天下りシステム崩壊―「官僚内閣制」の終焉、求められる「官僚の利益」の再考

天下りシステム崩壊―「官僚内閣制」の終焉
屋山 太郎
海竜社

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政治評論家の著者による天下りシステムの解説。公務員制度改革の背景を理解する入門書としてもオススメ。

ジャーナリスト出身らしく「悪事を暴く正義漢」という展開で、一国民としては面白おかしく読めます。

関連>>屋山太郎 – Wikipedia

天下り関係の本は、読むほどに日本の将来を憂いて切なくなってしまうので、あまり好きではないのだけど、電子政府とも関係が深いので、年に何冊かは読むようにしています。

官僚内閣制から議院内閣制へという主張は理解できるのですが、現在の政治家には荷が重過ぎると思ってしまうのも事実。。

公務員制度改革では、政治・行政学的な観点から、内閣人事局を誰が担うのかが話題になったりします。

関連ブログ>>「老子」の人間学―上善は水の如し、現在の政治や行政を読み解くヒントに

けれども、作者の視線は別のところにあります。

それは、「官僚の利益」という視点です。

例えば、これまで全部で100あった利益のうち、官僚の取り分が(天下り、その他もろもろを含めて)30だったとしましょう。

このバランスが取れているうちは、官僚の天下りも、それほど問題にならないかと。

しかし、官僚が欲張って取り分を40ぐらいに増やそうとすると、国民や政治家や経済界の取り分が減るので、官僚たたきが始まります。

日本経済の成長が鈍化・低迷すると、全部で100あった利益が、80ぐらいになってしまいます。

こうなると、30の取り分でも多すぎることになり、全体のバランスを考えると、30を25ぐらいに減らさないと、やはり官僚たたきが起こります。

公務員の数を減らしたり、夏のボーナスを減らしたりしているのは、こうした調整の一例と思います。この場合の調整も、弱い立場の人が最も割を食うのですが。。。

よし、これで官僚たたきも無くなるはず。。。と思うのですが、実際はそうはなりません。

全体の割合で言えば官僚の取り分は減っていなくても、国民や社会が最適と考える割合(配分)が変化しているため、30を25ぐらいに減らす程度の調整では不十分なのです。

高齢化、労働人口の減少、医療・介護費等の増加など、社会・経済環境の変化により、100の利益のうち20ぐらいの配分をもらっていればよかった人たちが、全体の利益が80に減ったにもかかわらず、これまでの20でも足りない、といった状況があるのです。

現在の官僚には、30を25ぐらいにすれば大丈夫。百歩譲って20までは減らしても良いが、この20は断固死守するといった悲壮感さえ伺えます。

作者からしてみると、これは大局を見誤った考えであり、20の利益に固執することで、官僚たたきが増加し、かえって痛い目を見るのではないかと思います。

例えば、15の利益はもらえたものが、10以下ぐらいまで調整されてしまうといった具合に。。。

作者であれば、現在や将来の環境変化に応じた全体の配分バランスを再考した上で、20の利益に固執せず、最適な利益を模索するでしょう。

それと同時に、「新たな利益の開拓」を実行します。

そもそも、官僚の利益は、「天下り」だけではありません。

「仕事へのやり甲斐」や「社会への貢献」といった利益もありますし、「名誉職」といった利益もあるでしょう。

人間である以上は、「誰かの役に立って、喜んで感謝してもらえる」や「その実績を認めてもらう」といったことは、金銭的な利益に勝るとも劣らないものです。

日本の将来を考えると、金銭的な利益が減るのは、仕方の無いことと思います。

もちろん、金銭的な利益を増やすことも大切と思いますが、その一方で、非金銭的な「新たな利益」の開拓が必要と思うのですね。

ということで、官僚や官僚を志す皆さんには、「天下り」もほどほどにして、今一度「官僚としての利益とは何なのか」を見つめ直して欲しいなあ

官僚はなぜ死を選んだのか―現実と理想の間で (日経ビジネス人文庫)
是枝 裕和
日本経済新聞社

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