「かんぽの宿」の行方(3)、必要なのは戦略と経営力
「かんぽの宿」の行方(2)、資産価値を下げる「職員の雇用維持」の続きである。今回は、経営・事業戦略の視点で「かんぽの宿」を見てみよう。
●儲けを出すためには、戦略・財務体力・経営力が不可欠
不動産ビジネスは、他のビジネスと同様に、「安く買って(借りて)、高く売る(貸す)」のが基本である。
今回のケースでは、安易な転売はできないので、非常にリスクが高い。
単純に考えれば、
・現在の職員を前提とした形で施設を維持し
・赤字の「かんぽの宿」を黒字化して
・定期的に収益を上げることで
・108億円を少しずつ回収していく
となる。
しかし、もし上記を実行した場合、ドツボにはまり、今回の投資は大失敗となるだろう。
何しろ、毎年40億円もの出費となるのだから、そんな出費にびくともしない財務体力があったとしても、早いうちにこの出費を止める必要がある。毎日1000万円ずつドブに捨てているのと同じなのだから。。
鳩山総務相は、赤字の「かんぽの宿」を黒字化してから売れば良い、と言っているらしいが、そんなことができれば、当の昔に黒字化しているはずだ。悲しいくらいに無責任な発言である。
もう少し現実的に考えてみよう。
落札したオリックス不動産株式会社のホームページを見ると、
・オリックスグループは1991年からホテル運営事業をスタートしている
・異なるお客のニーズを徹底的に研究したホテル運営を行っている
となっている。
経営しているホテルや旅館も幅広い内容で、ネット上の口コミ情報も悪くないようだ。
「かんぽの宿」についても、「単なる転売目的の取得ではない」と考えて良いだろう。
そうした状況を踏まえた上で、作者が経営者であれば、次のような事業戦略を掲げるだろう。
・黒字施設に資源を集中して収益を向上する
・赤字施設は、早々に廃止・処分する
・赤字施設の職員は、人手が必要な他の施設へ異動させる
もう少し詳しく説明すると、
(1)黒字施設に資源を集中して収益を向上する
黒字の施設は、素人経営でも黒字だったわけだから、素地が良いということだ。これに民間の経営ノウハウを加味すれば、まだまだ収益アップが期待できる。
個別の黒字が増えれば、事業全体の赤字金額も減ることになる。
(2)赤字施設は、早々に廃止・処分する
赤字施設は、素地が悪いケースが多いので、早々に廃止して処分した方が良い。
毎年の赤字出費を止めないと、出血多量で死んでしまうからだ。
もちろん、「これは化ける」と判断できる時は、人とお金を投資しても良いが、そのような赤字施設は少ないだろう。いずれにしても、選択と集中が必要である。
そして、実際に化けて黒字化した施設は、最大限に利用することができる。
日本人は、「廃業寸前の旅館が、人気旅館に生まれ変わった」といった話が大好きなのだから、NHKにドキュメント番組でも作ってもらえば、何十億円もの広告効果が期待できる。
(3)赤字施設の職員は、人手が必要な他の施設へ異動させる
人間の行動は、環境によるところが大きい。黒字化の見込みが少ない赤字施設に、優秀な社員を送り込んでも、その社員が疲弊するだけである。
それよりは、赤字施設の職員を再教育した上で、優秀なホテルや旅館で働いてもらうのが良いだろう。
職員の意識改革はもちろん、仕事から得られる充実感も変わるはずだ。
職員と企業の「両者にとって幸せとなる選択」とは何かを考えたい。
もしも、「約3200人の職員を引き受ける」条件が、さらに「今までと同じ雇用環境と雇用待遇で」といった厳しい条件となっている場合は、上記のような経営・事業戦略を採用することはできない。
その場合、108億円の譲渡は、やはり「高すぎる買物」と判断せざるを得ないのである