社会保障・税の番号制度、国民ID制度、アイデンティティ連携の議論がかみ合わない理由(前編)
前編と後編の二回に分けて、社会保障・税に関わる番号制度、国民ID制度、アイデンティティ連携などの議論が、なぜかみ合わないのかを考えてみたいと思います。
12月20日(月)に第7回電子行政に関するタスクフォースが開催され、配布資料も公開されました。議題の一つに、「国民ID制度について(番号連携モデル)」があります。
予想はしていましたが、ツイッターのコメントを見ると、かなり議論が混乱していたようです。
しかし、内閣官房のIT担当室が提出した「国民ID制度における国民IDコードの考え方(その2)(PDF)」により、国民ID制度の形がようやく見えてきたのも事実です。これにより、事態は収束に向かうのではと思います。
まず初めに、作者自身の立場を明らかにしておきたいと思います。
現在は「電子政府・行政コンサルタント」ですが、1996年から2003年まで行政書士をしていました。電子申請に関心を持ったきっかけが「電子認証・電子署名」だったこともあり、日本行政書士会連合会という組織では、本部の委員として電子申請を初めとしたIT戦略への対応や認証局の運営などに関与してきました。
電子署名法や公的個人認証制度の立ち上げ時には、政府担当者と意見・情報交換する機会も多くありました。ホームページ上でも、現在は削除してしまいましたが、電子認証・署名、電子商取引(個人情報保護、プライバシーポリシー等)などに関する情報を発信していました。
行政書士を辞めた後も、電子署名・認証利用パートナーシップ(JESAP)という組織の運営をお手伝いしたり、e文書法の裏方をしたり、ECOM(電子商取引関連の団体)のSAML検討WGに参加したりした関係で、認証ベンダーやセキュリティ関連の方と交流する機会も多くいただきました。
その中で特に注意していたのが、「中庸を目指す」ということでした。特定の団体や企業に属することなく、専門家としてよりも、常に市井の一国民として物事を捉えられるようにしたいと考えてきました。行政書士を辞めたのも、組織に属したくなかったからです。そして、電子政府や電子申請でも、国民による監視や評価、住民と行政の新たな関係の実現などを提案してきました。
私自身は基本的に法律系の人間ですが、行政(法律系)・国民(消費者)・技術者といった異なる視点から「番号制度」「国民ID制度」を解釈した上で、できるだけわかりやすく整理できればと思います。
次に、認証に対する作者の考え方を明らかにしておきます。
作者自身は、公的個人認証については、制度開始当時から成功は厳しいと考えていました。ですから、電子政府サービスを利用するにあたって、民間で普及した認証手段や民間ウェブサイトを活用することについては、かなり以前から提案していました。マッシュアップが登場する前から、「電子申請エンジン」みたいなものを民間ウェブサイトに設置できないかとも提案していました。
関連>>電子申請・電子政府であることを意識しないサービスこそがゴール|電子証明書を活用した電子政府のサービスモデル
上記のサービスモデルを掲載した際に、知り合いの野村総研の方からご連絡いただき、意見交換したこともあります。ですから、かなり以前から、野村総研やNTTなどがIDビジネスに力を入れていることや、総務省のグローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース「地球的課題検討部会」に、電子政府推進対応ワーキンググループが設置された経緯なども、なんとなく理解しています。
関連>>アイデンティティ管理技術の現状と今後~リバティ・アライアンスに関して~(PDF)|リバティ・アライアンスの取組みについて(PDF)|ID連携の標準化技術OpenIDとSAML – アイデンティティ関連技術の潮流(PDF)
なぜこのようなことを書いたかと言いますと、番号制度や国民ID制度には、政府や企業や団体などの様々な思惑があることを知って欲しいからです。実際、番号制度にはお金がかかりますし、既存の電子政府ベンダーにとっては、大きなビジネスチャンスとなります。他方、OpenIDで認証・IDビジネスを展開する企業にとっては、番号制度が無い方が(ガラパゴス化しない方が)好都合のようにも思えます。番号がバラバラのままでいる方が、縦割りで都合が良いと考える省庁があるかもしれません。
ですから、本当に日本の将来や国民のことを考えているのか、企業や組織としての利益が欲しいだけなのか、自分たちの主張や通したいだけなのか、特定の手段を普及させたいだけなのかの判断が難しく、作者自身も困っています。しかし、それでも作者なりの答えが見えてきました。
後編では、できるだけ中立的な観点から、国民ID制度に関する混乱を整理したいと思います。