国民IDは政府による監視社会を招くのか(3)、納税者番号の導入で公平感と税収をアップ

国民IDは政府による監視社会を招くのか(2)、現実化していく相互監視社会の続きです。今回は、国民IDと関係の深い「税の徴収」について考えてみましょう。

国民IDが付与される経緯や歴史は国によって異なりますが、最終的には「税の徴収」で利用されるようになることが多いです。

納税者番号が機能している国としては、アメリカ、カナダ、オーストラリア、韓国、シンガポール、イタリア、ドイツ(導入中)、北欧(デンマーク、スウェーデンなど)があります。主要先進国で導入していないのは、イギリスとフランスぐらいでしょうか。

その呼び名も、社会保障番号、社会保険番号、住民登録番号、個人識別番号、住民識別番号、納税者番号と様々ですが、実質的には納税者番号として機能しています。

なぜなら、「税の徴収」における国民IDの活用が、最も有効で利用価値が高いと考えるからです。

参考>>財務省:納税者番号制度に関する資料(平成21年4月現在)

これまでお話してきたように、国民一人一人を監視することは極めてお金がかかる困難なことなので、政府による監視社会は現実的ではありません。

だから、相互監視社会を利用して、「人」ではなく「行為」をチェックします。
例えば、ネット上で犯罪を予告するような「書き込み」があれば、その「書き込み」からたどって特定の「人」にたどり着ければ良いと。

しかし、これが「税の徴収」となると、国民一人一人の所得や取引等を監視し、誰がどれだけ収入があったか(どれだけ税金を払うべきか)を政府が把握することが必要になります。

納税は、日本国憲法が定める国民の義務ですし、何より政府の大切な収入源です。

それは、「お金をかけて監視する価値がある」ことを意味します。

「政府によるプライバシーの侵害だ!」と叫ぶ人を見て、政府は「あなたのプライバシーなんて、興味ありません。」と言うでしょう。けれども、「あなたの所得」となると、「いやー、とっても興味がありますねー」となるのです。

●課税所得の捕捉率

税務署による課税所得の捕捉率を揶揄する言葉として、クロヨン(964)、あるいはトーゴーサンピン(10531)などがあります。

参考>>クロヨン – Wikipedia

文字通り解釈すると、

サラリーマン:約10割
自営業者:約5割
農林水産業者:約3割
政治家・宗教家:約1割

となります。

年金生活者も、住民税まで天引きされるようになったので、サラリーマンと同じく10割仲間と考えて良いでしょう。

例えば、100万円の収入があり、税率が10%だった場合、実際の納税額は

サラリーマン:10万円
自営業者:5万円
農林水産業者:3万円
政治家・宗教家:1万円

本来なら40万円の税収が、半分ぐらいしか徴収できないのです。

しかしながら、国民一人一人の所得を監視し、誰がどれだけ収入があったか(どれだけ税金を払うべきか)を政府が把握することは、とっても大変です。

だから、一番人口が多くて、一番取りやすくて、一番文句を言わない人たち(=サラリーマン)から、しっかり税金を取って、それ以外は大変だし付き合いもあるので、割引しても良いだろうといった感じです。

もちろん、政府がそんなことを公式に認めているわけではありませんが、課税所得の捕捉率にかなりの不公平があることは、多くの識者が指摘しています。

●サラリーマンが10割の理由

サラリーマンの捕捉率が10割と言われるのは、世界最強と思われる「源泉徴収&年末調整」の仕組みがあるからです。

この仕組みにより、政府に変わって、企業が無償で、従業員一人一人の所得を監視、計算、報告、徴税、過不足の調整までしてくれるのです。この場合、納税者番号は必要ありません。

ちなみに、日本で公務員の数が少ない理由の一つとして、こうした「政府の仕事を企業にやらせている」ことが挙げられています。

さて、サラリーマンは、「源泉徴収&年末調整」のおかげで「自分で申告しなくて良いから楽チン!」と企業や政府に感謝します。

それを見て、政府は「いやー、こいつらアホでホントに助かるわー」と喜ぶわけです。

政府にとって、サラリーマンは毎日せっせと卵を産んでくれる鶏か、ミルクを絞られる乳牛のようなもの。

たまに文句を言ったとしても、もっと美味しい餌が食べたいとか、寝床をきれいにしてくれとか、たわいも無いことばかり。。

さらには、借金してまでマイホームを購入し、固定資産税まで払ってくれたりするのだから、ホントに美味しい存在なのです。

ちなみに、固定資産税(地方税)も、議員(地方)は安めにサラリーマンは高めに設定されているといった話があります。

いちおうの「固定資産評価基準」という基準があるものの、自治体側で調整できるからです。そして、その結果は比較することができない(自分の不動産の評価額しか閲覧できない)ようになっています。

同じサラリーマンでも、週末起業やサイドビジネスなどで、給与所得以外の収入がある場合は、政府にとっては厄介な存在です。納税者としての意識が高く、税金の天引きを良しとしないからです。

●納税者番号に反対する人たちとは

本当の意味で、納税者番号に反対する人たちは、「税務署から課税所得を捕捉されたくない人たち」です。

・政治家
・宗教家
・農林水産業者

これらと関係が深い政党や団体は、納税者番号に反対する圧力となります。

しかし、反対する際に「税務署から課税所得を捕捉されたくないよー!」と本音を言うわけにはいきません。

そこで利用されるのが、「プライバシー問題」や「政府による監視社会」といった不安をあおる言葉です。

すでに約10割の課税所得を捕捉され、税金を天引きされているサラリーマンや年金生活者も、こうした不安な言葉を耳にすると、なんだか今まで以上に税金を取られてしまうのではないか。ささやかなお小遣いやヘソクリまで取られてしまうのではないか。と心配してしまいます。

こうなると振り込め詐欺にだまされた人のごとく、ほとんど思考停止状態となり、「国民ID反対!!」「納税者番号けしからん」となってしまいます。

その様子を見て、「本当の意味で、納税者番号に反対する人たち」は、「いやー、やっぱりこいつらアホだわー。ホント助かるなー」とほくそ笑むのでした。。

●税のあり方を見直すきっかけとして

今後の日本は、過去のような経済成長は見込めず、税のとり方や使い方を工夫しないと厳しい。。。

その意味で、納税者番号の導入(すでにある住民票コードを使えば良い)は、税のあり方を見直す良いきっかけとなることでしょう。

国民IDや社会保障番号の導入で、「行政サービスが良くなる」とか「年金記録問題が解決する」といった主張は、あまり説得力があると思えません。

むしろ、既存IDの統合、データの移行や更新、制度の維持コストなどにより、莫大な支出が発生する一方で、期待した効果を得られない可能性が高いでしょう。

ですから、もっとも現実的な国民IDの議論は、

・課税所得の捕捉率を上げ
・税の公平性を確保し
・税収をアップするために
・納税者番号を導入する

ことだと思います。そんな考え方もあるということです。

いずれにせよ、国民IDと関連してプライバシー問題を訴える主張には、その内容と共に、誰がどのような立場で言っているのかを注意する必要があります。

もしかしたら、そうした主張をする人たちの真意は、自分たちの利益を守るためであり、国民のプライバシーなどたいして重要と思っていないかもしれません。

もし本当に自分のプライバシーを守りたい、政府から監視されたくないと思うのであれば、マスコミや一部の情報だけに頼ることなく、様々な角度から自分自身でじっくり考えてみることが大切と思います。

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“国民IDは政府による監視社会を招くのか(3)、納税者番号の導入で公平感と税収をアップ” に2件のコメントがあります

  1. Unknown
    問題は給付付き税額控除などと称して、フリーターや主婦のパートに金をばらまこうとしていることです。

    それを可能にするのが納税者番号制度ですよ。

    アメリカでは給付付き税額控除の不正受給が大きな問題になっています。この制度で公正が担保されるはずがありません。

  2. 番号だけでは
    確かに、効果の低いバラマキは止めて欲しいですね。

    番号制度は、「何に使うか」に加えて、「実効性があるか」が重要です。

    番号があっても、所得(取引)と結びつける仕組みが弱いと、あまり意味がありません。

    アメリカの場合は、「社会保障番号」ですが、利用や管理がずさんだったため、「成りすまし」などの被害も多いようですね。

    これに対して、北欧などは「国民登録番号」であり、米国に比べると、より「実効性がある」と思います。

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