電子政府における業務・システム最適化、これまでの成果と今後の期待

本ブログの読者の方から「業務・システム最適化指針」について、ご質問いただきました。せっかくの機会なので、改めて整理しておきたいと思います。

「業務・システム最適化指針」は、電子政府関係者向けのガイドラインで、電子政府の総合窓口(電子政府の推進について)に掲載されています。

その構成を見ると、

「業務・システム最適化指針(ガイドライン)」(2006年(平成18年)3月31日各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)
第1 業務・システム最適化に関する全般的事項
第2 業務・システム最適化企画指針(ガイドライン)
第3 業務・システム最適化実施指針(ガイドライン)
第4 業務・システム最適化実施の評価指針(ガイドライン)
第5 別添:業務・システム最適化指針(ガイドライン)

となっています。

これは、「業務・システム最適化」が、PDCAサイクル(計画-実施-評価-改善)で動いていることを意味しています。「一度動き始めたら、止められない止まらない」という継続的な取り組みなのですね。

なぜ「業務・システム最適化」なのかと言えば、「便利で効率的な電子政府」を実現するためには、「業務・システム最適化」が必要不可欠で最良の方法だと考えられたからです。

「便利で効率的な電子政府」というのは、
・ITを行政の各分野に最大限に活用することにより
・国民の利便性の向上
・利用者負担の軽減
・行政運営の簡素化、効率化、合理化、高度化、透明性の向上

を目指すもの。

もう少しわかりやすくまとめると、電子政府が目指す「便利な行政サービス」を限られた予算で実現するためには、今までのような仕事のやり方では難しい。。。うーん、これは仕事のやり方を変えないといかんなあ・・・と。

今までのような仕事のやり方とは、いわゆる「縦割り」のことで、「連携しない省庁と情報システム」「同じような業務やシステムの重複」などを意味します。

現実問題として、情報システム無しに行政の仕事はできませんので、「業務とシステムの両方を、政府全体として見直しましょう」となりました。

では、どうやって見直そうかと考えた時に、アメリカで生まれたEA(エンタープライズアーキテクチャ)という手法が良いのではないかと提案され、このEAが日本流にアレンジした形で採用されました。

参考>>エンタープライズ・アーキテクチャ - @IT情報マネジメント用語事典

このEAを使った業務とシステムの全体的な見直しが、「業務・システム最適化」と言われるものです。

まあ、何しろたくさんの業務と情報システムがあるため、各省庁に対して、割り振りをしています。

『この業務は、あなたたのところの担当なので、最適化もあなたのところでやってくださいね。』

『この業務は、各省庁に共通しているので、みんなで最適化しましょう。取りまとめ役は、あなたのところでお願いしますね。』

といった感じです。

さて、業務とシステムの全体的な見直しは、現状認識から始まります。

どんな業務や情報システムがあって、どのように動いているのかを、「設計図」として書き出していきます。

「業務・システム最適化指針」は、この「設計図」の描き方を指南したものと言えます。

「設計図」の描き方を共通化しておけば、あとでお互いに参照できるからです。

こうして「現在の設計図」を書き終えたら、次は、こうすればもっと効率的で費用も安く済みますよという「将来の設計図」を書きます。この「将来の設計図」を基にして、既存の業務・システムの刷新を行っていきます。

特に、「レガシーシステム」と言われるベンダー依存度が高い情報システムについては、将来にわたって高額な更新・維持費用が発生するため、できる限り無くしていこうとされました。

現在、「クラウド」なるものが、電子政府の分野でも注目されていますが、こうした新たな手法や技術についても、「業務・システム最適化」に追加することができます。

こうすればもっと効率的で費用も安く済みますよという「将来の設計図」を書いているわけですから、今よりもっと効率的で費用も安く済む方法が見つかれば、「将来の設計図」に書き足していくのは、むしろ当然のことと言えるでしょう。

●システム中心の見直しから、業務の見直しへ

「業務・システム最適化」の進捗状況は、定期的にチェックされています。

各府省情報化統括責任者(CIO)補佐官等連絡会議各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議を経て、最適化実施評価報告書が毎年作成・公表されています。

もちろん、作者も委員の一人である電子政府評価委員会でもチェックされます。

そうした中で、「業務・システム最適化」が上手くいっている部分と、上手くいっていない部分が見えてきました。

比較的進んでいるのは、ハードやインフラの見直しです。

例えば、データの保存を300箇所ぐらいでバラバラにやっていたのを、4箇所ぐらいに整理したとか。貧弱な回線が何本もあったのを、まとめて高速回線に切り替えたとか。。

他方、遅れているのは、情報システムの共通化・共有化や業務改革(BPR)などです。

例えば、同じような業務なのに、今まで各省庁で個別にシステムを持っていたのを、業務を簡素化・標準化して、システムも一つにしてみんなで使いましょう。といった試みは、なかなか思うように進みません。

そう、まさに「縦割り」が最大の障害となっているのです。

今までのような仕事のやり方では難しい。。。うーん、これは仕事のやり方を変えないといかんなあ・・・ということで始まった「業務・システム最適化」なのですが、

・仕事のやり方は変えたくないぞー
・うちにはうちのやり方があるのだ。他省庁とは違うぞー

と言ったか言わないかは別としても、業務の簡素化・標準化が進まないと、情報システムの刷新が遅れたり、予算をオーバーしたりします。

こうした問題は政府内部でも認識されており、今後は「業務の簡素化・標準化」が徹底して行われることになるでしょう。

関連>>旅費、謝金・諸手当及び物品管理の各業務・システム最適化計画(案)

「業務の簡素化・標準化」が不十分であれば、情報システムの刷新は一時停止しなければいけませんね。

●自治体における業務・システム最適化

最後に、自治体における業務・システム最適化について考えてみましょう。

まず、自治体としての戦略や首長の方針において、限られた予算でITを活用した「便利な行政サービス」を実現しようという強い意志がなければ、「業務・システム最適化」を実行する意味は、あまりありません。

「今まで通りのやり方で、何も問題は無い」と考えているのであれば、「業務・システム最適化」のような面倒なことは、しない方が良いのです。

「業務・システム最適化」は、非常に手間のかかる作業で、しかも一度やり始めたら、何度も見直しをしながら続けていかないと効果が期待できません。

また、比較的小規模の自治体では、政府ほどには「連携しない省庁と情報システム」「同じような業務やシステムの重複」といった問題を抱えていないので、必要性も高くありません。

これが、東京都のような大規模組織となると、「業務・システム最適化」の必要性は高まります。実際、東京都は中央政府より進んでいる感もあります。

参考>>東京都のレガシーシステム刷新の状況

自治体における「業務・システム最適化」で大きな効果が期待できるのは、国・都道府県・市町村が連携して、「業務・システム最適化」を実践していく場合でしょう。

国・都道府県・市町村の業務を仕分けして、最適な業務配分とした後に、業務を簡素化・標準化し、業務を実施するための情報システムを整理・統合して、国・都道府県・市町村で共同利用すれば、費用も格段に安く済みますし、お互いの業務連携もしやすくなります。

参考>>構想日本:行政の「事業仕分け」

もちろん、市町村が単独でできることもあります。

どんな業務や情報システムがあって、人やデータが、どのように動いているのかを洗い出すだけでも、無駄なシステムや優先的に刷新が必要なシステムなどの発見に繋がります。

これぐらいであれば、ほとんどお金はかかりませんので、やる気次第でできます。

洗い出しの作業を職員が中心となって行うことができれば、職員の意識改革・向上にも効果がありますね。