社会保障・税番号大綱案を読み解く(10)、今後の進め方と付番機関

社会保障・税番号大綱案を読み解く(9)、情報連携基盤の運営機関は冷静に考えようの続きです。今回は、番号制度の今後のスケジュール等を確認してみましょう。

大綱(PDF)では、「今後の進め方」として次の4つを挙げています。

(1) 国民の納得と理解を得るための活動
(2) 地方公共団体等との連携
(3) 番号制度の導入に係る費用と便益
(4) 今後のスケジュール

●国民の納得と理解を得るための活動

・番号制度創設推進本部の設置
・民間団体と協力しながら番号制度の創設を推進
・政府広報の積極的な実施
・2年間に全国47都道府県で番号制度のシンポジウムを開催
・番号制度導入のために周知・広報を行う民間団体を支援・連携

などがあります。番号制度創設推進本部の最近の動きとしては、

番号の名称を「マイナンバー」に決定(PDF)
番号制度リレーシンポジウムの開催

シンポジウムは、平成23年5月29日に東京で開催され、資料も公開されています。シンポジウムの参加者や団体を見ることで、どのような立場の人や団体が番号制度に積極的であるかがわかりますね。今後の開催予定については、番号制度シンポジウムの開催日時で確認できます。今月(7月)は熊本と福岡で開催されるようです。

関連して、わたしたち生活者のための「共通番号」推進協議会による「共通番号」推進協議会シンポジウム「国と地方との協議の場~『共通番号』をテーマに」【2011年7月29日】が開催されます。翌日には、堀部政男情報法研究会が主催する『社会保障・税番号(マイナンバー)制度におけるプライバシー・個人情報保護のあり方<課題と提言>』もあります。

今後、賛成派・反対派・中立派などから、様々な意見や提案が出てくることに期待しましょう。

●地方公共団体等との連携

・国民生活に密接な行政は、地方公共団体が実施している
・市町村が名寄せした所得情報が、福祉施策で活用されている
・番号制度の活用には、国と地方の連携が不可欠
・日本年金機構や医療保険者等の関係機関も重要
・全国知事会・市長会・町村会等からの意見を大綱にも反映済み
地方税電子化協議会ブロック別・個別全国説明会を実施する予定
情報連携基盤技術ユーザーサブワーキンググループ(PDF)に自治体関係者が参加中

今のところは、まだ受身の自治体が多いですが、番号制度が導入されていく中で、自治体や地域としての成長戦略・経済戦略・ICT戦略・行政改革等に、番号制度を取り込んでいく必要が出てくるでしょう。

開催回数は少ないのですが、情報連携基盤技術ユーザーサブワーキンググループにおける議論(PDF)では重要な指摘も多いので、自治体関係者は目を通しておきたいところです。

●番号制度の導入に係る費用と便益

・番号制度は新たなシステム開発が必要で費用もかかる
・番号制度に伴う行政効率化で、大きなコスト削減効果の実現が必要
・システム設計や調達は、費用対効果を十分に踏まえて検討する
・費用負担は、受益者負担の観点も踏まえつつ検討する
・費用は、制度設計の仕方によって異なってくる
・期間は、システム稼動までに少なくとも3-4年程度はかかる
・費用と便益について、国民にわかりやすく示していく

社会保障・税番号大綱案を読み解く(7)、番号制度に大切なリスクコミュニケーションでも触れましたが、根拠やデータの明確化・見える化を進めることは、国民へわかりやすく説明していく上で、とても大切です。

「番号」の導入に係る費用・期間については、政府資料としての提示は「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会 中間取りまとめ」(PDF:平成22年6月29日)があるぐらいで、その後、新しいものは出されていないようです。

「番号」の導入に係る費用・期間

ICカードが全員配布ではないので、その分を差し引いたとしても、導入までに2000億円ぐらいの費用はかかりそうです。金融機関や企業等のシステム改修も必要になるので、ICT業界にとって特需になることは間違いないでしょう。

他方、効果(金額)については、はっきりした明示はありません。社会保障・税に関わる番号制度の選択肢(3)、費用は確実だが効果は活用次第で整理したように、「番号制度+行政の効率化・簡素化」が進めば「税収増+コスト削減」で年間数千億円から数兆円の効果も夢ではありません。このあたりは、番号制度だけでなく社会保障・税一体改革の内容や実現可能性等の影響が大きいので、試算は難しそうです。

今後、ユースケースの検討を進める中で、具体的な効果を算出していくと良いでしょう。

●今後のスケジュール

・2011年秋以降、可能な限り早期に番号法案・関係法案を国会に提出
・法案成立後、可能な限り早期に第三者機関を設置し、業務を開始
・2014年6月、個人に「番号」、法人等に「法人番号」を交付
・ICカードの国民への交付の在り方は、今後検討していく
・2015年1月以降、社会保障と税務分野の可能な範囲で「番号」を利用開始
・2018年を目途に、利用範囲の拡大を含めた番号法の見直しを行う

私たちの手元に「番号」が届くのは、早くても3年後の2014年夏ごろになりそうです。現実的に考えると、住民票コードと同じようにハガキ等による通知が一般的なのではないでしょうか。「早く番号が欲しい人は、ICカードを希望して取得する」などの方法も考えられます。このあたり、何らかのインセンティブを与えて、ICカードの取得を奨励するかもしれませんね。

2015年には、勤務先に「番号」を提出したり、銀行・証券口座を開設するときに「番号」の提出が求められるようになるかもしれません。

番号法を定期的に見直すことは大切と思いますので、2018年は難しいかもしれませんが、2020年頃までには1回目の見直しをして欲しいですね。

●個人の付番機関も総務省に?

大綱では、法人の付番機関については、『法人等付番機関は国税庁に必要な体制の整備を検討する(P.54)』とありますが、個人の付番機関についての明記はありません。ただし、注記(P.23)には次のような記述があります。

付番機関について、社会保障制度や税制の改革の方向性に照らして「歳入庁の創設」の検討を進めるとともに、「まずはどの既存省庁の下に設置すべきか」については、基本方針を踏まえる。個人への「番号」の交付、法人等への「法人番号」の交付に当たっては、その施行日前においても、事務の実施に必要な準備行為ができる旨、番号法に規定する。

基本方針(PDF)(P.5)を見てみると、

・個人に対する付番及び情報連携基盤を担う機関の所管は、総務省とする
・法人に対する付番を担う機関の所管は、国税庁とする

とありますので、個人に対する付番機関の所管は総務省になりそうです。『マイ・ポータルの運営機関は、情報連携基盤の運営機関と同一の機関とする(P.44)』となっているので、このまま行くと総務省が「番号の付番機関」「情報連携基盤の運営機関」「マイ・ポータルの運営機関」を兼ねることになってしまいそうです。

さすがに、ここまで総務省に所管が集中してしまうと懸念も大きくなると思うので、社会保障・税番号大綱案を読み解く(9)、情報連携基盤の運営機関は冷静に考えようで提案したように、マイ・ポータルと情報連携基盤の運営機関は、省庁や自治体が参加する運営委員会方式などにした方が良いでしょう。