電子自治体におけるインセンティブ付与のあり方、逆インセンティブの活用を

総務省の「電子自治体の推進に関する懇談会」に設置されている「オンライン利用促進ワーキンググループ」(部会長:須藤修 東京大学大学院情報学環教授)から、平成20年度の検討結果が公表されています。

昨年のテーマは、「携帯電話を活用した電子申請システムの構築」と「地方公共団体における証明書等の電子交付等」でしたが、今年度は「インセンティブ付与のあり方」と「証明書等のペーパーレス化にあたっての阻害要因」となっています。

●効果的なインセンティブ付与は、専門家でも難しい

電子申告のインセンティブは慎重に、どんぶり勘定&皮算用はもう止めようなどで触れていますが、インセンティブは販促コストです。ですから、事前・事後における費用対効果の検証・分析の無いまま実施してはいけません。

また、月日と共にサービスのライフサイクルも変化しますので、昨年は有効だったインセンティブが、今年も有効とは限りません。

つまり、「有効なインセンティブの付与」は、マーケティングの専門家でも難しいことで、行政職員が片手間にできるものではないのです。

●インセンティブ付与で一定の効果が見込める

インセンティブ付与に関する報告書概要を見ると、

・インセンティブを導入することにより、今回対象とした5手続のオンライン手続利用率は約1.7 倍となっており、インセンティブの効果が大きい。
・インセンティブがない場合、平成25年度における5手続のオンライン手続利用率は、平均で40.0%あるが、
・非金銭的インセンティブを付与した場合は平均69.1%と約1.7 倍となっている。
・インセンティブはオンライン手続の利用促進に大きな効果が認められる。
・料金値引のインセンティブの場合、料金を4~5割引き下げないと非金銭的インセンティブの効果と同程度とならない
・1~2割程度の料金値引ではあまり効果がない

といったことが書かれています。

●逆インセンティブの活用を

今回は、報告書ではあまり取り上げられていない「逆インセンティブ」について触れておきましょう。

「逆インセンティブ」とは、オンライン申請の手数料を割引するのではなく、紙の申請などに対して「電子化手数料」などを徴収するものです。具体例としては、特許庁の電子申請があります。

手数料の割引だけだと、せいぜい1-2割引が良いところで、あまり効果が望めません。しかし、逆インセンティブを併用することで、オンラインと紙の差が拡大し、より大きな効果が期待できます。

また、紙の手数料を上げることが一種のヘッジ(リスク軽減)となり、手数料収入の極端な減少を防ぐ効果もあります。

オンラインではありませんが、市町村の役場では、各種証明書(住民票の写し、戸籍謄本、納税証明、印鑑証明など)を発行しています。

こうした各種証明書を発行する自動交付機を設置した場合、作者だったら、自動交付機による証明書発行を一律200円(追加一枚につき100円)とします。その一方で、紙による交付申請については、一律500円(お釣り等の処理も楽)とします。

両者の差は倍以上となり、自動交付機を選ぶ人は格段に増えるでしょう。

自動交付機の利用を住基カードと結びつければ、発行枚数を増やすことも可能です。

「お年寄りなど自動交付機が使えない人がかわいそうだ」といった意見があるとしたら、それはお年寄りを馬鹿にした差別発言でしかありません。銀行に行けば、年齢に関係なく、多くの人がATMを使っています。

わからない人がいれば、職員が寄り添って支援すれば良いだけのことです。

機械も人間でも万能ではありません。だからこそ、機械と人間が補完し合うことが大切なのです。

●「オンライン利用増し=負担軽減」であることが条件

インセンティブの付与は、「オンライン利用増し=負担軽減」であることが絶対条件です。

つまり、損益分岐点があり、利用率が一定の割合を超えると、それ以降は黒字になる(元が取れる)ことが必要です。

年金記録バブルに踊らされないためにのように、「紙と電子が混在する中途半端な電子申請」で、利用されればされるほど、コスト増し、職員負担増しとなる場合は、インセンティブ付与をしてはいけません。

こうした事態を防ぐためにも、オンライン申請の更なる淘汰が必要なのです。

“電子自治体におけるインセンティブ付与のあり方、逆インセンティブの活用を” に5件のコメントがあります

  1. 逆インセンティブ賛成
    ちょっとこちらに。

    電子行政推進法(仮)は予定通り今国会に提出されるのでしょうか?

    まあ そうなれば電子(オンライン)申請が原則化され、紙申請の方の免許税、手数料を高く取れます。まあ、反対はかなりありましょうが。

    当然、法をもって決めるから、レセプトのようなことにはならんでしょうが、国会で激論してもらいたいところですねえ。

  2. 非経済・非効率的だなんて・・・
    ちょっと横道ですが。。。。

    >つまり、「有効なインセンティブの付与」は、マーケティングの専門家でも難しいことで、行政職員が片手間にできるものではないのです。

     仰るとおりです。
     ところが、ある要望に、行政職員がとある要望に対して「非経済・非効率的」と断定したものもあるので、行政職員もいい加減なものでもある。
     なんら実証、検証も無いところで断定するから、怖ろしい。

  3. 実証・検証が無ければ税金の無駄遣い
    sagoさん、イエモリさん、こんばんは。
    コメントありがとうございます。

    「なんら実証、検証も無いところで断定」は、行政に限らずよくあることですね。

    今回の報告書も、あくまでも仮定の話ですから、実証してみることが大切です。

    最初から期待する効果が上げられると考える方が間違いで、小さい失敗を重ねながら、精度を上げていく必要があります。そこから得られたものこそが、電子政府の果実なのです。

    日本の電子政府では、いきなり何億円何十億円のシステムを作ってしまうので、失敗しても何も残らない。。。そして、電子署名とかの責任にすると。

    もっと安価なテストシステムを3パターンぐらい作って、実際に使ってもらって、どれが一番使ってもらえるかを国民に選んでもらえば良いのですよね。で、一番良いものを拡張・発展させていけば良いと。

    これからの電子政府では、開発と並行してマーケティングをやっておかないと、3年も5年もかけて作ったものが、出来上がった頃には使い物にならなくなってしまうでしょう。

  4. 地方自治体の手続きの電子化に関するアンケート」調査結果
    ちょい興味ある調査結果が公表されていた。
    「地方自治体の手続きの電子化に関するアンケート」調査結果」

    http://www.kkc.or.jp/society/survey/enq_090107.pdf

    (財)経済広報センターによる調査ですが、調査対象者が「財団法人経済広報センターに登録しているeネット社会広聴会員」であり、そのあたり差し引いても・・・。
    参考までに。

  5. 簡単で便利なサービスなら使ってもらえる
    イエモリさん、こんばんは。
    情報提供ありがとうございます。

    電子政府関連のアンケート調査は、仮説を立てた上で目的意識を持って実施することが大切ですが、本アンケートはわかりやすくて良いですね。

    図書館のネットサービスは、私も重宝しています。

    インターネット検索&予約ができるようになってからは、本当に便利になりました。図書館とアマゾンを併用することで、「はずれ書籍」を買ってしまうことも、ほとんど無くなりました。

    証明書交付サービスは、やり方次第では、良質なサービスとなり得るのですが、今の自治体では難しいでしょう。

コメントは停止中です。