「老子」の人間学―上善は水の如し、現在の政治や行政を読み解くヒントに

「老子」の人間学―上善は水の如し
守屋 洋
プレジデント社

このアイテムの詳細を見る

日本人に馴染み深い中国古典「老子」を、入門者向けに解説しています。誤解を受けやすい老荘思想ですが、現代の事象と関連付けながら噛み砕いていくと、極端に思える考えが、実はバランスを重視した臨機応変で柔軟な思想であることがわかります。

著者の守屋氏自身が70歳を超える翁であり、解説を読んでいると、人生の偉大な先輩から人生訓をいただいているような気持ちになります

また、その肩書きも「中国文学者」となっており、博士や大学教授ではないところが、老子の生き方を実践しているようで潔さを感じますね。

古典を読む場合、できるだけ解説の少ないシンプルな原書を選んで、今の自分にとって必要な情報を自然に吸収できるようにするのですが、「質の良い解説を楽しむ」という読み方も良いものです。

老子には、「戦術やテクニックは知っていても、知らないフリをして自分では使わない」といった考えがあります。

日本の電子政府が良くならない本当の理由(9):第6の欲求「公益志向」の流れに乗れで、次のように述べましたが、

『グローバル社会で「衣食足りて礼節を知る」となるためには、最低限の競争力は欠かせないが、国際的な競争力を身に付けたからといって、無理に他者と競争する必要は無いし、弱者を排斥していく必要も無い。競争と共生を両立させれば良いのである。日本語で言うところの「切磋琢磨」だ。』

恐れながらも、老子と少しばかりの共通点があるかなあと

本書では、解説の中で他の中国古典を数多く引用しています。

例えば、帝王学として知られる韓非子が教える「術(押さえておくべき要)」について

・賞罰の権限=人事権
・勤務評定=賞罰を行使する前提となる

と解説しています。

これを踏まえるだけで、公務員制度改革で「人事権」について激しく議論される理由がわかりますね。

電子政府でも、政府全体のCIOが必要と言われていますが、もしCIOに人事やお金についての権限が与えられていなければ、いくら立派な肩書きを与えて省庁横断的な業務を担わせても、その実行力は期待できないでしょう。

安岡正篤氏など、日本の政治や行政が、中国思想の影響を受けていることは否定できません。

中国古典に触れてみることで、電子政府をいつもとは違った視点で見ることも必要と思います