に行うこと必要である。
作者が勧める電子政府施策の展開は、
電子申請サービスを例にすれば、利用者の厳しい目に触れ、高い満足度を維持し、競争に勝ち残ったものを、電子申請サービスの標準とするのが良い。
サービスのあり方は、国民や市場が決めるものである。
「電子署名」が電子申請の利用を妨げていると言われるのは、「電子署名」が良くないからではない。「市場や国民の意向を無視して、電子署名の利用を押し付ける」のが良くないのである。
国民が求めているのは、電子署名や電子申請ではなく、「安心して利用できる便利なサービス」であることを理解したい。
参考:オンライン利用促進のための行動計画|e-Gov電子申請システム|国税電子申告・納税システム(e-Tax)のアンケート実施結果
投入資源(インプット)の調査と公開 |目次へ
電子政府を実現するためには、お金がかかる。税金を投資するからには、それに見合う価値(成果)を生み出すことが要求される。
投資 → 計画 → 実行 → 結果 → 成果 → 改善
といった流れの中で、投入資源がわからないと、効果測定や評価はできない。
資源と言えば、「人・物・金」であるが、電子政府の評価では、「お金」と「時間」に焦点を当てたい。時系列でお金の流れを整理することで、費用対効果を測定し、今後の展開を予想できるからである。何より、誰が見てもわかりやすい。
例えば、ある電子申請サービスについて、次のように整理されたデータがあれば、評価しやすくなる。こうした情報を公開すれば、国民への説明責任にも貢献できる。
年度 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006(予想) | 2007(予想) | 2008(予想) |
段階 | 開発 | 実証 | 一部運用 | 本運用 | 運用 | 運用 | 運用 | 運用 |
投資金額(予算) | 30億円 | 10億円 | 15億円 | 10億円 | 5億円 | 5億円 | 5億円 | 5億円 |
一件あたりの金額 (紙申請:2500円) |
- | - | 300万円 | 50万円 | 10万円 | 7.1万円 | 5万円 | 2万円 |
利用件数 | - | - | 500件 | 2000件 | 5000件 | 7000件 | 10000件 | 25000件 |
利用率 | - | - | 0.1% | 0.4% | 1.0% | 1.4% | 2.0% | 5% |
認知度 | - | - | 5% | 7% | 10% | 20% | 35% | 50% |
満足度 (民間平均:67点) |
- | 40点 | 50点 | 50点 | 55点 | 60点 | 65点 | 70点 |
宣伝・販促費 | 0.1億円 | 0.2億円 | 1億円 | 1.5億円 | 2億円 | 2億円 |
「お金」や「利用件数・利用率」と言った誰でも理解できる指標と、利用者の視点に立った指標(認知度、満足度)を対比させることで、「どれだけ国民に利便性をもたらしているか」、あるいは「どれだけ無駄に税金が使われているか」が明らかになってくる。
評価の重要な判断材料である投入資源(インプット)の指標は、
・費用対効果がわかるもの
・問題点の発見に繋がるもの
・国民が知りたいもの、国民の理解を助けるもの
・担当職員やCIO補佐官等が伝えたいもの(失敗の理由など)
などの観点から選んでいくのが良いだろう。
参考:高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する予算|予算及び決算の概要|みえ政策評価システム|各府省等におけるコンピュータシステムに関する会計検査の結果(PDF:18年10月25日報告) (全文PDF)
利用者満足度の共通化・標準化 |目次へ
利用者(国民、行政職員など)の満足度は、認知度と共に、重要な評価指標となる。
電子政府先進国と言われる国では、利用者満足度等の調査結果を踏まえて、地道にサービスを改善する努力を怠らないのである。
日本の場合、平成17年度電子政府基本調査結果によると、電子申請の利用者満足度調査を行っている省庁は、わずか2割程度となっており(ホームページの満足度調査でも約3割)、評価うんぬん以前のレベルにあるのが現状と言えるだろう。
まずは、満足度、認知度、期待度(重要度)など、国民が電子政府についてどのように思っているかを、電子政府推進キャンペーンの一環として、国全体で、定期的に調査することから始めたい。その際には、最低でも1年に一回、できれば1年に数回行うのが良い。
米国では、電子政府サイトの満足度を、四半期ごとに行い、その結果を民間サービスと比較できるようになっている。
日本でも、代表的な電子政府サイトや重点的に推進したいサービスを選び、定期的に満足度等を計測し、公開し、向上させる努力を続ける必要がある。
なお、当然ながら、利用者の満足度等を把握することさえせずに、利用率の低迷を続けるなど、成果を上げられない施策・サービスには、厳しい評価と措置が下されることになる。
日本でも、電子申告における取組み(国税電子申告・納税システムのアンケート実施結果)のように、少しずつであるが利用者満足度等の測定・分析が行われるようになった。地方支局等による取組み(道路占用許認可申請の電子化の現状と課題)も注目に値する。
こうした取組みの如何によって、今後は「使われる電子申請」と「使われない電子申請」の格差が広がっていくと思われる。
参考:AmericAn customer sAtisfAction index:e-Government sAtisfAction index (2006年3月)(米国)|e-Government Customer Perception Survey Conducted in 2006 (For Year 2005)(シンガポール)|Australians’ Use of and Satisfaction with e-Government Services(オーストラリア:2005年)|道路IR・利用者満足度(国土交通省道路局)|市民満足度等に関する調査報告書(藤沢市)|公共サービスの改革に関する特別世論調査(内閣府:PDF)|社会保険庁:電子申請に関するアンケート結果(平成18年度電子政府利用促進週間に実施)について|パイロット調査の結果、オンライン利用申請に係るアンケート結果(電子政府評価委員会第7回)
体制・組織の評価 |目次へ
インフラの評価 |目次へ
情報・技術系のインフラ:お金と技術力が物を言う。投資戦略が難しく、負の遺産となるリスクが大きい。
組織・文化系のインフラ:国の歴史、法制度、国民性、文化背景などに配慮が必要。
電子行政サービスの評価 |目次へ
電子行政サービスの評価は、手続や行政機関ごとではなく、利用者視点で考えた「サービス」ごとの評価をするようにしたい。
例:不動産登記に関するサービス、税務に関するサービスなど
また、各サービスとの関連性・相互依存性を明確にする必要があるが、これも「利用者の視点」で整理するようにする。
例:会社設立時の手続、家を買ったときの手続、引っ越したときの手続など
しかしながら、最初から全部できる「ワンストップサービス」を目指す必要は無い。特に申請者の負担となっている部分からサービスを実施することで、失敗や過大投資のリスクを減らしつつ、シンプルでわかりやすいサービスを実現できるからである。
具体的な調査項目・評価指標としては、
・サービスごとの年間予算(うちオンライン化にかかる予算)
・公務員(非公務員)数、役所の数
・主なサービス利用者
・利用状況
・利用者視点の手続フロー(申請者が要する費用・時間)
・利用者の満足度(不満を感じる点)
・利用者の参加度
・インセンティブ措置と効果
・広報の実施と効果
・サービス間の連携・統合
などが挙げられる。(作者が提案する電子政府・電子申請サービスの評価指標も参考にして欲しい。)
上記の項目を、紙とオンラインの両者について調査し整理する。その結果、
・予算の妥当性
・サービスの必要性
・サービスの品質
・利用者ニーズとのギャップ
・手続簡素化の可能性
が見えてくるので、それらを踏まえて今後の展開を決めれば良い。
参考>>住基カード:約91万枚(18年3月)|公的個人認証:約10万4千枚(17年11月)
分野 | 手続 | システム | 年間件数 | 利用率 16年 |
17年 | 受付時間 | 署名 | 添付 | ソフトウェア | その他 |
登記 | 不動産登記申請 | 法務省 オンライン申請システム | 14,119,000 | 2.00% | 平日8:30-20:00 | ○ | ○ | 登記申請書作成支援ソフト | 登記識別情報 | |
登記 | 登記事項証明書の送付請求(不動産) | 法務省 オンライン申請システム | 284,049,000 | 8.43% | 11.24% | 平日8:30-20:00(19:00) | × | × | 登記申請書作成支援ソフト | 登記情報提供サービス |
登記 | 商業・法人登記申請 | 法務省 オンライン申請システム | 2,120,000 | 0.73% | 1.08% | 平日8:30-20:00 | ○ | ○ | 登記申請書作成支援ソフト | |
登記 | 登記事項証明書の送付請求(商業) | 法務省 オンライン申請システム | 77,510,000 | 8.35% | 11.70% | 平日8:30-20:00(19:00) | △ | × | 登記申請書作成支援ソフト | 登記情報提供サービス |
登記 | 登記事項証明書の送付請求(成年後見) | 法務省 オンライン申請システム | 897,000 | 6.01% | 43.76% | 平日8:30-20:00 | ○ | ○ | ||
税務 | 国税申告手続 | 【e−Tax】国税電子申告・納税システム | 26,541,000 | 0.20% | 0.41% | 平日9:00-21:00(申告期延長あり) | ○ | ○ | e-Taxソフト | アンケート結果 |
社会・労働保険 | 健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届 | 厚生労働省電子申請・届出システム | 33,055,000 | 0.00% | 0.00% | 24時間365日 | ○ | × | ||
社会・労働保険 | 雇用保険被保険者資格取得届 | 厚生労働省電子申請・届出システム | 7,225,000 | 0.02% | 0.05% | 24時間365日 | ○ | ○ | ||
社会・労働保険 | 概算・増加概算・確定保険料申告書 | 労働保険適用徴収・電子申請 | 1,926,000 | 0.02% | 0.06% | 24時間365日 | ○ | × | ||
社会・労働保険 | 自動車の新規登録、新規検査 | 自動車保有関係手続のワンストップサービス | 3,500,000 | 0.01% | 24時間365日 | ○ | ○ |
サービスが利用されない理由は、
などが考えられる。各項目で合格点が取れないと、実際の利用は進まない。残念ながら、現在のオンライン行政サービスで、合格点を取れているものは、ほとんど無いというのが現実だろう。
合格点を取るためには、企画等の初期段階から、利用者を参加させることが大切である。利用者参加を経ないで作成された基本仕様書の多くは、そのサービスが利用されないことを確信させるものである。
なお、平成17年度電子政府基本調査結果によると、情報システムを導入/再構築する際の「業務の見直し」について、8割以上の省庁が、把握・評価をほとんど又は全くしていないとなっている。
公共サービスの改革に関する特別世論調査(PDF)を見ても、多くの国民が「手続の簡略化」を望んでいることがわかる。
電子申請の「利用率」は評価指標として大切であるが、「手続や添付書類の廃止・簡略化」については、「利用率」以上に高い評価を与えなければ、「業務の見直し」が進まないことになる。
また、国民だけでなく、行政職員に対して、どのようなインセンティブを提供できるかが、電子行政サービス向上の鍵となる。
評価項目 | 重要度 | 現状 | 評価のポイント |
手続きの廃止 | A | △ | 利用者(国民、行政職員)の負担を軽減する最も有効な措置で、高く評価する必要がある。 |
添付書類の廃止 | A | × | 利用者の負担を軽減し、オンライン化を実施しやすくなるので、高く評価する必要がある。 |
添付書類の一部省略 | C | △ | 利用者の負担があまり軽減されない場合も多く、評価にあたっては注意が必要。 |
利用者作業数(ステップ)の削減 | B | × | 5ステップぐらい(アクセス、選択、記入、確認、送信、結果通知)で完結できることが理想で、10ステップ以上はマイナス評価としたい。 例:不動産登記の電子申請では30近くの作業が必要となっている。 |
利用者作業時間の削減 | B | × | 作業数と関係が深いが、作業数が少なくても、一つの作業に多大な時間を必要とすれば、利用者の負担は大きい。各ステップにかかる平均時間から、利用者が費やす総時間を算出する。 |
処理時間の削減 | B | × | 利用者作業時間+処理時間=「サービスの開始から完了までの時間」となる。行政事務処理の効率化・電子化と関係が深く、処理時間の目標値を定めることで(品質を落とさないことが条件)、業務改革が促進される効果もある。即日〜1週間以内が許容範囲であり、10営業日以上はマイナス評価としたい。 例:国税申告手続(電子申告だと還付が6週間から3週間になる予定) 例:特殊車両通行許可申請(紙だと3週間かかるが電子だと最短で4日間) |
書類記入の簡素化 | C | △ | 申請者情報以外は、原則として選択性とすることが望ましい。同じことの複数回記入、一般的でない表現や用語の使用、小さすぎる文字や記入欄などは、マイナス評価となる。 |
提出方法の選択肢 | C | △ | 窓口提出(持参)、郵送、インターネット(ウェブ、電子メール)など。選択肢が多い方が良いが、セキュリティへの配慮(郵送時の紛失など)が必要。窓口提出(持参)、郵送、インターネット(ウェブ、電子メール)、電話など。費用対効果の高い方法への誘導、使われない選択肢の廃止・統合なども大切。 |
受付窓口の統合化 | B | △ | 一つの窓口で提出すれば済み、かつ最寄の窓口で提出できるのが良い。同じものを複数の行政機関に提出する、地域によって提出窓口が異なる、などはマイナス評価となる。 |
「手続や添付書類の廃止・簡略化」の多くは、オンライン化と関係なく、紙の手続きでもできる。紙で出来ることを徹底的にやってから、オンライン化するようにしたい。つまり、行政手続の最適化(全体・個別)が不十分と言うことである。
現状を見ると、どれも改善の余地が多く、「使ってもらえる」レベルに達していないと言えるだろう。
なお、利用促進のインセンティブについては、電子申請のインセンティブを参照してください。
参考:行政手続オンライン化法第10条に基づく公表(実施・利用状況)|オンライン利用促進のための行動計画(重点分野と手続、対応策など)| 「公共サービスの世論調査」から学ぶ、電子政府サービスのあり方|電子政府・電子申請サービスの評価指標
業務システム最適化の評価 |目次へ
現在の課題は、
その結果、
といったことになっている。
が必要である。
利用者の参加度(企画、設計、テスト、実施、事後評価など)
・システム最適化→人事システム(各省庁の人事担当者が参加するべき、SLAの要件定義)
現在までの実施状況や評価(課題、対策など)は、次の資料が参考となる。
・府省共通業務・システム及び一部関係府省業務・システムの平成17年度最適化実施の評価結果(案)
・個別府省業務・システムの平成17年度最適化実施の評価結果
・府省共通業務・システム、一部関係府省業務・システム及び個別府省業務・システムの平成17年度最適化実施状況報告書
参考:業務・システム最適化実施の評価指針(ガイドライン)(PDF) |OMB EA Assessment Framework Version 2.0|崖っぷち!電子政府〜迷走する4500億円プロジェクトの行方(ITmedia)
電子入札・調達の評価 |目次へ
参考資料 |目次へ
(1)電子政府に関する戦略、マネジメント、ガバナンス
Singapore i-Government
http://www.igov.gov.sg/
シンガポールの電子政府新戦略。
Government On-Line 2006
http://www.gol-ged.gc.ca/rpt2006/rpt/rpttb_e.asp
カナダ政府による電子政府の2006年度報告。マネジメントや組織連携などの手法を紹介。
(2)利用者の調査(顧客満足度、認知度、期待度など)
e-Government Customer Perception Survey Conducted in 2006 (For
Year 2005)
http://www.ida.gov.sg/idaweb/factfigure/infopage.jsp?infopagecategory=&infopageid=I3845&versionid=7
シンガポール政府による電子政府利用者調査レポート。
利用する人、利用しない人の理由や特性がわかる。
E-government Benefits Study
http://www.agimo.gov.au/government/benefits_study
オーストラリア政府による電子政府がもたらす恩恵(利益、メリット)の調査レポート。
(3)EA関連
EAの構築やIT調達の管理・評価については、経済産業省や関連機関等の調査・研究により、日本語でまとめられた資料が数多く提供されているので、参考にすると良い。しかしながら、代表的な文献については、原文(英語)を読んで理解を深めたい。
EAポータル
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ea/index.html
経済産業省によるEA関連の情報サイト。
ここにある報告書を一通り読めば、EAの概要からマネジメント、評価等が理解できる。
Consolidated Reference Model (CRM) Version 2.0
June 2006.
http://www.whitehouse.gov/omb/egov/a-2-EAModelsNEW2.html
BUSINESS REFERENCE MODEL (BRM)
Services for Citizens
http://www.whitehouse.gov/omb/egov/a-3-2-services.html
(4)IT投資・調達(運用・管理・評価)
PRMを用いたITポートフォリオモデル活用ガイド・サマリー
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ea/data/report/r21/index.html
米国政府の手法を基礎とした業績評価のガイドブック。日本の電子政府については、これを実践していくのが良いだろう。
ITIM
(Information Technology Investment Management) 2004年3月改訂版(バージョン1.1)
A Framework for Assessing and Improving Process Maturity
米国政府機関(GAO)によるIT調達の管理手法ガイド。
関連>>IT投資効果を見極めるための努力(NTT DATA)|ITIM(ITpro 電子行政 用語解説)
OGC - Home
Programme and Project Management
http://www.ogc.gov.uk/index.asp?id=377
英国政府による政府調達の管理手法と事例。
OGC - IT Infrastructure Library (ITIL)
http://www.itil.co.uk/
英国商務局(OGC : Office of Government Commerce)による、ITサービスの管理・運用ガイドブック(事例集)。認証・資格ビジネス化しており、関連資料は原則として有償提供となっている。
関連>>運用管理のベストプラクティス集「ITIL」とは何か?(ITmedia)|ITIL
(@IT 情報マネジメント用語事典)
カナダ予算庁(TBCS)
Benchmarking e-Government in Europe and the US
Published 2003 by RAND
The 2005 e-readiness rankings
A white paper from the Economist Intelligence Unit
Digital Governance in Municipalities Worldwide (2005)
A Longitudinal Assessment of Municipal Websites Throughout the
World
AmericAn customer sAtisfAction index e-Government
sAtisfAction index
mArch 21, 2006
E-Strategies MONITORING AND EVALUATION T OOLKIT
World Bank
January 2005
http://www.worldbank.org/ict/
OVERARCHING REGULATORY IMPACT ASSESSMENT
Twenty Five Steps to Successful e-Governance
OECD E-Government Project
Proposal for Work on an Inventory of E-Government Business Case
Indicators
6 February 2006
Federal Enterprise Architecture Program
EA Assessment Framework 2.0
December 2005