社会保障・税番号大綱案を読み解く(8)、番号制度と国民ID制度の関係

社会保障・税番号大綱案を読み解く(7)、番号制度に大切なリスクコミュニケーションの続きです。

今回は、「番号制度の将来的な活用」について見ていきましょう。

●番号制度と国民ID制度の関係

大綱では、番号制度の将来的な活用(P.20)については、ごく簡単に触れているだけですが、大事なことが書かれています。それは、「番号制度と国民ID制度の関係」です。

まず前段では、

『以上のように、まずは国民の生活に直結する社会保障及び税の分野において広く「番号」を活用するとともに、「番号」に係る個人情報は情報保有機関が分散管理することとし、この分散管理を基にした高いレベルのシステム上の安全措置と制度上の保護措置を講じることにより、国民が安心して「番号」のメリットを享受できることとする。』

と説明しており、「番号制度」が、社会保障と税の分野において広く「番号」を活用するものであることがわかります。

続く後段では

『その上で、番号制度の情報連携基盤がそのまま国民ID制度の情報連携基盤となり、将来的に幅広い行政分野や、国民が自らの意思で同意した場合に限定して民間のサービス等に活用する場面においても情報連携が可能となるようセキュリティに配慮しつつシステム設計を行うものとする。』

とあります。この説明を整理すると

・「番号制度」と「国民ID制度」は、基本的には異なる制度である
・初めに「番号制度」があり、「国民ID制度」はその後に続く
・「番号制度」も「国民ID制度」も、「情報連携基盤」を活用する
・「国民ID制度」は、社会保障や税の分野に限らない幅広い行政分野での利用を想定している
・「国民ID制度」は、「本人の同意」を前提とした民間サービスとの情報連携も視野に入れている

政府としての優先順位は、社会保障・税の一体改革と関係が深い「番号制度」が初めにあり、「国民ID制度」の実現は今後の検討課題としているのでしょう。

いわゆる「番号推進派(様々な分野で共通番号が利用されるフラットモデルが良いと考える)」と言われる人たちは、「番号制度」が社会保障・税以外の分野に拡大していくことを期待しています。経済団体等からは「番号制度」への期待が多いと思いますが、今回の大綱を読む限りでは、「番号制度」が多分野へ拡大していくことは難しいように思います。

他方、「ID連携推進派(自己情報コントロールを重視し、認証連携と属性情報流通を分けるモデルが良いと考える)」の人たちは、「番号制度」の拡大を防ぐためにも、「国民ID制度」に期待しているようです。

しかし、「番号制度」に比べると「(インターネットを前提とした)国民ID制度」は歴史も浅く、モデルも確立されていないため、欧米やアジアとの連携まで視野に入れた「国民ID制度」を考え構築していくことは、かなりの困難が予想されます。また、本気で「国民ID制度」に取り組む場合は、戸籍や住民基本台帳といった既存の法制度を根拠とする国民・住民データベースにまでメスを入れる必要も出てくるでしょう。

こうした「国民ID制度」の困難性を考えると、政府が、まずは「番号制度」に優先順位を置いたのは懸命な判断だったと思います。

●番号を活用しつつID連携も取り入れる

住民基本台帳を基礎とした行政機関の個人情報管理ネットワーク、番号制度の導入前と後などで説明してきた通り、作者自身は「住民票コードを核とした番号連携とID連携の使い分けモデル」が良いと考えています。

「アイデンティティ連携」と「識別番号連携」の比較表

住民基本台帳を基礎とした行政機関の個人情報管理ネットワーク

・行政内部では「住民票コード」を共通番号として活用する
・官民で利用する場合は、「住民票コード」に紐付けされた各サービス番号を利用する
・民間で利用する番号は、各サービス番号と紐付けしておく

例えば、「住民票コード>>納税者番号>>従業員番号」といった紐付けです。

官官では共通番号で名寄せやマッチングを行い、官民の情報連携ではID連携を活用しますが、「見えない番号」を使わないので、現在のように複雑な情報連携基盤は必要ありません。もちろん、官による名寄せやマッチングは、国民や第三者機関がしっかり監視します。

番号制度に関するアンケート等(PDF)を見ると、「共通番号」に対する国民の理解や賛同は多いので(7割が賛成)、上記のようにシンプルなモデルとしておく方が、最終的には制度として成功するのではないかと思います。