暴走するプライバシー-テクノロジーが「暴き屋」の武器になる日、番号制度よりも怖いもの
暴走するプライバシー-テクノロジーが「暴き屋」の武器になる日 (SBPビジネス選書) | |
シムソン ガーフィンケル | |
ソフトバンククリエイティブ |
原題は「Database Nation」
共通番号のプライバシー問題を考える中で、10年前の本書を久しぶりに読み返してみましたが、今読んでも面白いですね。
さて、今や「Database Nation」どころか「Database World」です。
グーグルやフェイスブックやツイッターのようなグローバルに展開するオンラインサービスに、大量の個人情報が集まってくるのですから、プライバシーを脅かすリスクは確実に増えています。しかも、本人が喜んで個人情報を提供しているケースが多いと。
インターネット上のID窃盗などは、ほんの一断片でしかありません。
官民かかわらず町中の監視カメラも増え、その映像から特定の人を探し出す技術も格段に進歩しています。
住基カードのようなオフラインのリアル社会で使われる身分証明書を、本人に成りすまして取得すれば、戸籍や住民票も変えて、全くの他人に成りすましてしまうことも可能です。
関連>>「住民基本台帳カードの交付等における本人確認の徹底等について(通知)」の発出
インターネット上のID管理とかの話しではなく、インターネットや携帯なんて使わないという人も、日常生活のあらゆる場面で、プライバシー侵害の機会を他人に提供し続けています。
こうなると、もはや本人の努力とかで事前に防衛することは不可能です。
一昔前であれば、オンライン上で利用者登録する際に、生年月日等を少し変えたりするのも、一つの自衛策として有効だったかもしれませんが、今となっては気休めでしかありません。
映画『ボディガード』でケビン・コスナーが言っていたように、「本気で狙われたら攻撃を防ぐことはできない」というわけです。しかし、私達には、ケビン・コスナーのように、いざと言う時に自らが楯となってくれるボディガードはいません。
できるのは、
・他人のプライバシーを侵害するような行為をけん制・抑制する
・プライバシー被害者を救済する仕組みを確立する
ことぐらいでしょう。
●共通番号の導入にあたって
番号制度を導入し、公共分野を中心に活用している国々では、プライバシー保護の制度が確立されているのが一般的です。住民登録番号を早期に導入し活用する北欧やEU諸国などが、その例として挙げられます。番号制度の有無にかかわらず、プライバシー被害をゼロにすることは不可能ですが、保護制度の確立により一定の効果を上げることが可能です。
他方、プライバシー保護の制度が不十分で、番号の間違った利用(本人確認の手段として使う等)への対応が遅れた国では、深刻な被害が発生しその対応に苦労しています。米国の社会保障番号や韓国の住民登録番号などが、その例です。なお、個人情報の漏洩は、情報管理やセキュリティの問題なので、番号制度の有無に関係なく発生します。
関連>>海外における不安解消に向けた取り組み(PDF)|これだけは知っておきたい IDセフト対策と個人情報の保護(PDF)
日本で番号制度を導入するにあたっては、こうした諸外国の事例から学び、慎重な制度設計をしていく必要があります。
例えば、
・番号の利用については法律で定めた場合のみ認める
・番号の間違った利用による責任を本人に負わせない
・成りすまし等の被害者本人に代わって、第三者機関等が救済(情報の削除、修正、損害請求等)を行う
・第三者機関が救済に必要と判断した場合は、番号の変更を認める
などが考えられるでしょう。
プライバシー保護や個人情報保護について日本は後進国であることを認識した上で、番号制度の導入を良い機会として、法制度の見直しが必要と思います。
関連>>個人情報の保護(消費者庁)
●番号制度よりも怖いもの
プライバシーや番号の暴走よりも、もっと恐ろしいもの。
それは、やはり国家だと思います。
歴史を見ても、大量の殺戮を実行するのは、暴走した国家や独裁者です。
「邪悪になるな」というポリシーを掲げるグーグルが、いつ邪悪になるかという不安は確かにありますが、彼らには軍隊のような暴力装置はありません。それよりは、暴走した国家や独裁者にグーグルが牛耳られることの方が、よっぽど恐ろしいと思います。
番号は単なる手段ですから、使い方を間違えば、薬のように効果よりも副作用が大きくなります。
悪意を持った人が使えば、人を殺す毒薬にもなります。
ですから、国民がより注意しなければいけないのは、共通番号ではなくて、日本政府であり、日本に敵対するかもしれない外国政府です。
関連>>エストニアで起こった大規模インシデント|欧州委員会が「EU域内緊急セキュリティ強化行動戦略目標」等を採択
日本政府が独裁国家になったら、番号があろうと無かろうと、セキュリティ対策があろうとなかろうと、政府や民間のデータベースも見放題の名寄せし放題です。間違った情報を登録したり、わざと漏洩させたりも、やり放題です。日本が邪悪な政府に侵略された場合も、同様です。
テクノロジーが進化し続け、大量の個人情報が流通し利用されていく中で、これらの情報を本人がコントロールすることは不可能です。だからこそ、主権が国民にある国に生まれたことを感謝して、日本政府が間違った方向に進まないように、政治や行政に積極的に参加していきたいと思うのです。
作者が番号制度の問題を考えていく中で、最後にたどり着いたのは「ガバナンス(統治)」でした。
現在、オープンガバメントという新しい試みが、世界各国で行われています。
関連>>オープンガバメントラボ|オバマのオープンガバメントの意味するもの(PDF)
グローバル化やサイバー化が進む社会において、どのような「ガバナンス(統治)」が望ましいのかを考える環境が整ってきたのは歓迎すべきことです。
しかし、オープンガバメントによって「暴走した国家や独裁者」が生まれる可能性があることも、しっかりと認識しておきたいと思います。
世界の「独裁国家」がよくわかる本 (PHP文庫) | |
グループSKIT | |
PHP研究所 |
日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書) | |
飯尾 潤 | |
中央公論新社 |