デンマークから学ぶ電子政府の作り方、日本でも参加型デザインは可能か
総務省のICT利活用戦略ワーキンググループ(第5回)会議資料の中にある、猪狩構成員によるデンマークに学ぶICT利活用推進の鍵ー市民ポータル「Borger.dk」を中心に(PDF)は、とても良い資料でオススメです。作者の知る限り、デンマークの電子政府について、ここまで整理された日本語の資料は見たことがありません。
今回は、本資料を参考にしながら、「デンマークから学ぶ電子政府の作り方」を考えてみたいと思います。
デンマークの市民ポータル「Borger.dk」は、利用者中心の考え方を取り入れながら、何度もリニューアルしてきました。それでも、電子申告など一部のサービスを除けば、オンラインサービスの利用率はあまり高くありません。もともと、フラットモデルの共通番号制度を基礎とした行政のバックオフィス連携が実現しているので、オンラインサービスを利用しなくても市民の負担が少ないことも、オンライン利用率が伸びない理由の一つと思います。
現在は、「Borger.dk」内でマイポータルとして機能する「Min Side」(私のページ)に力を注いでいる状況ですが、利用者中心の考え方に加えて、より強力なインセンティブを提供しなければ、オンライン利用率の急激な増加(緩やかな増加は期待できる)は難しいでしょう。
とは言え、日本の電子政府と比べると、デンマーク電子政府サービスの機能や品質はかなり先を行っており、日本が学ぶべきことも多いです。
●ユーザ参加型のITシステム構築手法
学ぶべきことは、認証手段や推進体制などいくつかありますが、作者が紹介したいのは「ユーザ参加型のITシステム構築手法(参加型デザイン)」です。
システムを構築する様々な段階において、利用者に「利用の専門家」として参加してもらう手法ですが、以前からこうした仕組みが必要であることは数多く指摘されてきました。
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猪狩構成員の資料では、サービス開発、試験・運用、評価、サービス改善、試験・運用の各段階が挙げられていますが、企画や設計の段階における参加も有効でしょう。
例えば、現在政府が検討している「情報連携基盤」については、これから設計・開発が具体化していく中で、利用者(自治体や省庁の業務やシステム担当者)、政府CIO、第三者機関、開発ベンダー(認証・ID管理の専門家を含む)などが当事者として参加し、お互いに協力・連携しながら「実際に使ってもらえて、業務の役に立つ」システムを構築していくことが必須と考えます。
特に、「情報連携基盤」は電子政府のインフラとして機能するので、電子申請のように「使われないから廃止しましょう」と決定することが非常に難しく、変なものができてしまった場合は、使われないまま負の遺産として長期に渡って運用・維持されていくことになります。
●小さいサイクルで回すPDCAも必要
一般的なプロジェクトマネジメントもそうですが、大きなサイクルで回るPDCAとは別に、小さいサイクルで回すPDCAも必要となります。例えば、企画・設計の段階でPDCAを回すことで、「企画の再検討」や「プロジェクトの中止」が決定することもあるわけです。
これまでの電子政府では、計画(P)ができた段階で、実行(D)は確実となり、運良く評価(C)された場合のみ、やっぱりダメでしたと廃止等(A)が決まるという感じでした。そして、廃止された電子申請の中には、なぜ実行されたのかと疑問に感じざるを得ないものも多くありました。
しかし、電子申請と同様に利用が伸びない住基カードや公的個人認証となると、共通インフラであるがために廃止するわけにもいかず、半永久的に延命措置を続けなければいけないような雰囲気があります。
こうした事態を繰り返さないためにも、小さいサイクルで回すPDCAを活用して、たとえ計画(P)ができてしまっても、実行(D)については厳しくチェックする仕組みが必要なのです。
●日本でも参加型デザインは可能か
個人的には、日本の電子政府でも参加型デザインを受け入れられる環境が整ってきたと感じています。例えば、電子政府ユーザビリティガイドライン(PDF)の策定、政府CIO制度の検討などがあります。
ですから、情報連携基盤についても、利用者、政府CIO、第三者機関、ベンダー等が参加・協力して、自治体や省庁の業務・システム担当者等が「これは便利になる」「住民サービスを改善できる」と思える情報連携基盤を考えていけば良いのです。
逆に言えば、個人情報保護やプライバシー問題に配慮するあまり、あるいは、設計・開発スケジュールを優先するあまり、利用者からのチェックが不十分なまま「そんなもの使えない」「負担ばかり増えて使えないものを押し付けられても困る」と言われるような情報連携基盤であれば、新たな負の遺産となることは目に見えています。
番号制度や情報連携基盤が使えるものになるかは、「どこまで利用者関与があるか」にかかっていると言っても良いでしょう。