政府情報システムの整備の在り方に関する研究会、「霞が関クラウド」の構築は白紙に戻そう
本ブログでも、いわゆる「霞が関クラウド」について、電子政府におけるSaaS・クラウドの活用法、「居つかない」で常に「捨てる覚悟」をなどで触れてきました。政府の方でも本格的な検討に入ったようで、総務省から「政府情報システムの整備の在り方に関する研究会」の開催案内が出ています。
開催期間は、平成21年6月3日の第1回会合から、平成22年1月頃まで。夏頃には、早くも「中間とりまとめ」が出るようなので、すでに既定路線の感もありますね。
研究会では、
・クラウド・コンピューティング等の最新の技術の動向及びその導入事例等を踏まえ
・政府情報システムの更なる全体最適化を推進すべく
・その在るべき将来像を明確化するとともに
・政府情報システムの統合・集約化やデータ連携の基盤となる
・共通プラットフォームの整備の課題、方向性等について
検討するとしています。
検討内容は、
1)政府情報システムの在るべき将来像
2)政府情報システムの基盤となる共通プラットフォームの位置づけ、役割
3)政府情報システムの基盤となる共通プラットフォームの整備の課題、方向性
上記の検討は、これまでも「業務・システム最適化の推進」で行われてきたのですが、「霞が関クラウド」なるものが急に出現したので、それに合わせて、わざわざ別の検討会を開催したのだと思います。
●中身が良くわからないまま、構築されることが決まる不思議
「霞が関クラウド」は、「デジタル新時代に向けた新たな戦略~三か年緊急プラン~」で、次のように記述されています。
・効率的かつ柔軟でセキュアなシステム構築
・開発・運用コストの削減
・業務の共通化を図るため
・将来における地方公共団体のクラウドとの連携等も視野に入れつつ
・「霞が関クラウド(仮称)」を構築し
・全府省横断的に業務及びシステムの最適化を推進する。
・また、「バーチャル会議システム(仮称)」を整備する。
これまで進めてきた「業務・システムの最適化」に、流行のキーワードである「クラウド」を取り入れてみましょう、といったことのようです。
注意したいのが、すでに「霞が関クラウド」の構築が「決定事項」となっていること。
ところが、この「霞が関クラウド」が、一体どんなものなのかを説明する資料がありません。
中身が良くわからないまま、とりあえず構築されることだけが決まってしまうとは、まさに新たな電子政府バブルです
●「霞が関クラウド」の中身を想像すると
現時点では、「霞が関クラウド」の中身は、さっぱりわかりませんが、何となく想像することはできます。
その前に、「クラウド」について簡単に整理してみましょう。
「クラウド」をサービスで分類すると、だいたい次の4つになるでしょうか。
1 ソフトウェア:SaaS Software as a Service
2 データベース:DaaS Database as a Service
3 プラットフォーム(ミドルウェア+開発環境):PaaS Platform as a Service
4 ハードウェア(インフラ):HaaS Hardware as a Service
上記のサービスを「インターネット経由で提供する」わけですが、それぞれの境界線は必ずしも明確ではないようです。
「霞が関クラウド」は、これまで公開されている情報からは、特にハードウェア(サーバ、ストレージなど)の統合・共同利用を意識しているように思えます。
しかし、「霞が関クラウド」が目指している
・効率的かつ柔軟でセキュアなシステム構築
・開発・運用コストの削減
・業務の共通化
を実現するためには、
上述した4つのサービス全てを使いこなしながら、業務の見直しを行い、さらには行政改革・公務員改革・地方分権といった制度改革を進めることが必要です。
★追記★
平成21年6月19日まで意見募集している「デジタル新時代への戦略(案)」には、次のような記述があります。
『また、本施策(国民電子私書箱構想)と好循環な成果をもたらすものとして、行政情報の電子化による利活用等を推進するとともに、業務改革としての業務・システム最適化の徹底、行政情報システムの全体最適化をさらに推進するため、電子政府・電子自治体クラウドの構築等により、サーバを含む行政情報システムの共同利用や統合・集約化を進める。』
●政府は、自前クラウドの構築を急いではいけない
ITベンダーとしては、自前のクラウド(プライベート・クラウド)を構築してもらった方が儲かるので、そのトレンドを作ろうと必死です。
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みんなで使えるクラウド(パブリック・クラウド)は、すでにアマゾン、グーグル、セールスフォースなどがあり、大手のITベンダーは、すっかり乗り遅れてしまったからです。
しかしながら、クラウドなるものがよくわからない段階で、自前のクラウドを構築することは避けるべきです。
これとよく似たことが、電子申請システムにありました。
都道府県や政令指定都市などが、電子申請がどんなものかをよく理解しないまま、国が定める電子申請システムを単独&自前で構築しました。ところが、いざ作ってみたらほとんど利用されず、維持費だけが毎年何億円もかかりました。
そこで、今度は、同一県内の市町村と共同利用にして、構築・維持費を減らしましたが、それでも利用に見合わない出費が続きました。
維持できず、システムを停止する自治体も出てきました。
その後、民間企業が提供するASPサービスの利用が増え、初期費用も運用費も格段に安くなりました。それこそ当初の10分の1、100分の1の費用です。
多種多様な個人情報を取り扱う電子申請システムも、別に自前で構築・維持する必要などなかったのです。
さて、「霞が関クラウド」は、ここから何を学ぶことができるでしょうか。
今からでも遅くはありませんので、「霞が関クラウド」の構築については白紙に戻した上で、自前クラウド市場がもう少し成熟・沈静化するのを待ちましょう。
それまでは、民間企業が提供するクラウドを、安価に利用しながら勉強しておけば良いのです