退職ワンストップサービス実現へ向けての段階的アプローチ、実際の役に立つ「電子行政サービス」の作り方
次世代電子行政サービス基盤等検討プロジェクトチームが、平成21年7月27日付けで「退職ワンストップサービス実現へ向けての段階的アプローチ(PDF:6MB)」という報告書を発表しています。
今回は、本報告書を参考にしながら、実際の役に立つ「電子行政サービス」の作り方を考えてみたいと思います。
●サービス提供は民間で
電子政府・電子行政サービスを作る場合、行政にしかできないことは行政が中心となって行いますが、実際のサービス提供(コンテンツ維持管理、ユーザビリティ、プロモーションなど)については、できる限り民間に任せた方が良い。というのが作者の考えです。
民間と言っても、通常の電子政府ベンダーは含まれません。
現在の電子政府ベンダーが持っている体制は、「行政情報システム構築者」としてのものであり、「サービス提供者」ではないからです。業務分析はできても、サービス提案は難しいのです。
理想としては、
・ヤフーのようなウェブポータル企業
・当該分野のサービス提供で実績のある企業や士業
・電子政府ベンダー
といった組み合わせがオススメです。
●行政は調整役で裏方に徹する
行政が中心となって実施する例としては、次のようなものがあります。
・利害関係者への参加働きかけと連絡・調整
・申請・届出等のデータ形式統一化
・API公開
・添付書類の削減・電子化
・業務の見直し(行政BPR)
行政は、全体の調整役となって裏方に徹することで、民間の力を引き出すべき。というのが作者の考えです。
しかし、現実としては、サービス分野の所管官庁自身が最大の利害関係者であり、サービス実現の障害となる可能性が高いのです。
現在、CIO(政府CIO,省庁CIO)の権限強化が進められていますが、こうした取り組みは、「所管官庁の利益優先」から「国民の利益優先」「利用者の視点」へと移行するために必要なのですね。
●サービスの基本は「情報提供」にあり
サービス提供のあり方については、本ブログやホームページを通じて、これまでに多くの提案をしてきました。実際に、プッシュ型サービス、シミュレーション機能、マルチチャネル化などが採用されつつあります。
関連ブログ>>電子申請にはシュミレーション機能を|
次世代電子政府サービスを考える:これからは行政が国民に合わせる|次世代電子政府サービスを作るためのキーワードとは
しかしながら、サービスの提供は、「情報提供」が基本となります。
電子政府・電子行政サービスの成功は、「実際の利用者が欲しい情報、役に立つ情報を、いかに効率よく効果的に届けることができるか。」にかかっていると言えます。
「情報提供」が成功していれば、サービスの利用者(ウェブサイトの訪問者)は、既にかなりの満足を得ているからです。実際の申請や届出は、その延長でしかありません。
報告書には、退職手続に関するアンケート結果が出ていますが、その内容を見ても「情報」の重要性がわかります。
一般的な情報に加えて、実際の事例(特に困った場面とその対応など)が豊富にあり、電話やメールでの問い合わせが気軽にでき、自分に合わせた(カスタマイズされた)情報提供があると、利用者はとても助かります。
●情報提供の方法例:検索サービスの強化として
「自分に合わせた情報提供」は、検索サービスと考えればわかりやすいでしょう。
例えば、駅探:乗り換え案内では、出発地、目的地、時刻などの希望を入力して、価格、時間、乗換え回数などを基準とした最適な方法を案内してくれます。
実務では重要視されているにもかかわらず、電子政府サービスで、ほとんど採用されていないのが、「時間」の視点です。
全体でどれぐらいの日数がかかるのか、いつまでにすれば良いのか、といったことは実務では非常に大切であり、「顧客(利用者)の時間を大切にする」視点は、サービスの満足度に大きな影響を与えます。
金額、時間、手間という要素は、「より安く」「より早く」「より簡単に」という利用者のニーズに直結する必須情報なのです。
価格.comの検索機能も参考になります。
同サービスの『詳細スペック検索』などは、電子政府でも大いに参考にするべきでしょう。
具体的な電子政府サービスとしては、次のようなものが考えられます。
1 目的(結婚、ビジネス開業など)を入力(または選択)して検索する
2 いつまでに、どこで、何をすれば良いか、いくらかかるかなどがわかる
3 結果は、プリントアウトしたり、携帯にメール転送できる。
4 詳細検索では、大よその所在地、日付などを入力して検索する
5 より具体的な情報(最短の日数、提出先など)がわかる
6 個人情報を登録しておけば
7 追加情報を入力するだけで
8 申請書等をプリントアウトできる
●退職手続なら、民間サービスを利用した方が便利
報告書では、退職に関する手続案内サービスを提案しており、具体的な情報提供イメージもあります。
しかし、その内容を見ると、とても税金を使って作るべきものとは思えません。
実際、退職手続については、企業や専門家(社会保険労務士など)が、インターネット上で情報提供しています。
そこには、電子政府では実現されていない「利用者の視点」があります。
彼らは、実際の利用者と接する中で、どのような情報が求められているかを理解しているのです。
例えば、リクナビNEXTが提供する円満退職の仕方を見れば、たいていのことはわかります。
これを「次世代電子行政サービス」に任せたら、単なる「行政手続の案内」で終わってしまうことでしょう。
社会保険労務士事務所が提供する退職転職の手続きガイドでは、「労使トラブル」という視点で情報が整理されています。
退職Q&A~失業保険、雇用保険の手続き~を参考にすれば、各種給付のもらい忘れをチェックして、より「お得な退職」を実現できそうです。
●「次世代電子行政サービス」のために行政がするべきこと
本当に役に立つ「次世代電子行政サービス」を実現したいのであれば、
・民間サービスを支援する
(API公開、一時情報のデータベースやライブラリ提供など)
・民間サービスの場所を借りる
(電子政府で作った検索や申請サービスを置いてもらう)
・行政内部の効率化や標準化を地道に進める
といったことに集中するのが良いでしょう。
本当に国民のニーズがあるならば、民間サービスが育つものです。
電子政府は、そうした民間サービスが育つことを、裏方として支援する。少なくとも、邪魔しないようにしなければいけません。
後は、行政自身が、仕事のあり方・やり方、組織のあり方、お金の使い方などを変えていく中で、より効率的で国民から愛される行政になっていけば良いのです。
その変化に合わせて、民間サービスは柔軟に対応してくれます。