世界で採用される電子政府の評価指標、日本に足りないものは何か

The UNDESA Meeting on E-Participation and E-Government (PDF)

国連による、「電子政府と電子市民参加(立法や行政への住民参加)」に関する報告書です。

これまでの世界各国における電子政府の取組みを理解できる内容で、評価指標(ベンチマーキング:指標、基準)についても紹介されています。

その中で、”Calculated Indicators Used in e-government Benchmarking”という図表には、次の4つの指標が挙げられています。

1 費用対効果(Benefit/Cost Ratio)
2 ニーズとの合致(Demand/Supply Match)
3 サービスレベルの比較(Comparative Service Development)
4 電子政府やICT活用に関する国際ランキング(National Ranking)

今回は、「費用対効果」と「ニーズとの合致」に焦点を当て、日本の電子政府が置かれている状況と、今後の課題を考えてみたいと思います。

●費用対効果(Benefit/Cost Ratio)

例:期待される財政上の利益(インパクト)/費用(コスト:インプット)

電子申請や電子申告といった電子政府サービスでは、ようやくシステム関連の費用が明らかになってきた段階であり、費用対効果が明らかにされていません。

ただし、業務・システムの最適化では、実施した場合と実施しなかった場合を比較することで、効果(削減される時間と費用)が算出されるようになっています。

電子申請システムなどで実施されている「申請1件あたりのコスト」が公表されるようになったことは非常に良いことですが、そのこと自体は「初めの一歩」に過ぎません。

今後は、「本当のコスト」を明らかにする必要があるでしょう。

「本当のコスト」を明らかにすることで、紙申請との比較が可能になり、電子申請が行政事務の効率化に役立っているのか、それとも行政職員の負担を増やしているだけなのかといったことがわかるようになります。

この件については、別ブログで改めて解説したいと思います。

また、「削減される時間・費用」といった消極的な評価指標だけでなく、「獲得できる利益(経済的な効果:創出されるビジネス市場規模など)」といった積極的な評価指標を取り入れることで、電子政府本来の価値が見えてきます。

●ニーズとの合致(Demand/Supply Match)

例:実施される電子政府サービスが、利用者のニーズに応えているか。

日本における電子政府サービスでは、利用者のニーズに応えるというよりも、オンライン化・電子化すること自体が優先されてきました。こうした傾向は海外でも(例えば英国など)見られるものですが、日本の場合はその度合いが強かったと理解して良いでしょう。

現在は、「オンライン化率」から「オンライン利用率」に注意が移ったのですが、それにより「利用者のニーズ」に応えるようになったわけではありません。

なぜなら、現在の「オンライン利用率」を向上させる施策は、「オンライン化率」を目標にして作られた電子政府サービスを、何とかして使ってもらおうという試みだからです。

つまり、行政側(提供者側)の理論と視点で作ったものを、行政側(提供者側)の理論と視点で「利用させる」ということです。

もちろん、行政からの一方的な押し付けでは、国民が利用してくれるわけもありませんので、利用者の意見を参考にしながら、サービスの改善が続けられています。

しかし、もともとの考え方(設計思想)に「利用者のニーズ」といった視点が欠けていたため、システムを改善するにしても、利用してもらうにしても、必要以上のお金と時間がかかってしまいます。これが、今までの日本の電子政府サービスです。

●淘汰の後に来るものは?

では、今後どうなるのかと言えば、「使われないものが廃止される」という淘汰の時代が始まります。これまでも、パスポート電子申請のような事例がありましたが、今後は本格的な廃止や統合が行われるでしょう。

このことは、電子政府の発展を考えると、ごくごく当たり前の流れです。作者自身も、何年も前から予想していて、講演等でお話してきました。

問題は、淘汰された後に「優れたサービスが生まれ、生き残り、育っていく環境が、今の日本にあるのか」ということです。

作者の印象では、以前よりは良くなったものの、まだまだ電子政府が健全に発展できる環境ではありません。

環境を良くするためには、様々な方法が考えられますが、作者が提案するのは次の二つです。

1 各電子政府サービスや施策における、「成果(アウトカム)とは何なのか」「何を目指すのか」について、国民や行政職員が一緒になって考え、わかりやすく明示する。

 ※利用率は「成果」と考えられがちですが、結果(アウトプット)であり、成果ではありません。

これまでの行政は、インプット、つまり「どれだけお金を使ったか」「何をやったか」を重視してきました。そのため、各電子政府サービスや施策においても、未だに「成果(アウトカム)」がはっきりしないものが多数あるのです。

考えてみれば、大変恐ろしいことですが、それが現実なのです。

このことは、日本の行政そして行政職員の「未熟さ」を表しています。

「未熟さ」ゆえに、「成果って何?」「どうやって考えて、決めれば良いの?」となっている状況です。

こうした状況では、各行政庁に対して「成果(アウトカム)を提示しろ」といっても無理な話です。

成果を提示するためには、電子政府を「きっかけ」として、行政職員が学習し、自分たちの仕事を見つめなおす作業が必要です。

「成果(アウトカム)とは何なのか」「何を目指すのか」について、今一度(立ち止まって良いから)考えてみる。国民・企業・研究機関・議会も一緒になって考えてみる。この作業こそ、今の日本の電子政府にとって必要なものなのです。

こうした作業が行われない限り、今までと同じ過ちを繰り返すことになります。

2 電子政府の成果に対して、行政職員にインセンティブを付与する。

行政側のインセンティブとしては、予算措置や表彰等が挙げられますが、作者が最も効果的と考えるインセンティブは、この電子政府サービスを実施することで、「多くの国民や企業に喜んでもらえた」「国や地域へ貢献できた」という実感です。

具体的には、電子政府サービス・施策に対する行政職員の満足度(仕事の効率が良くなった、サービスの質が向上した、負担が軽くなった等)を、ヒアリングやアンケート等によって明らかにしていきます。

今後、日本の電子政府が新たな段階へ進むためには、表面的で当たり障りの無い対症療法では不十分です。本質的でより深い議論を行う中で、根っこの部分にある問題を発見し、そこへメスを入れていくことになるでしょう。