市町村がイメージする番号制度とは、例えばこんな感じ
番号制度については、使えない番号制度になってしまうのか、複雑化する国民ID制度と情報連携基盤などで懸念を示していますが、政府における検討も具体化してきました。
情報連携基盤技術WG(第4回)では、事務局や各委員から複数のユースケース(活用例の案)が出ています。この傾向は、良いことと思います。
●市町村がイメージしている番号制度
番号制度においては、住民に最も近い市町村が重要な利用者になると思いますが、市町村がイメージする番号制度と、政府が検討している番号制度は、どうも違うものになっているように思います。
市町村がイメージしている番号制度は、
・市町村における各種業務の処理に必要な範囲で
・市町村内で住民識別番号として汎用的に使えるだけでなく
・他の自治体や国の行政機関とも共通で利用できる番号を作って
・この番号を検索キーとして、データの名寄せや照合ができる制度
つまり、「住民票コードが今よりもずっと使いやすくなった番号」だと思います。
これに対して、政府が検討している番号制度は、
・税と社会保障分野に限定した「利用番号」を新たに作り
・それとは別に「見えない住民識別番号」も作って
・情報連携基盤を通じた情報交換を実現する制度
つまり、「番号にあまり依拠しない情報交換の仕組み」となっています。
だから、個人情報保護と情報連携基盤技術WGの出している骨格等を読み解けば読み解くほどに、「番号導入の必要性」がわからなくなってしまいます。
●市町村における番号制度の利用イメージ
日経BP社の記事に「東日本大震災、早急に被災地の自治体窓口機能の支援を」といったコラムがありました。ここに書かれている『地域主権を起点にした水平的な市町村単位の基礎自治体間連携によるデータのバックアップと支援体制などの構築を目指してもらいたい』といった提言は、まさにその通りと思いますし、震災を地域主権再考の機会と捉えるべきと思います。
震災の中、不幸にもお亡くなりになった方のご遺体が発見された場合、何か身分がわかるようなものを身に付けていたとして、その後の事務処理における番号利用を考えてみたいと思います。ここでは、番号を「住民識別番号」としておきましょう。
ご遺体の所持品が「運転免許証」の場合
1 運転免許証から「住民識別番号」を読み出す(ICカード型免許証の場合)
1’運転免許証番号からネットワーク経由で「住民識別番号」を取得する(従来型免許証の場合)
2 「住民識別番号」からネットワーク経由で住民基本台帳(住民票)を仮変更する
3 「住民識別番号」からネットワーク経由で戸籍を仮変更する
4 「住民識別番号」からネットワーク経由でご家族の所在地(避難場所等)を探す
5 ご家族にご遺体を確認してもらう
6 ネットワーク経由で住民基本台帳や戸籍の仮変更を本決定(または取り消し)する
こういう風に使える「住民識別番号」が、市町村がイメージしている(今の日本に求められている)番号なのだと思います。
上記の利用例で必要なのは、
・汎用的に使える「住民識別番号」を作ること(住民票コードをそのまま利用しても良い)
・住民票だけでなく戸籍にも「住民識別番号」を記載すること
・住民基本台帳や戸籍等をネットワーク化すること
などです。
さらに、一部の民間等でも「住民識別番号」が使えるようになると、ご遺体の所持品が「学生証」や「携帯電話」であっても、上記のような事務処理が可能となります。
「学生証」であれば、「学生証の番号」を学校に問い合わせて、学校のデータベースに記録されている「住民識別番号」を取得します。「携帯電話」であれば、「携帯電話番号」を携帯事業者に問い合わせて、携帯事業者のデータベースに記録されている「住民識別番号」を取得します。後は2以降と同じ利用フローになります。
●番号制度における政府の役割
政府に求められるのは、個人情報保護の名の下に、複雑で使いにくい番号制度や情報システムを構築することではなく、上記の例に挙げたような「住民識別番号」を導入したいことを国民に訴えて、その必要性を説明し説得することなのではないでしょうか。
政府が現在検討している「社会保障・税に関わる番号制度」「国民ID制度」「情報連携基盤」は、いくら「見えない番号」を使ったとしても、結局のところは総務省と市町村が多くの個人情報や権限を持つことになります。つまり、「行政とそこで働く公務員を信頼してください」という話なのです。
それならば、上記の例に挙げたような「住民識別番号」と信頼の根拠は同じということになります。
「住民識別番号」を積極的に活用するデンマークは、国際的に個人情報やプライバシー保護に劣っていると言えるでしょうか。作者には、そうとは思えません。むしろ、「行政とそこで働く公務員を信頼してください」といった根拠を強化するために、情報公開・利活用とデータ保護のバランスを保ちながら、国民参加を促進し政府と国民の信頼関係を築いていると思います。
個人情報保護と情報連携基盤でガチガチにしてしまう前に、まずは市町村や国民を中心とした利用者・生活者視点で、社会や人々の生活に役立つ番号利用を考えるべきだと思います
●参考資料
社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会(第7回)より
社会保障・税に関わる番号制度に対する意見(全国知事会)(PDF)からの抜粋
○情報連携の範囲をできる限り広く設定し、ある程度以上の公的手続に番号の記載等を義務づけることや、資産・消費に係る情報を把握できる仕組みとすること等により、幅広い行政サービスや税務事務において活用できる制度とすべきである。
※税の申告書、納税証明願のほか、法人登記、不動産登記、自動車登録等にも番号の記載等を義務づけることで、地方税の納税義務者を特定できる。
○特に、公営住宅への入居や奨学金の申請など、社会保障に関連する分野においては、番号制度の活用を積極的に推進し、添付書類の省略などにより、国民の負担軽減等を図ることが望まれる。
社会保障・税に関わる番号制度に対する意見(全国市長会)(PDF)からの抜粋
○本会は、都市自治体は国民健康保険や生活保護、介護等社会保障サービスを担うとともに地方税の課税等の業務を担っており、こうしたことから都市自治体の各種住民サービスとも連携し、簡便で効率的に都市自治体が利用できるものとするようすでに意見を提出している。
○将来的には幅広い利用範囲(C案)での利用を視野に利用場面の拡大を図ることとし、その点を明示するとともに、その道筋を提示すること。
○社会保障全般を包括する共通のインフラとして、実際に各種サービス給付を行っている基礎自治体において対応することが、最も効果的であるとして、そのためには、共通番号制度の導入や個人情報保護制度の弾力的運用を図る必要がある
○国民の安心と信頼を得るためにも、個人情報保護やセキュリティについて、万全の措置を講じるべきであるが、一方、災害時等においては、適切な対応が可能となるよう、個人情報保護制度の弾力的運用を図るべきである。
○個人情報 保護の具体的方策については、国民の利便性とプライバシー保護のどちらか一方に偏るのではなく、両方のバランスを取りながら、多角的な視点で検討すること。
社会保障・税に関わる番号制度についての意見(全国都道府県議会議長会)(PDF)からの抜粋
○番号制度の導入により、国や地方公共団体等が国民一人ひとりの情報を迅速・正確に把握できる体制が築かれ、申請者負担の軽減、処理の効率化、情報の脱漏や重複の防止等の効果が期待される。
○住民基本台帳ネットワークシステムへの参加問題のように、ネットワークが完結しない事態も考えられる。