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パンダデート:キス

作:牟田学

彼女も僕も、お互いイイ大人である。

イイ大人がパンダデートをする時点で

精神年齢が低いと言えなくもないが

社会人であり、いくらか年を食っている分

それなりの人生経験もある。

だから、彼女と僕が

いわゆる男女の関係と言うヤツになる可能性は

十分にあるわけだ。


しかしながら、彼女と僕は

パンダデートを軸にした関係なので

そうしたこととは無縁である気もする。

これが、OLとその上司であれば

仕事の後、食事してお酒飲んで

酔った勢いでそのままホテルへ・・・

などどいうことは、まあ良くあることであろう。

ところが、パンダ見て、あんみつ食べて

となれば、ホテルのホの字も出てこないというものだ。

ある意味、中学生のデートより健全なのではないか。

さて、そんな僕らであるが

僕は彼女に一度だけキスをしたことがある。


その日の彼女は、いつになく元気ハツラツだった。

最初は、今日は元気だなあと思っていたのだが

どうやらそれがカラ元気であるとわかった時

僕の方では、どうしたものかと戸惑ってしまった。


柄にもなく、何か優しい言葉でもかけるべきなのか。

いや、何かウソっぽい感じがして気乗りしない。

僕もカラ元気を出して、彼女と一緒にはしゃぐべきなのか。

いや、それでは虚し過ぎて、あまりにも滑稽だ。

彼女を抱き寄せて、キスでもするべきなのか。

うん、これだ。彼女とキスするべきなのだ。

この時の僕は、どうにかしてたらしい。

混乱する頭で搾り出した数少ない選択肢の中で

大胆にも、「キス」を選んでしまったのである。


ところが、キスなんてものは

さあキスするぞと、あらかじめ覚悟を決めてするものではなく

その場の雰囲気で、まあ何となくというのが通常であろう。

少なくとも僕の場合はそうだ。

だから、キスをしなければという状況にいるだけで

息が詰まりそうになってしまう。


彼女は僕のすぐ隣にいる。

僕に寄り添うようにしてパンダを見ている。

はたから見れば、恋人同士に見えるだろう。

キスぐらいしても何の不思議もない。

そう自分に言い聞かせながら

おもむろに彼女の肩を抱き寄せ

キスをするべく彼女の顔を覗き込んだ。


ところが、ここで予期せぬ事態が起きてしまった。

彼女が、覚悟を決めた顔であったならば

僕も心置きなくキスができたであろう。

彼女が、ビックリした顔であれば

ビックリしたついでにキスぐらいと思えたであろう。

しかし、その時の彼女は、

覚悟を決めるでもなく

ビックリするでもなく

ひどく悲しそうな顔をしていたのである。


そんな彼女の顔を見た僕は、

もはや、キスなどできる状態にはなく

「そろそろ帰ろうか」 という、

ひどく間抜けな言葉を発していたのである。


そう。僕は彼女に一度だけキスをしたことがある。

というのはウソであって

僕は彼女に一度だけキスをしようとしたことがある。

というのが真実である。

早い話が、未遂で終わってしまったということだ。

僕に度胸がなかったと言えばそれまでだが

この結果に、なんとなく僕は満足している。

あの時、キスをしなかったからこそ

いまだパンダデートが続いている気もするから。

やはり、キスなんてものは

したくなった時に自然としたいものだから。

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