社会保障・税番号制度の意見募集結果が公表、政府が目指す方向性とは
社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会の配布資料として、「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会 中間取りまとめ」に対する意見募集の結果(PDF)が公開されています。
政府・与党社会保障改革検討本部の設置に伴い、社会保障・税に関わる番号制度についても、国家戦略室(内閣官房)から、上記検討本部の事務局である社会保障改革担当室(内閣官房)へ移管したようですね。
番号制度は、税と社会保障を中心とする行政改革の一環(手段)として検討するものなので、本来であれば政府全体を見渡せる改革本部が所管するのが良いと思います。社会保障改革担当室に移したことで、政府における番号制度の位置づけや方向性が見えてきますね。
もともと、意見募集の対象である「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会 中間取りまとめ」や質問項目・選択肢自体が、かなり誘導するような形式となっており、ちょっと「出来レース」のような印象もありました。
寄せられた意見は、賛成・反対を問わず貴重なものが多いので、作者もこれから精読したいと思います。
●政府が目指す方向性は
今回のアンケート結果を踏まえて、政府はどのような方向性を打ち出してくるのでしょうか。これまでの経緯を踏まえると、だいたい次のようなものではないかと思います。
・まずは社会保障と税分野で導入、用途の拡大検討は段階的に
・特に「社会保障」を強く押し出して、国民やマスコミの支持を得る
・社会保障カードのようなICカードを配布する
(健康保険証等として使えるもの、住基カードと統合するかは要検討)
・総務省としては公的個人認証を活用したいけど。。。
・中継データベースを設置する、既存の番号(ID)制度は据え置き
・共通番号(整理番号)として「住民票コードをベースとした新しい番号」を作る
・中継データベースでID連携・紐付け・権限管理(SAML2.0/ID-WSF2.0等)
・中継データベースの管理・監督には、第三者機関が関与
これぐらいの内容であれば、省庁間の調整も容易で、国民からの反発も受けにくく、ITベンダーからも支持されやすいからです。良く言えば「現実的で実現可能性を重視」、悪く言えば「妥協の産物で国益よりも既得権益を重視」と。第三者機関の構成や権限は、ちょっともめそうですね。
どちらが良いかは難しいところですが、これまでの電子政府では改革を先送りして「現実的で実現可能性を重視」したため、使われないシステムが乱立してしまった経緯があることを忘れてはいけません。
参考資料:社会保障分野における安全で利便性の高い情報連携が地域住民にもたらす効果に関する検証成果発表会資料
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●意見募集結果の概要と感想
(1)意見総数148件(団体52、個人96)
パブコメとしては多い方だと思いますが、国民の意向がどこまで反映されたかは微妙なところ。国民を交えた議論は、これからスタートすると考えたいですね。
(2)選択肢1:利用範囲をどうするか
・A案 ドイツ型(税務分野のみ) 17件(団体4、個人13)
・B-1案 アメリカ型(税務分野+社会保障現金給付)15件(団体3、個人12)
・B-2案 アメリカ型(税務分野+社会保障現金給付+現物給付)18件(団体5、個人13件)
・C案 スウェーデン型(幅広い行政範囲で利用) 70件(団体25、個人45)
・その他(選択できない、無回答など) 28件(団体15、個人13)
結果としては、順当なところでしょうか。番号制度がなくても、行政からの個人情報漏洩(紙の方が多い)や不正利用(内部によるものが多い)が日常的に発生しており、年金記録のような問題が起きたことを考えると、プライバシー侵害等を理由に導入に反対するのは、もはや無理があるでしょう。
ただし、パブコメへ積極的に意見提出してくる人は、番号制度について一定の知識や理解がある人が多いと予想されます。反対意見が大きくなってくるのは、実際に導入されて運用される頃かもしれません。後期高齢者医療保険のように。。。
(3)選択肢2(1):番号に何を使うか
・基礎年金番号 17件(団体2、個人15)
・住民票コード 33件(団体6、個人27)
・新しい番号 69件(団体27、個人42)
・その他(選択できない、無回答など) 29件(団体17、個人12)
新しい番号が一番多かったのは意外でしたが、それだけ住基ネットや住基コードに対する不信感が強いということでしょうか。多くの制約により使いづらくなって、期待していたほどには利用されていない「住基ネットの二の舞にしたくない」という思いもあるでしょう。
ただ、「新しい番号」を選択した人の約3割は「住民票コードの活用が望ましい」としています。これは、「住民票コードに紐付けした新しい番号を作る」ということだと思います。また、「住民票コード」を選択した人も、現在の住民票コードでは使えないので、法改正を含む大幅な見直しが必要と考えているようです。
個人的には、
1 住民票コードを全面的に見直して「住民サービス番号」として生まれ変わる
2 色んな意味で中途半端な住基ネットを廃止して、将来を見据えたネット時代に相応しい住民登録制度を再構築して、新たに「住民サービス番号」を作る
つまり、「既存の制度を残して活用する」か「ネット時代に相応しい新しい番号制度を作る」かの選択です。この二つでシミュレーションを行い、どちらが費用対効果が高いか、国民に受け入れられやすいか、将来の日本にとって有益かなどを比較してから決めれば良いと思います。
(4)選択肢2(2):情報管理をどうするか
・一元管理方式 36件(団体3、個人33)
・分散管理方式 84件(団体34件、個人50件)
・その他(選択できない、無回答など) 28件(団体15件、個人13件)
これも、妥当な結果だと思います。しかし、この質問の選択肢はかなり強引で、政府の意図を感じざるを得ません。ここから読み取れるのは、
・既存の各種番号制度を維持したい(省庁の意図)
・中継データベースを作りたい(ITベンダーの意図)
ということでしょう。
本来の選択肢は、次の通りです。
1.番号一本の一元管理方式:番号は一つで、情報を一元的・集中的に管理
2.番号一本の分散管理方式:番号は一つで、情報を各分野で分散管理、必要に応じて番号で連携
3.番号複数の分散管理方式:情報を各分野で分散管理し、各分野に別々の番号を付与、必要に応じて各分野の番号にヒモ付けされた共通番号等を活用して連携
4.番号一本の分散管理方式に、連携方法として「中継データベース」を採用するもの
5.番号複数の分散管理方式に、連携方法として「中継データベース」を採用するもの
(5)選択肢3:プライバシーの保護をどうするか
・国民自らが情報活用をコントロールできる 99件(団体42、個人57)
・「偽造」「なりすまし」等の不正行為を防ぐ 114件(団体42、個人72)
・「目的外利用」を防ぐ 112件(団体40、個人72)
・その他(選択できない、無回答など) 19件(団体8、個人11)
どれも必要という回答が多いようで、これも妥当な結果ですね。「国民自らが情報活用をコントロールできる」のは無理がありますので、件数が少なくなっているようです。
(6)選択肢以外に関する意見
・番号制度の導入に反対と明示 12件(団体4、個人8)
時代は変わったものですね。各国の番号制度は、何らかの危機が訪れた時に導入されています。日本の現状を考えると、番号制度の導入を今回逃してしまうと、ますます厳しい状況に追いやられるでしょう。
・意見募集の方法に異論 28件(団体14、個人14)
色々と問題はあったと思いますが、スタートとしてはそれほど悪いものでもないと思います。今後は、「税と社会保障制度の現状と将来像」を番号制度とセットで提示すると良いでしょう。
国民を交えた本格的な議論はこれからと思いますので、今後の動向に要注目です