年金記録バブルに踊らされないために、社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請(3)
300億円以上の税金投入で利用率0.1%、社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請(2)の続きです。今回は、「社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請」の今後の展開について考えてみましょう。
結論から言えば、次の3つを実行するのが良いでしょう。
1 住基ネット等の活用による「オンライン照会」を増やし、手続自体が不要となるようにする。
2 「FD申請(磁気媒体申請)」のデータをインターネット経由で「簡単に」送信できるようにする。
3 利用率の増えない「現行のオンライン申請」は停止する。
それでは、一つずつ詳しく見ていきましょう。
(1)住基ネット等の活用による「オンライン照会」を増やし、手続自体が不要となるようにする。
「オンライン照会」とは、「行政間ネットワークを利用した行政内部における事務処理」のことです。
「オンライン照会」を原則とすることで、多くの添付書類が不要となります。さらには、「年金受給権者現況届出」のように、手続自体が全て行政の内部で処理することで、国民側の手続を不要とすることも可能です。
本来、「オンライン照会」の実現なしに「オンライン申請」を進めてはいけません。
「オンライン照会」が不十分なままでは、単なる「手続の電子化・オンライン化」で終わってしまい、結果として「お金ばかりかかる使えない電子申請」が乱立してしまうからです。
「オンライン照会」の充実は、次世代電子行政サービスの必須条件でもあります。
(2)「FD申請」のデータをインターネット経由で「簡単に」送信できるようにする。
現在でも「FD申請」のデータをオンライン申請に使うことができますが、電子署名が必要だったりして、とてもじゃありませんが一般利用に耐えうるものではありません。
もっと簡単に使えるデータ送信用のウェブサイトを作って(作者だったら3ページで作ります)、「簡易版オンライン申請」を実現するべきです。もちろん、電子署名も不要です。
厚生労働省の「オンライン利用率」の多数(7割強)を占めるFD申請は、このまま利用が増え続けると、行政にとっても大変な負担となります。
オンライン申請システム停止の意義(2)に頂いたコメントにあるように、法務省では提出されたFDの取扱いに困り、電子データを印刷して書面で保管しようとしています。
厚生労働省のFD申請でも、「提出されたFD等は返却しない」とされており、法務省と同様の問題が発生することになるでしょう。
法務省のオンライン利用率、50%達成したら大変なことになる?で解説しましたが、「紙と電子が混在する中途半端な電子申請」は、行政側の負担を増やし、業務の効率化を阻害する要因となります。
※厚生労働省のFD申請では「磁気媒体届書総括票」などの紙が必要となっています。
「紙と電子が混在する中途半端な電子申請」について、電子政府計画の中で「紙から電子への移行期における暫定措置」として位置づけ、その移行プロセスを明確にしておかないと、上記の法務省のように後始末が大変になるのです。
厚生労働省のFD申請も、手遅れにならないうちに、適切な移行計画を策定し実行するべきです。
(3)利用率の増えない「現行のオンライン申請」は停止する。
「現行のオンライン申請」は、今後も利用が増える見込みはありませんので、速やかに停止するべきです。何しろ、専門家である社会保険労務士の協力と300億円のシステム投資と5年の歳月で、利用率がずっと0.1%前後なのですから、増えると考える方がおかしい。
上述の「簡易版オンライン申請」があれば、現在の行政のレベルとしては十分であり、複雑怪奇なオンライン申請は必要ありません。
「簡易版オンライン申請」では取扱いが難しい「お金の請求を伴うような手続」については、「オンライン照会」や「オンライン閲覧」を充実させてから、別途方策を考えれば良いのです。
●「厳格な本人確認が必要」の嘘
オンライン申請における「本人確認の嘘」についても触れておきましょう。
実は、電子政府評価委員会における厚生労働省のヒアリングで、FD申請のデータを簡易に送信(アップロード)できる仕組みを提案しました。
返ってきたのは「厳格な本人確認が必要なので、そうした方法はできない」といった趣旨の回答でした。
作者は、こうした回答を予想しつつ、議事録に残すために敢えて提案しておきました。
なぜなら、「厳格な本人確認が必要」というのは、行政側の嘘だからです。
それは、FD申請を見るとよくわかります。
FD申請では、「厳格な本人確認」なんてものは全くされていません。
窓口で身分証明書を提示するわけでもなく、届出者本人の署名も必要ありません。郵送でも受付けるので、「提出者が全く見えない」こともあります。
肝心のデータも、盗み見・改ざんがやり放題です。
FDに格納したデータは、誰でも見られます。本人以外の誰でも提出できますので、頼まれた使用人等が途中でデータを入れ替えたり書き換えたりしてもわかりません。
無事にFDが提出されたとしても安心できません。なぜなら、受け取った社会保険庁の職員が好き勝手に改ざんできるからです。「社会保険庁の職員はそんなことをしない」と言っても、ほとんどの国民は信じてくれないでしょう。
そんな現実があるにもかかわらず、FD申請のデータをオンライン送信する時にだけ「厳格な本人確認が必要」と言うのです。この主張は明らかに矛盾しており、嘘以外のなにものでもありません。
こうした嘘が平気でまかり通るのも、日本の電子政府の特徴です。
「簡易版オンライン申請」は、財政の厳しい自治体では導入されつつありますが、国では導入されていません。「簡易版オンライン申請」は、省庁にとっては予算の大幅な削減を意味しますし、ベンダーにとっては儲けが少なくなります。
●年金記録バブルの後に来るもの
財政のしくみがわかる本、電子政府の問題点もお金の流れを追えばわかるで触れましたが、「社会保障バブル」「年金記録バブル」とも言える動きが、電子政府において活発化しています。
維持することさえ困難な社会保障・年金制度を見直すこと無しに、いくらコンピュータのシステムをいじくったところで、どうしようもありません。
「年金記録問題」は、単なる予兆に過ぎません。これからもっと大きな問題が起こるのです。
電子政府に求められる役割・果たすべき使命は、社会保障・年金制度の問題点を明らかにし、シミュレーションによる複数のプランを提示し、国民に選んでもらうことでしょう。
そうした計算、わかりやすい視覚に訴える説明、詳細な情報の提供などは、コンピュータやインターネットが得意とするものです。
作者としては、電子政府が「社会保障バブル」「年金記録バブル」に踊らされることがないように、今後も「耳に痛い提言」をしていきたいと思います。
そもそもが・・・・・
むたさんの、
>こうした嘘が平気でまかり通るのも、日本の電子政府の特徴です。
ちょい、それるコメントになるかもしれないが。電子署名、電子認証、電子証明書の意味合いなどを解説するに、これら技術解説で、日本の独特の制度である印鑑証明書制度に擬えて、一部の技術者や行政庁の職員がやっていました。もう、だいぶまえだが。
ここらあたりが間違った理解の始まりではないか、と思うだ。
「厳格な本人確認措置」の必要を主張する根拠に、この印鑑証明書制度に擬えてのが影響しているのでは?
電子署名の使い方
イエモリさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
電子署名を印鑑証明書制度になぞらえると、ドツボにはまっちゃいますよね。。
電子署名は技術に依拠するところが大きいですが、印鑑証明制度は慣習を基礎としていますので。
電子署名は、「一つのツール」として割り切って使えば良いのです。それよりも、責任と事後処理に関するルール整備の方が大切かと。
「電子署名は署名や印鑑のようなもの」という発想から脱却できない限り、電子署名が持つ機能を使いこなすことは難しいでしょうね。
「電子署名は署名や印鑑のようなもの」から離れると、色んなアイデアが出てきますよ。
いまだに、ドツボにはまって
https://shinsei.e-system.pref.aomori.lg.jp/public_02/pki.html
■電子署名について
紙での申請における押印に相当する行為を電子的に行う技術です。間違いなく本人から送信されたものであるということを確認するため、成りすまし(第三者が申請者のふりをして申請すること)やデータの改ざん(第三者が内容を書換えること)を防ぐために使用します。
■電子証明書について
「電子署名」を検証する際に必要となるもので、本人確認のために利用される「印鑑証明書」の役割を果たします。電子証明書は、信頼される第三者機関が発行する電子的な証明書で、ICカードなどに保存されています。詳細については、以下の各認証局のホームページをご覧ください。
—————————–
青森県電子申請のサイトから。青森のシステムは最近開始されたのですが。。。。まだまだ。こうした表現です。