パンダデート:出会い 作:牟田学
僕が彼女と初めて出会ったのは
上野動物園のパンダコーナーだった。
新しく買ったデジカメで、無性に何か撮りたくなった時
ふと、学生時代のデートで見たパンダを思い出した。
パンダってこんなにかわいかったっけ?
そう感動したのを、今でもはっきり覚えている。
だから、仕事で外出したついでに
上野動物園まで足を伸ばしてみたんだ。
やっぱりパンダはかわいい。
そう思って写真を撮っていると
一人の女性がパンダを見ていることに気がついた。
その女性は、飽きる様子もなく、ずっとパンダを見ている。
あんまり熱心に見ているので
平日の昼間から若い女性が一人でパンダを見ているという
一般的に考えれば、相当に不自然な状況は気にならなかった。
それどころか、この人はパンダが好きなんだなあ
と素直に感心したものだ。
気がつくと、パンダじゃなくて彼女の写真を撮っていた。
パンダを見る彼女は、なぜかとても魅力的に映る。
今にして思えば、パンダを見る彼女から
パンダオーラが出ていたからだと思う。
つまり、彼女自身が魅力的な女性というわけではなくて
パンダから可愛いオーラを分けてもらっているということだ。
その証拠に、彼女のルックスはせいぜいが中の中ぐらいだ。
いや、見方によっては中の上かもしれない。
なんて思っていることは、彼女にはもちろん内緒にしている。
パンダオーラに刺激されたせいかわからないが
僕は思い切って彼女に声をかけてみた。
言っておくが、本来の僕は
見ず知らずの女性に声をかけるほど軽い男ではないし、
そもそもそんな勇気もない。
でも、声をかけてしまった。
勝手に写真を撮ってしまった後ろめたさもあったのだろう。
「パンダ好きなんですか?」
「おしり」
「えっ?」
パンダを見ながら、彼女は確かに「おしり」と言った。
「おしりが好きなの」
「はあ・・・」
この人は、おしりフェチなのか。
そう言えば、以前付き合った女性は相当なおしりフェチで
ことある毎に私のおしりを触りたがった。
そんなことまで思い出してしまった。
「背中もいいわね」
「たしかに」
この辺りから、僕にも余裕が出てきた。
今度は僕から
「ぷよぷよのお腹はどう?」
「たまらないわ」
そう答えながら、ようやく彼女は僕の方を見てくれた。
いたずらっぽい笑顔も浮かんでいる。
それを見て、やっと僕もホッとできた。
後でわかったことだが、「おしり」と答えたのは
彼女なりのテストだったらしい。
何のテストかと言えば、「パンダ好き好きテスト」。
果たして僕が、どれだけパンダが好きかということを試したわけだ。
で、どういう基準だかわからないが
今もってホントにさっぱりわからないが
そのテストに僕は合格したらしい。
その時以来、毎月の第一月曜日に
僕たちはパンダデートをすることになった。
なぜ月曜日かと言えば、
二人とも人ごみは苦手だったし
仕事の関係で平日の方が都合が良いからだ。
なんと言っても、大好きなパンダを
時間をかけてゆっくり見ることができる。
そんなわけで、どちらかと言えば平凡な僕の生活に
パンダデートという密かな楽しみが一つ増えたんだ。
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