i-Japan戦略2015を読み解く(3)、「国民電子私書箱」の一人歩きに注意

i-Japan戦略2015を読み解く(2)、コンピュータを使いこなせない日本の続きです。今回から、いよいよ電子政府の話になってきます。

●スコープ(対象範囲・分野)

1 三大重点分野
(1)電子政府・電子自治体分野
(2)医療・健康分野
(3)教育・人財分野
※「人材」ではなく「人財」とあるのは政府の造語

2 産業・地域の活性化及び新産業の育成

3 デジタル基盤の整備

あまり一般的でないカタカナ用語の使用は避けるべきと思いますが、スコープという言葉を使って、対象とする範囲や分野を定めています。

三大重点分野は、IT活用に対して現場や業界団体からの抵抗も大きく、投資対象としてはあまり魅力的とは言えません。ただ、税金を使いやすい分野であることは確かです。

仮に投資するのであれば、積極的に導入したいと考える人たちを支援し、強力なインセンティブを与えると共に、その進捗や結果に対するチェックが必要となります。

●電子政府・電子自治体分野の将来ビジョンと目標

★2015 年までに実現すること(目標)
・デジタル技術による「新たな行政改革」を進める
・国民の利便性を飛躍的に向上する
・行政事務を簡素効率化・標準化する
・行政の見える化(透明性を向上する)

★目標実現のために実施すること
・電子政府推進体制の整備
・過去の計画のフォローアップ
・PDCA 体制の確立
・「国民電子私書箱」の普及・定着
・新たな行政サービスの提供(下記)

★2015 年までに国民に対して提供する行政サービス
・テレビ、パソコン、携帯電話、窓口などの好きな手段で利用できる
・自宅やコンビニなどから、24 時間、必要な証明書を入手できる
・コンピュータが苦手な人でも、行政の窓口から質の高いワンストップ行政サービスを簡単に利用できる
・3クリック程度の少ない画面操作で、行政情報やサービスメニューにたどりつける
・本人の選択により、金融、医療、教育等の民間サービスと行政サービスが連携する
・行政手続の処理状況を追跡し、自らの情報の所在を確認できる

★2015 年までに実施する行政オフィスの改革
・行政機関間のデータ連携とペーパーレス化により、手続や添付書類を不要とする
・国民・企業等の目線からシステムやサービスを徹底的に見直す
・国民電子私書箱の普及により、関連事務コストを3割以上削減する
・削減コストの一部を、行政サービスの開発や改善のために投入する

将来ビジョンと目標は、これまでと比べると国民視点があるように思います。

気になるのは、「行政サービスを良くする」ことを宣言し約束せよで触れたような、政府の強い意志と決意、実行を担保する責任所在の明確さに欠けることです。

また、目標については、より具体的な指標を示していくことが大切ですね。

違和感が大きいのが、「国民電子私書箱」です。この部分だけ、なぜか具体的な「箱モノ」が出てきます。

どうも政府は、この「国民電子私書箱」を、電子政府の「切り札」のように考えているようです。ちょっと前の流行り言葉で言えば、「キラーサービス」「キラーコンテンツ」といった感じでしょうか。

今までに、そうした強力なサービスが日本の電子政府で生まれたことはありません。

当初「キラーサービス」と言われていたものは、すでに消滅したか、利用が増えないまま何年も続けられている状態です。

「国民電子私書箱」の怪しさ危うさは、本ブログでもたびたび取り上げてきましたが、いよいよ作者の悪い予感が現実味をおびてきました。

これまでの電子政府が散々犯してきた過ち。すなわち、

・政府主導のサービス設計、開発、提供
・費用対効果を無視した巨額な投資
・根拠の乏しい非現実的な利用・普及見込み
・サービス稼動後は利用実績が低迷
・負担の大きい維持・運用費
・大き過ぎるゆえに止められない変えられない
・誰も責任を取らないまま、漫然と続けていく
・あるいは、徐々に縮小し、いつの間にか停止・消滅へ

国民は、「国民電子私書箱」が一人歩きして、変な方向へ行ってしまわないように、しっかりチェックしないといけませんね

もちろん、本ブログでも引き続きチェックを続けます

“i-Japan戦略2015を読み解く(3)、「国民電子私書箱」の一人歩きに注意” に2件のコメントがあります

  1. 電子私書箱と中間データベース

    >国民は、「国民電子私書箱」が一人歩きして、変な方向へ行ってしまわないように、しっかりチェック

    総務省の補正予算に、
    http://www.soumu.go.jp/main_content/000019655.pdf

    「電子政府・電子自治体の加速」予算中に、”電子クラウドの推進(霞が関・自治体クラウド及び国民電子私書箱構想の推進)にて、207億円を組込しています。電子私書箱構想の推進。

    社会保障カード(仮称)の基本的な計画に関する報告書中にある、「中間データーベース」とは、この電子私書箱のことを指すのでしょうね。

    バブルですね。ITバブルです。箱物行政と違って、無駄投資が目に見えない分、やっかいですね。

  2. 中間データーベース
    コメント&情報ありがとうございます。

    中間データーベースは、個人情報等を共有する際に仲介機能を果たすものと思います。

    ・社会保障カード
    ・電子私書箱
    ・次世代電子行政サービス

    この3つの施策どれもが、情報保有機関(役所だけでなく民間も含む)を繋ぐ仕組み「仲介機能」が必要になります。

    社会保障カードでは「中間データーベース」
    電子私書箱では「電子私書箱プラットフォーム」
    次世代行政サービスでは「行政情報の共同利用支援センター」
    と言っています。この3つは、名称こそ違えど共通する部分が多いので、個別バラバラに作るのはやめましょう、となっています。

    「プライバシーアレルギー」のような人たちは、こうした「仲介機能」を毛嫌いしており、政府による個人情報の一元管理が行われると心配することでしょう。

    現在は、住基ネット問題の頃ほどには、役所間による個人情報の共有について反対する人はいないと思います。

    それよりは、年金記録問題などにより、きちんと管理して欲しい、役所間の連携で無駄をなくして欲しいと考える傾向があるように思います。

    個人的には、国民や第三者機関からの適切な監視があれば、「仲介機能」を実現することには賛成です。この際に、無理に新たな国民IDを導入する必要もありません。すでに住民票コードもありますし。

    こうした「仲介機能」に対する一番の懸念は、プライバシー問題などではなく、構築や維持に費用がかかる一方で、「ほとんど使われない」というリスクです。

    現在の縦割り行政を前提とした仕事のやり方では、「ほとんど使われない」可能性のほうが圧倒的に高いでしょう。

    もしこうした「仲介機能」の利用が、電子私書箱やワンストップ電子申請といったオンラインサービスの利用を前提としているのであれば、まず「ほとんど使われない」ことは間違いありません。当然ながら、税金の投入も止めた方が良いです。

    窓口業務や紙申請を含めて、全ての行政サービスや手続を実施する際に、この「仲介機能」が使われるのであれば、投資する価値はあります。

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