マッキンゼー ITの本質 情報システムを活かした「業務改革」で利益を創出する
マッキンゼー ITの本質 情報システムを活かした「業務改革」で利益を創出する (The McKinsey anthology)
「IT投資」をテーマにしていますが、ITガバナンス、CIOの役割、説明責任(成果責任)、ビジネスプロセスアウトソーシング(業務の外部委託)、オフショアビジネス(海外への業務アウトソーシング)、事例インタビュー(ドイツ銀行、ユニクロ)など多岐に渡った内容で、電子政府関係者にとっても参考になります。
「IT投資」や「ITガバナンス」といった言葉を聞くと、「なんだか難しそう」と感じてしまいますが、基本的な考え方はシンプルです。
情報システム(コンピュータ)の役割は、「人々の仕事(業務)を支援し、仕事のやり方を改善し、事業全体の成果や価値の向上に貢献すること」です。
新しい情報システム(例えば電子申請システム)を導入して、
・以前より仕事が大変になった
・導入前の方が効率的だった
・住民サービスが良くなったとは思えない
といった状況であれば、その情報システムは失敗だということです。
現在の電子政府は、「オンライン利用拡大行動計画」などを見てもわかるように、「業務」や「事業」ではなく「手続」に焦点を当てています。そのため、「行政手続のオンライン化」となり「業務の改革」や「事業の見直し」まで目が届いていないのです。
時々見受けられる「フロント(サービスの窓口)とバックオフィス(行政内部の事務処理)のどちらが大切か」といった議論も、あまり意味がありません。どちらに重点を置くかは対象となる「業務」や「事業」によって異なるからです。
●IT投資の進め方
「IT投資」や「ITガバナンス」では、様々な手法や考え方が提唱されていますが、基本的な流れは次のようになります。
1 現状の認識
「事業・業務・情報資産等の棚卸」により、現在の業務が、何のため・誰のために、誰がどのように行っているのか、情報システムが業務にどのように関り貢献(あるいは邪魔)しているかについて「見える化」を行います。
電子政府でも、「業務・システムの最適化」によって、「現状の認識」はある程度できていると言えます。ただし、申請・届出については、前述したように「手続」に偏りがちで肝心の「業務」にはあまり手をつけていません。
さらに「事業」となると、ほとんど手をつけていません。
2 優先順位付け
使える資源(人やお金)は限られています。組織の戦略や政策と照らし合わせて、対象とする業務を選び、どこにどれぐらい投資するかを決めていきます。
電子政府では、この「優先順位付け」が不十分のため、多くの混乱を招き、期待される成果を上げられない原因となっています。
「業務・システムの最適化」では、他分野の業務の最適化を同時進行しているため、計画がスケジュール通りに進まず、毎年のように見直し・後戻りが行われています。
オンライン申請については、以前よりは絞込みがされましたが、絞込みの仕方に問題があり、具体的な成果を導くことは難しいでしょう。
3 箇所と方法の選択
対象とする業務(例えば、「税の徴収に関する業務」など)が決まったら、最も効果が期待できる箇所を選び、最も費用対効果の高い方法を選択します。
難しいのは、この段階です。業務分析を行うと、様々な問題点が見えてきます。その一つ一つを個別に改善していては、いくら予算や時間があっても足りません。そこで、「最重要ポイントここだ」と見極め、「これが利く」と考える手法を選択することになります。担当者やベンダー、コンサルタント等の「見極め力」が問われるのです。
例えば、「戸籍謄本や住民票写しの交付」について「住民サービスを向上したい」と考えた場合、「受付の方法」という箇所を選び、「オンライン申請」という方法選択したことになります。
果たして、これは「賢い選択」と言えるでしょうか。作者の答えは、「NO」です。お金がかかる割には、期待できる効果が少ないからです。もしあなたが行政担当者だったら、どう考えるでしょうか。
これまでの電子政府では、このような「賢い選択」とはかけ離れたものでした。「オンライン申請」を選択する理由は、「国が推進するから」「他の自治体で導入しているから」といったものだったのです。
4 実行後の監視と評価
「やりっぱなし」「明らかな失敗の放置」は、行政だけでなく民間企業でも見られるものです。そうした事態を避けるために、選択した方法を適切に実行・維持しているか、具体的な成果を上げているかなどをチェックします。
あらかじめ目標と時間を決めておき、達成できない場合は、情報システムやサービスの停止等を行います。具体的な措置については、「パスポート電子申請から学ぶ、電子政府サービスの引き際」をご覧ください。