社会保障・税番号要綱、プライバシー専門家の影で政府は笑う

番号制度についてツイッターで議論していて、何となくわかってきたことがあります。

それは、「政府の方が一枚上手」ということです。

プライバシーの専門家が、プライバシー保護のための主張をするのは当然のことです。彼らの努力があってこそ、インターネットにおけるプライバシー保護が発展してきたのですから。

そんな彼らの思惑とは別のところで、政府は「プライバシー専門家を満足させつつ、自らの目的を達成する」ために、着実に動いているように思います。

まず、政府にとっては、番号制度は手段に過ぎません。「財政再建を含む社会保障と税制度の抜本的な改革」が、政府の目的と考えましょう。財務省、厚生労働省、総務省あたりの意向が強そうです。

ですから、政府にとって使えそうな番号制度であれば支援し、そうでなければ早々に見切りをつけて、あっさり捨て去ることでしょう。

以前、社会保障と税の番号制度、国民ID制度、アイデンティティ連携、議論がかみ合わない理由で、「識別番号連携」と「アイデンティティ連携」について整理しました。これを書いたときは、IDコードも「識別番号連携」かなと思っていたのですが、その後の具体的なイメージから判断するに、いちおう「アイデンティティ連携」の話のようです。

「識別番号連携」と「アイデンティティ連携」の比較表で書いたように、「社会保障と税の番号」は「識別番号連携」の話です。つまり、「番号」をキーにして名寄せできると。これに対して「IDコード」は「アイデンティティ連携」です。IDコードという識別子を基礎として情報連携を実現しつつ名寄せを防ぎます。

プライバシーの専門家から見ると、上記の比較表からもわかるように、「アイデンティティ連携」は非常に好ましい仕組みです。「そもそも番号などいらない」といった意見も当然のことです。

他方、「識別番号連携」については、かなり慎重な姿勢を取ります。分野別の番号(納税者番号や社会保障番号)はまあ許すとしても、多分野を網羅するような共通識別番号の存在は、プライバシーや行政による一元管理のリスクを高めるとして、まず許してくれません。

ところが、「識別番号連携」と「アイデンティティ連携」は両立できます。フラットモデル(共通番号制度)を採用している国でも「アイデンティティ連携」を活用しています。個人的には、「フラットモデル+アイデンティティ連携の活用」が好ましいと考えています。

さて、この「識別番号連携」と「アイデンティティ連携」が両立できるということは、別の見方をすれば、「アイデンティティ連携が機能しなくても、識別番号連携は困らない」とも言えます。

例えば、政府が達成したい目的にとって、「社会保障と税の番号が機能すること」がより重要であり、「IDコード」は別にあっても無くてもどっちでも良いと考えた場合、「IDコード」を捨て去ることができるのです。「とりあえず作って使われなくても放置しておけば良い」のです。

そんなことを考えながら、番号制度 番号連携イメージ(PDF)を見てみましょう。このイメージ図から、「IDコード」とそれを前提とするものを捨て去ってみてください。情報連携基盤、リンクコード、マイポータルが消えます。残ったのは、各情報保有機関の「(社会保障と税の)番号」や「利用番号」たちです。

社会保障・税番号要綱を読み解くと、「IDコード」や「情報連携基盤」が無くなっても、「(社会保障と税の)番号」が機能するようにしていることがわかります。

例えば、「V 情報連携」の「1.「番号」に係る個人情報の提供等」には、こんな記述があります。

(2)情報保有機関は、情報連携基盤を通じて、他の情報保有機関の保有する情報の提供を求めることができることとし、自己の保有する情報の提供を求められた情報保有機関は、当該情報を情報連携基盤を通じて提供するものとする。

ところが、この注意書きとして

『制度上情報の共有が想定されており現に書面又は電子的手法を通じて情報共有がなされている場合等、個別の事情を踏まえた取扱いについても検討する。』

があります。国税庁と市町村の税情報のやり取りなどを想定したものと思いますが、この場合、「個別の事情を踏まえた取扱い」として「情報連携基盤を通じない情報提供の方法」が検討されることになるのでしょう。

同じく「V 情報連携」の「2.情報保有機関が保有する本人確認情報の住基ネット情報との同期化」も注目です。

同期の方法が明らかではありませんが、いずれにしても「情報保有機関(ほとんどの行政機関)」であれば、住基ネットの4情報を問い合わせることができます。つまり、ほぼ全ての行政機関が住基ネットに繋がるということです。民間機関が住基ネットに4情報を問い合わせることができるようになるとは考えにくいので、「行政機関における最新4情報の共有」と理解して良いでしょう。もちろん、政府としては、「IDコードや情報連携基盤に依拠しない方法」で同期できるようにしたいのだと思います。

ということで、最新4情報を共有した行政機関による「社会保障と税の番号」の名寄せシステムは、着実に構築されていくのでした。

「社会保障・税番号要綱」を作成した官僚は、やっぱりすごいわ