ちょっとだけ怖いかもしれない話、その3
最後に、ちょっと番外編として。
「幽霊なんかより、人間の方が、よっぽど恐ろしい」と思う。
亡くなった人より、生きている人の方が、どう考えても怖いのは
ほんの数十年間の歴史を見ても、よくわかる。
先日、チリにおけるピノチェト軍事政権時代を描いたドキュメンタリーが、BS世界のドキュメンタリーで放映されていた。
そこで描かれている誘拐、拷問、殺人は、全て生きている人間の手によるものだ。
そんな人間の怖さに、ちょっとだけ通じる話を。
ある夜、なんとなく寝苦しくなって目が覚めた。
ふと足元を見ると、なにやら黒いモヤモヤした物体がうごめいている。
「ん? なんだろ?」
と思った次の瞬間に、金縛りに。。
これは、ちょっとヤバイのでは???
とビビっていると、その黒い物体が、顔の方に近づいてくる。
「お、重いっ」
かけ布団の上を這うように近づいてくる黒い物体は、どうやら人の形をしているようだ。
その重みと感覚は、まさに、人が乗っかっている時のもの。
「こいつ、女だな」
なぜだかわからないが、なんとなく女性であると感じる。
顔へ近づいてくるにつれて、ますます人の形がはっきりして、髪の毛の質感もわかるようになった。
「もしかして、Fさんか?」
これまた、なぜかわからないが、なんとなく知り合いのFさんのような気がした。
黒い物体は、すでに、私の顔から10センチぐらいまで近づいていた。
おぼろげながら、顔かたちもわかる。
次の瞬間、その黒い物体から、長い舌が出てきて、私の顔を「ベローン」となめた。
「うわっ、くさっ!」
なめられた気持ちの悪い感触と共に、今まで嗅いだことがないほどの生臭い息が顔にかかる。
「もう、早くいなくなってくれ」と思いながら、目を閉じて、とりあえず、南無妙法蓮華経と心の中で繰り返す。
しばらく念じていると、金縛りが解けて、動けるようになった。
恐る恐る目を開けるが、もはや黒い物体はいなかった。
残ったのは、あの気持ちの悪い舌の感触と、「もしかしたら、Fさんなのでは?」という不思議な予感。
次の日、Fさんから連絡があった。
「久しぶりに会いましょう」という普通の連絡であった。
ここで会わないと、また黒い物体が出てきそうな気がしたので、会うことにした。
結局、Fさんに黒い物体の話はできなかったが、会ってみて、やっぱりあれはFさんだったのだろうと思った。
と言うのは、以前にも似たような経験があったからだ。
20代も前半の頃、寝ていると、同じような黒い物体が出てきた。
その時は、顔を舐められたりはしなかったが、まるで猫が身体を擦り付けて甘えるかのように、私の寝ている身体に擦り寄ってくる。
もしかしたら、彼女(その当時付き合っていた)なのではないかと、なんとなく思った。
次の日、彼女に会ったときに、冗談交じりで
「昨日、夜中にお化けみたいなものが出てきたんだけど、もしかしたら、お前じゃないのか?」
と言ってみた。
「なに言ってんのよ。そんなわけ、ないでしょ!」
といったツッコミを期待していたのだが、
「あ、そうかもしれない」
と、予想外の返事がかえってきた。
「え、なんでそう思うの?」
と恐る恐る尋ねると
「うん、昨日から、今日会うのをすごく楽しみにしてたから」
と、あたかも何の不思議でもないような様子だ。
そんな経験があったから、今回の黒い物体も、生きている人だと思ったのである。
もちろん、Fさんは単なる友人なのだが、「久しぶりに私に会いたい」という想いが先行して、黒い物体となって出てきたのではないかと思う。
さらに、昔の彼女とFさんには、共通点がある。
それは、「極度の寂しがりや」であるということだ。
この奇妙な体験から思うのは、「私自身が、この黒い物体になってしまわないように」ということだ。
まだ「会いたい」と思うだけなら良いが、他人のことを悪く思ったり、恨んだりすると、自分が黒い物体となって、他人に悪さをしてしまうのではないかと思う。
「人を呪わば穴二つ」である。