電子政府の成功は、行政のやり方を押し付ける文化を変えることから

電子政府により、表面的には、紙申請から電子申請(オンライン申請)へ変わりつつあります。しかし、その中身を見ると、どうもあまり変わっていないようです。

その一つが、「行政側のやり方を押し付ける文化」です。

紙申請では、「日常生活で馴染みのない書式や用語」により、申請者は混乱し苦しみます。

これが、オンライン申請になると、上記の書式や用語に加えて、やはり日常生活で馴染みのない「電子署名とICカードとカードリーダと意味不明なアプリケーション取得」やらが必要となります。

これでは、利用されないのは当たり前。申請者の混乱と苦しみは、増えるばかりです。

現在の電子政府は、少しずつですが改善されつつあります。

しかし、まだまだ「申請したければ、サービスを利用したければ、行政のやり方に従いなさい」という上から目線、提供者側の理論が横行しています。

こうした状況は、行政職員の習慣となっている基本的な思考・行動パターンによるものなので、オンラインになったからと言って、すぐに変わるものではありません。

『電子政府・電子行政サービスを実現する過程で、行政にとって最も困難なことは、役所文化への挑戦である。』

といったことは、電子政府先進国の担当者がよく口にすることです。

●利用の「要請」は止めよう

オンライン申請の利用推進で見られるのが、士業などの業界に利用を「要請」するという施策です。

こうした「利用の要請」は、業界の利益と合致する場合、かなり有効な施策となります。しかし、利用により特に利益やメリットが無い場合は、こうした要請は無視されます。

例えば、金融機関等が「電子納税証明書」を受け入れていない。という状況について。

「電子納税証明書」が受け入れられないのであれば、それを受け入れるように要請するのではなくて、まず初めにするべきことは、「なぜ受け入れないのか、なぜ受け入れられないのか」その理由を尋ねることです。

例えば、紙で受付て処理し保管している業務フローに、納税証明書だけ電子で持ってこられても困るでしょう。役所の窓口で、紙申請する時に納税証明書だけFDに入れた電子納税証明書を渡されても困るでしょう。それと同じことです。

●民間のやり方に合わせることでコストを削減

「行政側のやり方を押し付ける」から「民間のやり方に合わせる」という方向転換は、様々なコストを削減させることにもなります。

見やすい書きやすい書式、平易な言葉にすれば、質問や苦情が減ります。書き間違いも減ります。

一般的なオンラインサービスで利用されている本人確認方法にすれば、利用者からの質問や苦情も減ります。一般的なネットユーザーの環境に合わせれば、セキュリティホールへの対応も楽になります。

●利用実績の差は、コミュニケーションの量と質から

「民間のやり方に合わせる」ことは、「利用者に媚びへつらう」という意味ではありません。

行政側で一方的に決めない。利用者とのコミュニケーションを大切にして、その過程を透明化する。利用者と行政が、共に成長し参加意識を高めていく。という意味があります。

次世代の電子政府・電子行政サービスに必要なのは、「行政が考える便利な機能」ではなく、「国民が実際に使ってみて便利と感じてくれる機能」であり、そうした機能が生まれてくる環境や仕組み作りなのです。

オンライン申請が使われない理由として、「電子署名やICカード」が挙げられますが、それはあくまでも表面的な理由に過ぎません。

その根っこにあるのは、「利用者(個人、企業)とのコミュニケーション不足」であり、「行政側の一方的な思い込み」なのです。

「利用者とのコミュニケーション不足」がある限り、どんなにお金をかけてシステムを作り直しても、結果は同じです。

「利用者とのコミュニケーション」にお金と時間を惜しまず、質の高い(具体的な成果を生み出す)コミュニケーションを心がけること。それが、電子政府成功の鍵なのです。