e-Gov電子申請システム、生き残りのヒントは楽天にあり
今回は、「e-Gov電子申請システム」が抱える課題と、今後の対応策を考えてみたいと思います。
日本の電子政府の玄関口として「電子政府の総合窓口」があり、その中に「e-Gov電子申請システム」があります。
●「e-Gov電子申請システム」とは
「e-Gov電子申請システム」は、各省庁の電子申請システムが統合されたものです。
「電子政府構築計画」(平成15年7月17日)に基づき、「行政ポータルサイトの整備方針」が定められ、各省庁の汎用電子申請システム(汎用的に処理できる手続)を、国の電子政府ポータルサイトである「e-Gov(イーガブ)」の「窓口システム(仮称)」に統合するとされました。
この「窓口システム(仮称)」が、現在の「e-Gov電子申請システム」です。
互換性・相互運用性の低い各省庁の汎用電子申請システムは、利便性だけでなく、運用・維持費用の点からも問題が多かったので、(一部の省庁を除いて)一つに統合されたこと自体は良いことです。
関連ブログ>>電子政府における実装規約の役割(2):「開発者の視点」で民間サービスとの連携を強化
●「e-Gov電子申請システム」の課題
統合された「e-Gov電子申請システム」により、開発・維持コストの削減は実現されました。しかし、巨大なシステムなだけに、多くの課題を抱えています。今回は、次の2点を挙げておきましょう。
1 使いやすさ等の問題
「e-Gov電子申請システム」は、電子政府サービスの顔みたいなものです。もし「e-Gov電子申請システム」が提供するサービスの質が悪ければ、電子政府全体のブランドや信頼性を傷つけてしまいます。
政府の評価報告書によると、「e-Gov電子申請システム」の利用者満足度(e-Gov電子申請システムの操作性に関する回答結果(「簡単」、「やや簡単」などの回答数/「全有効回答数」×100))は
2006年度:16
2007年度:44
となっています。当初に比べるとかなり改善されていますが、予算等の関係もあり、まだまだ改善の余地が多いと言えるでしょう。
参考資料>>府省共通業務・システム等の平成19年度最適化実施評価報告書一覧|行政情報の電子的提供業務及び電子申請等受付業務(PDF)
2 費用対効果の検証
電子申請システムの費用については、調査・公開が進んでいます。しかし、「e-Gov電子申請システム」の費用や利用件数・利用率については、ほとんど公開されておらず、検証も進んでいません。
電子申請の費用に関する情報>>なぜ、電子政府で「一件当たりいくらか」を評価するべきなのか|箱物行政よりヒドイ、使われない電子申請は今すぐ止めるべき|電子申告に見る行政の誤解、行政システムは特別ではない|電子申請システムのコスト、本当はもっと高い
「e-Gov電子申請システム」は、取り扱う手続数だけを見れば、国内最大の電子申請システムです。費用に関する積極的な情報公開・情報提供が無ければ、国民からの信頼を得ることはできません。
上記は、現在の課題ですが、「e-Gov電子申請システム」がスタートした際に、「利用者を獲得することが難しい」理由として、次の2点を挙げました。
1 使ってもらえないサービスを集めても、やはり使ってもらえない
現在稼動している電子申請システムは、使いにくいものが多い。「e-Gov電子申請システム」が同様のサービスレベルにある限り、やはり使ってもらえない。統合されてサービスが低下したと言われないように、「e-Gov電子申請システム」が最強の電子政府サービスとならなければ、期待した効果は得られない。むしろ、足を引っ張るリスクもある。
関連ブログ>>どんなオンライン行政サービスが使われているのか|社会保険・労働保険関係手続のオンライン利用率が低い理由と改善策
2 専門サービスが埋もれてしまい、探すのも使うのも大変になる
社会・労働保険や不動産・商業登記といった手続きについては、電子申告のように専門サービスとして独立させた方が良い。こうした利用件数の多い手続が「e-Gov電子申請システム」に埋もれてしまうと、各手続の性質や傾向を考えた柔軟なサービスができなくなる。また、既存のコンテンツを活用したサービス提供を妨げる可能性も高い。
●「e-Gov電子申請システム」の可能性
上述の通り、非常に困難な課題を抱える「e-Gov電子申請システム」ですが、やり方さえ工夫すれば、「電子申請」の枠を超えた良質なサービスを提供することも可能です。
その一つが、「プラットフォーム戦略」です。
「プラットフォーム戦略」は、技術経営の分野などで使われる用語ですが、ここでは「楽天方式」とでも言っておきましょう。
国内最大のネットモールとして有名な楽天市場、現在は様々なサービスを提供していますが、基本のビジネスモデルは「商業施設の大家さん」です。参加店舗に場所・道具・ノウハウを提供し、その対価をもらい、楽天自身がモノを売るわけではありません。
「e-Gov電子申請システム」も、大家さん&ビジネス支援に徹すれば、自らがサービスを提供する必要はありません。
現在のように、様々な手続の利用者や各省庁からの要望を取り入れて機能を拡大していくと、「e-Gov電子申請システム」はどんどん肥大化し、維持するのも困難になってしまいます。このパターンは、ビジネスとしては崩壊へと向かうものです。
各省庁の課長クラス職員を店長として任命し、独立採算制で運営させれば、責任の所在も明確になります。
店舗ごとのアクセス数・利用者数・利用件数を公開すれば、競争も生まれ、より大きな効果が期待できるでしょう。
●コンテンツの質を高める「楽天方式」
グーグルなどで特定の商品名をキーワードに検索すると、楽天ショップのページが上位にヒットすることがあります。
それは、各ショップが「商品」と一緒に「購入者が知りたい情報」も提供しているからです。
ショップが提供する情報には、
1 必ず明示しなければいけない情報(販売業社名、所在地など)
2 決まった形式の情報(商品名、価格、写真など)
3 任意に工夫して提供する情報(商品の特徴、利用例、体験談など)
に分類できますが、任意の情報はコンテンツの質を高め、より多くのアクセスや購入に貢献してくれます。
「e-Gov電子申請システム」でも、特定の分野・手続を業務として担当する課が責任を持ってサイトを運営すれば、良質で鮮度の高い情報を提供することができるでしょう。
●共通の道具(ツール)で各自が工夫
楽天の各ショップを見ると、共通の道具を使いながらも、各自で様々な工夫をしていることがわかります。売れているお店もあれば、赤字のお店もあるでしょう。
同じ大きさのキャンバスと絵の具を与えられても、何を描くかはその人次第ということですね。
現在の「e-Gov電子申請システム」は、各省庁や分野で独自に工夫する余地が少な過ぎるのです。
●蓄積される運営ノウハウ
オンラインショップモールの強みは、既に蓄積された運営ノウハウを活用できることです。どんな品物が売れて、どんなショップが成功しているのか。そうしたノウハウが日々蓄積されていきます。
フランチャイズなどもそうですが、ビジネスモデルが最適にシステム化されていることは、とても大切なことです。その通りに実践すれば、成功の確率が高いからです。そこには、各人の勝手な思い込みが入り込む余地は無く、見当違いの無駄な努力で時間やお金を浪費することもありません。
これまでの電子政府・電子申請では、行政の勝手な思い込み(何のデータや根拠も無い)で高価なシステムが構築され、結局は利用されないといったことが繰り返されてきました。「楽天方式」であれば、それを防止することもできるのです。
大切なのは、役割分担と責任の所在を明確にすると共に、持続・発展可能な仕組みを確立することです。
「e-Gov電子申請システム」には、それを実現できる可能性があるのですから、今後の展開を大いに期待したいと思います。