事業仕分け第3弾、電子政府関連の仕分けをチェック

行政刷新(内閣府)による事業仕分け第3弾が始まっています。

・今回は、特別会計を対象に実施
・10月27-30日の4日間が前半
・11月15-18日の4日間が後半(再仕分けを対象)

特別会計には、一般会計以上に電子政府関連の事業が含まれているので、その結果や関連情報を提供していきたいと思います。

関連ブログ>>行政刷新会議の事業仕分けが開始、インターネット中継もあります事業仕分けの第2弾が開催、税金を使わないインターネット中継に学ぶ

●労働保険特別会計

○職業情報データベースの運営等(事業費:2900万円)

結果:事業の廃止(全員一致で)

とりまとめ内容:
独立行政法人の事業として、事業そのものがおかしいとして、一度廃止されたものを国の事業として再度要求していることの合理性が認められない。職業の一覧性はあるものの、本当に本事業が雇用につながっていくのかという効果について非常に疑問であり、このWGとしては、廃止と結論。

関連資料>>事業の概要説明(PDF)論点等説明シート(PDF)

関連サイト>>キャリアマトリックス(労働政策研究・研修機構)

★作者コメント
「プロ野球選手とは」の説明がテレビや新聞でも話題になった事業。天下り法人で「廃止」判定を受けた事業の一部を、国の事業として復活させようとする根性はスゴイ。

税金で作った既存データは、オープンガバメントの一環として、広く民間に解放すれば無駄にならない。代替情報は、ネットでも本屋でも図書館でも入手できる。職業情報に限らず、政府系のデータベースは統合・整理が必須ですね。

●年金特別会計

○紙台帳等とコンピュータ記録との突合せ(事業費:876億3900万円)

結果:紙台帳等とコンピュータ記録との突合せ総合評価方式を見直し、価格競争を重視した入札・調達に変えることによって予算要求を2割程度圧縮

関連資料>>事業の概要説明(PDF)論点等説明シート(PDF)評価結果(PDF)

関連サイト>>年金記録問題への対応の経過について(日本年金機構)

★作者コメント
年金記録は、大きく分けて
1 コンピュータに記録があり、適正に管理されているもの
2 コンピュータに記録があるが、誰の記録かわからないもの
3 コンピュータに記録があるが、紙の記録と一致しないもの
4 コンピュータに記録がないが、紙の記録には残っているもの
5 コンピュータにも紙にも記録が残っていないもの(公務員による着服など)

このうち2の記録については、2008年3月6日までに「5,000万件の未統合記録」と「1億人の方の記録」のコンピュータ上での突き合わせ(名寄せ)が完了しています。ということで、今回の対象の事業は、3と4の記録に関するもののようです。予定では、2013年度に完了とあります。

コンピュータ上の年金記録と紙台帳の記録の全件照合を行ったとしても、5の記録についてはどうしようもありません。仮に社会保障番号・税の共通番号があったとしても、5の記録に対しては全くの無力です。

気になるのは、本人も気がついていない年金額の誤りを掘り起こして国庫の負担を増やすことに、果たしてどれだけの意味があるのか、ということです。「2年ぐらいの期限を定めて、申し出があったものだけに対応する」とした方が良いと思うのですが。。。

そもそも、意識改革やガバナンスの強化ができていない日本年金機構に、なぜ年金業務を任せているのかがよくわかりませんね。。。

○ねんきんネット(コスト:76億3700万円)

結果:郵便局における事業の見直しなど予算要求は全体的に1/4程度圧縮

とりまとめ内容:
郵便局におけるねんきんネットサービスの見直しを含めて、事業内容を見直す。その上で予算については、全体的に1/4 程度圧縮できる。ただし、インターネットによって年金記録をチェックすることの重要性については認識。

関連資料>>事業の概要説明(PDF)論点等説明シート(PDF)評価結果(PDF)

関連サイト>>年金個人情報提供サービス(日本年金機構)

★作者コメント
「ねんきんネット」という事業名から、インターネット経由での年金記録閲覧サービスと思うかもしれませんが、「インターネットを利用しない人のために、郵便局や市区町村窓口での年金加入記録の提供」という事業が含まれています。住民票等の証明書発行サービスでも郵便局を窓口とする事例がありますが、利用も少なく効果が限定的というのが現状です。郵便局を使わないとすれば、予算は半分でも良いのではないでしょうか。

ネットを利用した「年金個人情報提供サービス」への過度な期待は禁物です。国民電子私書箱で触れたように、同サービスのユーザID・パスワード累積発行件数は約146万(2009年2月)に過ぎません。1年半ほど経っているので、現在は300万ぐらいかもしれませんが、何らかの移行インセンティブを付与しない限りは、1000万件の達成も難しいでしょう。そもそも、年金記録はせいぜい数年に一回ぐらい確認すれば十分なので、こうしたサービスに馴染みにくいのです。

ねんきん定期便に記載される番号(アクセスキー)で、ID/パスワードのオンライン即時発行を実現するのは、利用者の行動パターンに沿った良い流れでしょう。海外の電子申告では、電子署名など面倒なものを利用させずに、同様の手法により手軽な即時利用を実現しています。

さらに、次のような形にすれば、もっと良くなります。
1 (一部の人たちが)ねんきん定期便を見る
2 「今後は、インターネットでのご確認をお願いします。」と書いてある
3 「○年○月までにインターネットへ移行すると、もれなく1万円の保険料割引があります。」

現在はクチコミが大きなマーケティング効果をもたらしてくれます。「ねんきん定期便など面倒だから読まない」「ゴミ箱直行」といった人たちも、上記のようなお得な事実をクチコミで知れば、行動に変化が出てくるでしょう。他にも、保険料を納めるごとに、自分がもらえる額が増えてくることを視覚的に訴えるような仕組みがあれば、利用回数が増えるかもしれません。

○ねんきん定期便事業(コスト:103億600万円)

結果:できるだけ早期にネットに移行することとし、予算要求を3割圧縮

とりまとめ内容:
インターネットではアクセスできない方のためには、郵送サービスが必要という意見もあり、本事業を全面的に否定するものではないが、インターネットにきちんと移行させるということをできるだけ早い段階で実施することとし、予算を3割程度圧縮していただきたい。

関連資料>>事業の概要説明(PDF)論点等説明シート(PDF)評価結果(PDF)

関連サイト>>ねんきん定期便コーナー(日本年金機構)

★作者コメント

平成21年度は、137億5100万円をかけて6673万件の定期便が発送され、142万人(郵送での申出)から年金記録の調査の申し出があったとのこと。そのうちの何件が実際の記録訂正につながったかは資料では不明です。

年金記録については、4年ほど前に年金加入状況は郵送で知らせるべきと書きました。その後、ねんきん定期便が実施され、一般国民の多くが自分の現在の年金記録を知ることができるようになりました。これで一段落ついた(リセットされた)と考えて、今後は「いかに正確に効率的・効果的に年金記録を管理し、国民の信頼を回復していくか」を実現していくことになります。

例えば、
1 今後の「ねんきん定期便」は3年に一度ぐらいの送付とする
2 保険料割引等のインセンティブにより、ネット上での記録確認へ移行を進める
3 ネット上での年金記録確認サービス利用者が「1000万人」を超えた段階で
4 年金以外の各種通知や記録なども確認できるサービスを追加していく
5 希望者は、自分の好きなサービスや機能を追加・利用していく

このように、やり方次第では、「国民電子私書」のような国民個人ポータルに発展する可能性もあり、大幅な行政コストの削減も期待できます。本人確認や認証手段については、技術やトレンドの変化を見ながら変更していけば良いでしょう。

このように、電子政府では
・小額の投資により、シンプルで手軽に利用できるサービスから始める
・一定期間中に目標を達成できない場合は撤退する
・利用が増えれば、サービスもセキュリティも鍛えられる
 (利用者と共にサービスも学習・成長していく)
・利用者が増えてきたら、ニーズを確認しながら機能やサービスを追加していく

といった手法が有効です。「するべきこと」をしない限りサービスは使われませんが、「するべきこと」をしたからと言ってサービスが成功するとは限りません。ですから、「失敗するのが当然」ぐらいの感覚で事業を進めていく必要があります。行政が得意の「無謬性(誤りが無い)」とは真逆にあるのが電子政府なのですね。

○所在不明高齢者対策(コスト:26億2700万円)

結果:地方公共団体が本来業務として責任を持っている部分は地方公共団体に実施していただく方向で見直し

とりまとめ内容:
対策をとることの必要性については前提とした上で、地方公共団体が本来業務として責任を持っている部分は地方公共団体にやっていただく。

関連資料>>事業の概要説明(PDF)論点等説明シート(PDF)評価結果(PDF)

関連ブログ>>110歳以上の年金受給者の緊急安否確認結果について、生存確認・実在確認の難しさ

★作者コメント
所在不明の可能性がある年金受給者の年金記録を適正に管理し、年金の不正受給防止を図るのが目的ですが、この問題を根本的に解決するのは非常に難しいことは、ブログで解説したとおりです。

今回の事業は、あくまでも対症療法的なものであり、今後の課題として国民IDや共通番号等を活用した年金記録等の管理体制の確立が求められるでしょう。

●特許特別会計

○特許電子図書館事業((独)工業所有権情報・研修館運営費)(コスト:31億7100万円)

結果:27年度の新システム移行にあわせて廃止。それまでは最大限のコスト削減。

とりまとめ内容:27 年度の新システム移行にあわせて廃止。予算削減の数字は、大変申し上げにくい結果ですので、それまでは最大限のコスト削減ということでまとめさせていただく。

関連資料>>事業の概要説明(PDF)論点等説明シート(PDF)評価結果(PDF)

関連サイト>>特許電子図書館サービス(工業所有権情報・研修館)

★作者コメント
特許庁の新事務処理システムに見る、これからの電子政府サービスのあり方でも触れましたが、同庁のシステムは利用ニーズ・実績が大きいこともあり、政府内でも先進的な取組みがされていると思います。

特許庁の新検索システムの完成後は、特許庁データベースから直接リアルタイムで産業財産権情報が入手可能となる予定なので、今回の仕分け結果は妥当なものと言えるでしょう。

ただし、特許庁のシステムは、社会保障関連のシステムと並んで、その費用が特に高いことも知っておくべきでしょう。情報システムの費用は、政府が強く推進する政策やテーマに関連するものほど、多額の予算がつきやすく試算が甘くなる傾向があります。こうした分野こそ、コスト削減の余地が大きいので、システム監査や業務監査を行い、しっかりチェックすることが必要でしょう。

●登記特別会計

○登記情報提供システムの維持管理(コスト:11億4800万円)

結果:抜本的見直し(指定法人制度を見直すとともに指定法人の内部留保のあり方を早急に検討する)

とりまとめ内容:
法務省OBが多い民事法務協会を指定法人とし続けることについては問題がある。コストの縮減・適正化を進めるため、現在の指定法人制度を、廃止も含めて見直し、漫然と当該協会が指定され続けることのないようにする。内部留保については、国からの委託業務を通じて蓄積されたものが含まれていることを踏まえ、そのあり方を検討する。

関連資料>>事業の概要説明(PDF)論点等説明シート(PDF)制度の概要説明(PDF)制度の論点シート(PDF)評価結果(PDF)

関連サイト>>登記情報提供サービス民事法務協会

★作者コメント
本事業や民事法務協会については、本ブログでもたびたび取り上げてきましたが、実務関係者の間では非常に評判が悪かったという印象です。

4年以上前のブログでは次のように書きました。当たり前のことが、ようやく実現への一歩を踏み出したことを大変嬉しく思います。

『しかし、電子政府が健全に発展する中で、いびつな利益構造は必ず淘汰される運命にあります。オンライン登記情報提供制度についても、近い将来、そのあり方が見直されることでしょう。例えば、
・電子申請で利用する場合は、無料となる
・電子申請以外で利用する場合は有料であるが、民間企業が参入して、サービスや価格の競争が行われる
無料化、健全な競争化が実現されるまで、地道に主張して行こうと思います。』

なお、登記特別会計については、行政改革推進法に基づき、平成22年度末において一般会計へ統合することとされています。

関連ブログ>>オンライン登記情報提供制度、電子政府は健全な競争が大切オンライン利用件数の水増しを防ぐ外郭団体に握られる電子政府のインフラ

●自動車安全特別会計

○自動車登録検査業務電子情報処理システムの(MOTAS)維持管理(コスト:99億9000万円)

結果:予算の10%程度の縮減

とりまとめ内容:
保守・運用・調達の競争力を高め、縮減に努める。

関連資料>>事業の概要説明(PDF)論点等説明シート(PDF)評価結果(PDF)

関連サイト>>個別府省業務・システムの平成21年度最適化実施評価報告書自動車登録関係コード検索システム自動車登録検査業務電子情報処理システム(MOTAS)の刷新可能性調査の結果(PDF)自動車登録検査業務電子情報処理システム(MOTAS)調達計画書(PDF)自動車検査・登録ガイド

★作者コメント
日本の情報システムは、「保守・運用業務の競争性が低いことがコスト高を招いている」といった指摘があるので、その部分の競争性を高めるという指摘はもっともでしょう。

MOTASは、自動車(軽自動車を除く)の登録・検査データを一元的に管理し、全国の運輸支局等と連携しながら、年間5000万件ほどの新規登録、移転登録、継続検査などの処理情報をオンライン・リアルタイム方式により処理するシステムのこと。現在のシステムは、5世代目として平成16年1月に稼働しています。

今から6年ほど前に実施された刷新可能性調査では、『早急なオープンシステムへの刷新の必要性は低く、そのライフサイクルの終了(平成23年12月)まで現行MOTASを活用すべきである。』と判断されています。なお、次期自動車登録検査業務電子情報処理システムの設計・開発業務(平成21年4月から24年1月まで)は、約30億円でNTTデータ社が落札しています。次期システム移行に伴う維持コスト削減は、契約方式の見直し(「データ通信サービス契約方式」の廃止)によるところが大きいと思います。

他の電子政府施策と同様に、MOTASについても業務改革や簡素化・合理化が十分になされたとは言えず、既存の組織や業務フローを前提とした業務システムの更新に終わっていることが、一番の問題点と言えるでしょう。こうした問題は、公務員制度改革や地方分権等の行政改革を進める中で、自動車登録制度そのものの見直しがされない限り、解決されることはありません。

この辺りが「電子政府の限界」であり、「情報システムの見直しは、お金ばかりかかって効果が少ない・見えない」と言われる理由なのだと思います。これを打破していくためには、太田市自動車登録検査業務構想のような新しい試みが必要でしょう。