使えない番号制度になってしまうのか、複雑化する国民ID制度と情報連携基盤

「社会保障・税に関わる番号制度及び国民ID制度」の情報連携基盤技術ワーキンググループがすごいことなっています。同WGは現在までに3回開催され配布資料も公開されており、議事要旨も第2回まで出ています。

何がすごいのかと言えば、「複雑すぎて、作者もついていけない」のです。番号だけでも、住民票コード、利用番号(税と社会保障の共通番号)、IDコード、リンクコード、認証用シリアル番号とたくさんあって、どれが「見える」だの「見えない」だの「ほぼ見えない」だの、「もうやめてー」状態です。

参考>>番号制度 番号連携イメージ(PDF)

番号制度は諸外国でも様々ですが、日本の場合は、各国の悪いところばかりを取り入れようとしているのではないかと思ってしまうぐらいです。

●もっとシンプルな仕組みで良い

税(国税と地方税)と社会保障分野(年金、医療、介護)については、既存のバラバラな番号を「税社共通番号」に変更して、税と社会保障分野の情報をしっかり紐づけする。住民票コードと共通番号も紐づけして変換テーブルを省庁や自治体が持つ。

本来であれば、これだけで済む話です。情報連携基盤もいりません。IDコードもリンクコードいりません。せいぜいアクセスログ管理を集権的に行う仕組みがあれば十分です。データのやり取りについては、強力な第三者機関を設置して、各行政機関の情報管理を厳格に監視すれば良いだけです。

●情報連携に悪戦苦闘するEUの大国たち

個人情報保護に厳しいとされるEUでは、2010年12月に「Digital Agenda: eGovernment Action Plan to smooth access to public services across the EU」という電子政府の行動計画が発表されました。

この行動計画の具体的な例として、次のようなものがあります。

implementing once-only secure registration of data with government (to avoid having to give the same information again and again to different parts of government)

つまり、「政府に対して一度だけ安全確実な方法で(個人)情報を提供したら、それ以降は同じ情報を提供しなくて良い」ということです。

これを見て、スウェーデンやデンマークやエストニアなどの情報連携先進国は「ん?そんなの昔からやってるよ」で済みますが、情報連携後進国のイギリス・ドイツ・フランスあたりは「えー、うちでは縦割りでプライバシーも厳しいから無理だよー」となってしまいます。

●日本は、もっと悲惨な状態

しかし、そんなイギリス・ドイツ・フランスでも、分野番号は日本よりも整備されています。例えば、イギリスの社会保険番号、フランスの社会保障番号(国民登録番号)、ドイツの税務識別番号などがあります。フランスやドイツは、健康保険証等のICカード化も進んでいます。

これに対して日本では、納税者番号も無いし、社会保障番号もありません。それどころか、厚生労働省からの説明資料「社会保障分野における番号利用の現状(PDF)」によると、
○社会保障分野においては、50の制度(法令等)において、90の番号が使用されている。
○付番されている延べ人数は約3億770万人である。
○付番・管理主体は制度によって様々だが、例えば医療保険制度(健保、国保、後期高齢者)においては、3,498の保険者(健保1,498、国保1,953、後期高齢者医療47)がそれぞれに被保険者を付番・管理している。

つまり、日本は、EUの情報連携先進国よりも情報連携後進国よりもバラバラな番号制度があって、そのバラバラな番号制度を整理・変更しないまま、それらの番号とは別の「税社共通番号」を作って、さらに複雑な情報連携基盤と多数の番号を作ろうと言うのだから、「複雑すぎて、作者もついていけない」のです。

●情報連携基盤を迂回されたら監視もできない?

複雑×複雑×複雑・・・と複雑の3乗か4乗ぐらいなのだから、そこから生まれるのは「使えない番号制度」になる可能性が高いでしょう。

で、この複雑な情報連携基盤を避ける行政機関が続出し、特に自治体を中心として、別のルートや手段(記録媒体、紙文書、郵便など)で情報交換するようになる気がします。

やはり、少子高齢化を迎える日本で効率的な税と社会保障制度を作るためには、「政府が保有する国民・住民の個人情報は公共財であって、原則として公共目的で使われる」ぐらいの基本法や政府方針を作った方が良いのではないでしょうか。

その上で、強力な第三者機関を設置して、官民における個人情報の利用をしっかり監督すると共に、電子政府の情報公開・追跡機能・国民参加を強化し、行政の透明性を向上していく。

というのが作者からの提案でございます

“使えない番号制度になってしまうのか、複雑化する国民ID制度と情報連携基盤” に4件のコメントがあります

  1. Unknown
    >税(国税と地方税)と社会保障分野(年金、医療、介護)については、既存のバラバラな番号を「税社共通番号」に変更して、税と社会保障分野の情報をしっかり紐づけする。住民票コードと共通番号も紐づけして変換テーブルを省庁や自治体が持つ。本来であれば、これだけで済む話です。

    全部、住民票コードにしてしまうのが一番いいのでは?なんでわざわざ、住民票コードと共通番号も紐づけして変換テーブルを省庁や自治体が持つのか、理由がわかりません。

  2. 住民票コード
    はい、全くおっしゃる通りです。
    それができれば、1番良いですね。

  3. 人類番号
    私は国の支配者が上から国民に押し付ける番号は普及しないと思います。それは税収の厳密な確保や思想の監視など国家の支配者層の本音が衣の下に透けて見えるからです。
    そこで国家権力のさらに上の国連などの国際社会が各国の国民(人類一人ひとり)に番号を配布し、国民の側が番号を自主的に管理(番号の変更履歴や個人情報との紐付けなど)し、その番号と紐付けられた個人情報を国に登録し、国家権力に使用を許可する形を提案したいと思います。
    名付けて人類番号です。

  4. 国民の側が番号を自主的に管理
    国民の側が番号を自主的に管理する例としては、政府ポータル上で個人のアカウントを取得して、このアカウント(ID番号を含む)を利用者が管理するというパターンがあるかと思います。実際、フランスでそうした試みがあります。

    ただ、フランスにも国民番号はありますし、社会保障分野を中心に一部税務でも利用されています。もちろん、番号の利用については、第三者機関が監視しています。

    「国の支配者が上から国民に押し付ける番号は普及しない」というご指摘は、全くその通りと思います。

    この辺りは、行政の透明性や国民の自立性・民主主義度・メディアリテラシーなどに支えられた「国民と政府の信頼関係」の問題と思いますので、いくら立派な制度や技術を作り、運用を工夫したとしても、一朝一夕には解決できないのではないでしょうか。

    関係者が急ぐ気持ちもわかりますが、番号制度については、もう少し時間をかけて取り組んで欲しいですね。

コメントは停止中です。