国民IDは政府による監視社会を招くのか(2)、現実化していく相互監視社会

国民IDは政府による監視社会を招くのか(1)、本当に恐れるべきなのはの続きです。今回は、監視社会について考えてみましょう。

作者は映画が好きなので、政府による監視が描かれている映画を紹介しながら。

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デ・ニーロがカッコイイ、テリー・ギリアム監督の近未来SF。

コンピュータによる国民管理・監視社会が舞台なのですが、コンピュータが古いものだから国民の監視や記録がまあ大変。

こうなると、コンピュータ要員だけでも現在の公務員の10倍ぐらい必要かと。IT予算も社会保障費ぐらいかかって、ITベンダーは嬉しいに違いありませんね。

監視というのは、人手とお金がかかるのです。

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こちらは、もう少し現実的なお話。ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツが舞台となっています。

ガチガチの共産主義体制でさえ、国民を監視するのは大変なことがわかります。

全国民を監視・管理するのは、そもそも無理な話。

実際の監視は、ターゲットを絞って行うのですね。

そして、ターゲットを絞ったとしても、とっても大変な作業なのです。

自分で浮気調査でもしてみればわかることです。

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最後に、もう一本。

こちらは、かなりハイテクを駆使した監視・追跡です。

と言っても、10年以上前の作品なのですが。。

ここでも、ターゲットを絞って、お金と人をバンバン使ってます。

こんなのを大量にやってたら、政府は破産しちゃうぞ。

●もはや政府は管理も監視もできない

現在は、インターネット上に個人情報を含む大量の情報が流通しています。

情報統制が困難であることは、お隣の中国を見てもわかること。

それと同様に、個人にIDを付与しようがしまいが、日々の行動を監視・管理することなどできないのです。

これからは、アクセスが自由または容易なネットワーク上に流通する多量な情報から、ある種の情報を自動選別し蓄積しデータベース化していく。あるいは、リアルタイムで警告したり、プログラムされた行動を実行してくれるといったことが、民間サービスとして実現していくことでしょう。

情報の源泉は、政府よりも民間企業や個人が主となります。

自分または他人の個人情報を、あまり意識・意図することなく提供する。情報にはテキストだけでなく、携帯や監視カメラからの画像や動画もあります。

こうなると、政府による国民の監視ではなく、政府も企業も個人も入り混じった「相互監視社会」と言った方が良いでしょう。

普段は平和に流通している情報が、ターゲットや目的が定められることで、検索・閲覧・分析され、新たな情報やターゲットが追加されていきます。そのスピードたるや、なんとも恐ろしいものです。

つまり、国民IDに関係なく、「政府による一方的な監視・管理」が実現する可能性は低くなるばかりで、世界は「相互監視社会」へと向かっているのです。

「個人情報の自己コントロール」などを主張するのは虚しいばかり

次回は、国民IDと関係の深い「税の徴収」について考えてみましょう。

“国民IDは政府による監視社会を招くのか(2)、現実化していく相互監視社会” に2件のコメントがあります

  1. 映画から考える
    監視システムならばサンドラ・ブロック主演の「ザ・インターネット」(クリッパーチップが元ネタ、サンフランシスコのシーンはハーヴェイ・ミルクを連想させる。邦題はひどいけど…)もおすすめです。あとは、監視システム(早期警戒システム)が発注者の意図通りに機能するという映画ではなく、バックドアやバグがありました、というテクノスリラー映画もいれるといっぱいありますね。
     私も権利を認める認めないといった抽象論な二元論はどうかと思います。リスクは白黒ではなく確率で考えるべきであって、伝統的に民間よりもリスクが高い組織をどうするのかという情報マネジメントの問題ではないかと。

  2. 情報マネジメントと電子政府
    S.Y.さん、こんにちは。
    コメントありがとうございます。

    「ザ・インターネット」も、面白かったですね。映画が作られた当時(1995年)、日本では、またパソコン通信時代だった記憶があります。

    「リスクは確率で考えるべき」と言うのは、その通りと思います。

    守るべき対象の価値や優先順位を明らかにして、費用対効果を考える必要があるのですが、日本の電子政府では「セキュリティ」という名の下に、画一的で過剰な投資が行われてきました。

    しかも、住基ネットやLGWAN(総合行政ネットワーク)の構築・維持費用さえ、明らかにされていません。

    「情報マネジメント」という視点からも、日本政府はかなり遅れています。

    今年になって、ようやく公文書管理法が成立したぐらいですから。。
    http://www.47news.jp/CN/200906/CN2009062401000225.html

    中央政府の情報セキュリティは、全体としての底上げも進みつつありますので、まだ良い方と思います。

    問題は、格差の大きい地方自治体でしょうか。民間のSaaSを使うのは問題があると言われますが、穴だらけの自治体よりも、データを民間に預けた方がはるかに安全というのが現実と思います。

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