社会保障・税番号大綱案を読み解く(1)、番号制度が目指すのは低所得者向けのセーフティーネット
社会保障・税番号大綱(案)が公開されています。パブコメの募集はまだのようなので、一番新しいものは、政府・与党社会保障改革検討本部(第6回)の配布資料にある大綱案(PDF)でしょう。
内容については様々な議論があると思いますが、関係者が多く複雑な中、この短期間でこれだけの内容をまとめるのは、さすがとしか言いようがありません。政府の強い意志と官僚の事務能力の高さを感じます。
今日から何回かに分けて、気になった点にコメントしてみましょう。
●番号制度の目的は、「社会保障関連の給付」がメイン
大綱案に触れる前に、番号制度の基礎となる「社会保障・税一体改革成案(PDF)」も決定されたので、こちらから見ておきましょう。改革成案に「番号制度」という言葉が出てくるのは、それほど多くありません。
まず、「社会保障・税に関わる共通番号制度の早期導入」という中で、次のように説明されています。
つまり、「税の徴収」よりも「社会保障関連の給付」がメインですよと。もちろん、信じるか信じないかは別の話ですが。。さらに
・国民の給付と負担の公正性、明確性を確保する
・国民の利便性の更なる向上を図ることが可能となる
・行政の効率化・スリム化も可能となる
としています。ここまでは良いこと(メリット)ばかりですが、その後で
・制度面とシステム面の両面で十分な個人情報保護策を講じる
・費用と便益を示し、国民の納得と理解を得ていく
といった課題があることを示しています。最後に、
と今後の予定に触れています。今のところは、順調に進んでいますね。
●個人所得課税と番号制度
次に番号制度出てくるのは、「税制全体の抜本改革」にある「個人所得課税」のところです。
(1) 個人所得課税
雇用形態や就業構造の変化も踏まえながら、格差の是正や所得再分配機能等の回復のため、各種の所得控除の見直しや税率構造の改革を行う。給付付き税額控除については、所得把握のための番号制度等を前提に、関連する社会保障制度の見直しと併せて検討を進める。金融証券税制について、金融所得課税の一体化に取り組む。
ここでは、「給付付き税額控除」の検討について、所得把握のための番号制度等を前提にするとしています。やはり、「社会保障関連の給付」が目的となっています。
次に番号制度出てくるのは、同じく「税制全体の抜本改革」の「その他」です。
(6) その他
上記の改革のほか、社会保障・税に関わる共通番号制度の導入を含む納税環境の整備を進めるとともに、国際的租税回避の防止を通じて適切な課税権を確保しつつ投資交流の促進等を図る等の国際課税に関する取組みや国際連帯税等について、検討を行う。
ここでは、「共通番号制度」が「納税環境の整備」の一つであるとしており、ようやく「税の徴収」と番号制度を結びつける記述となっています。
「社会保障・税一体改革成案」に出てくる「番号制度」は以上です。
●番号制度は低所得者向けのセーフティーネット
次に、成案に添付されている「別紙2:社会保障改革の具体策、工程及び費用試算」も見ておきましょう。
この中では、「医療・介護等」の分野で、「総合合算制度(番号制度等の情報連携基盤の導入が前提)」となっており、やはり番号制度は「給付」に関連付けられています。すぐ下に「低所得者対策・逆進性対策等の検討」という記述もありますので、こちらも番号制度に関連付けているようです。
「総合合算制度」は、費用負担の総額に世帯収入に応じた上限を設けるもので、低所得者対策であると共に、医療・年金・介護等の給付を抑制する効果もあります。
最後に番号制度が出てくるのは、「貧困・格差対策(重層的なセーフティーネットの構築)」にある「社会保険制度における低所得者対策の強化」の中で、「総合合算制度(番号制度等の情報連携基盤の導入が前提)」とあります。
こうして見ると、「社会保障・税に関わる(共通)番号制度」は、「社会保障関連の給付」を主たる目的とし、特に「低所得者対策の強化(貧困・格差対策)」の前提となる制度であると言えましょう。別の見方をすれば、「中・高所得者にとっては厄介な存在」になるかもしれません。