国民ID制度と情報連携基盤が複雑化する理由を考える
使えない番号制度になってしまうのか、複雑化する国民ID制度と情報連携基盤には、思いのほか多くの方からアクセスをいただきました。
情報通信技術利活用のための規制・制度改革に関する専門調査会のメンバーでもある楠さんがツイッターで紹介してくださったのを、池田信夫先生にリツイートしていただいたようです。
今回は、番号制度と国民ID制度、そして情報連携基盤が複雑化してしまった理由を考えてみたいと思います。
作者が考える理由は、大きく二つあります。
一つは、番号制度に対する政府の「不安」や「あせり」といった感情。もう一つは、過剰なコンプライアンス意識です。
●急ぐあまり、番号制度の導入が目的化する?
納税者番号(グリーンカード)の導入が失敗し、住基ネット(住民票コード)を何とか導入したものの、規制が厳しくて納税者番号としても社会保障番号としても使えず、さらには住基ネット訴訟にまで発展してしまいました。
こうした経験が、政府にとってトラウマのようになってしまい、今回の番号制度を
・失敗は許されない
・訴訟も許されない
・とにかく番号制度を導入することが大事
・短期間に実現する
・現状をあまり変えずにすませたい
としている気がします。政府だけでなく、番号制度を推奨する経済団体等の「あせり」や「不安」も感じます。
たしかに、そうした気持ちも良くわかるのですが、住基ネットの苦労・失敗を考えると、番号制度については「急がば回れ」ぐらいが良いのではないかと思います。情報連携基盤技術と個人情報保護についての議論も、もう少し時間をかけて良いと思います。
関連>>社会保障・税に関わる番号制度についての基本方針(概要)
●過剰なコンプライアンスが情報システムを複雑にする
過剰コンプライアンスについては、池田先生も「日本社会の病」と指摘されていますが、そうした傾向は電子政府でも見られます。
番号制度においても、失敗は許されない、訴訟も許されない、短期間に実現するといったプレッシャーの中で、過剰コンプライアンスが働きやすくなっているように思います。
そうした状況で、総務省が提供する資料の「住基ネット訴訟における論点(PDF)」が、最も直接的に、番号制度や情報連携基盤を複雑化している要因ではないかと思います。
最高裁の判決は確かに参考とすべきですが、この当時は第三者委員会もプライバシー影響評価制度も無く、今とは前提条件が違っており、判決の内容をシステム要件として情報連携基盤に組み込むのは賢明とは言えません。現状認識が間違っているユーザーの要求を、そのまま受取って要件定義を決めてしまうようなものでしょうか。
現段階で、情報連携基盤技術やマイポータルについて、特定の方法や技術に依拠したものとして固める必要はありません。基本的な機能や設計思想をA4一枚程度にまとめて、方法・技術については諸外国の例を参考に3-5パターンぐらいを選択肢として提示しておけば十分でしょう。
情報連携基盤技術や(必要性も含めて)マイポータルの本格的な検討は、番号法等の関連法が整備されて、第三者委員会が稼動し、プライバシー影響評価制度が確立してから始めた方が良いですし、その方が結果としてよりスムーズに事が進むと思います。
●情報利活用の基本方針とプライバシー権を確立させる
番号関連法の整備にあたっては、基本方針として、「番号制度を通じて、税と社会保障の分野については、政府が保有する個人情報を国民や社会のために活用していきます。」と明確に宣言して欲しいですね。
この基本方針の下で、情報ネットワーク社会に相応しいプライバシー権を確立させて、第三者委員会やプライバシー影響評価制度などを整備していくと。少なくとも、EUのデータ保護指令に準拠していると認められるぐらいにしておくと。
関連>>諸外国等における個人情報保護制度の監督機関(PDF)|1995年EUデータ保護指令の改正論議とその方向性(PDF)|EU指令(95/46/EC)の日本語訳|EU指令(2002/58/EC)の日本語訳
国民の理解と協力を得るためにも、「番号制度」にとっての本当のインフラが何であるかを見極めたいですね
★参考資料(EU指令の原文)