社会保障・税番号大綱案を読み解く(17)、「情報連携に該当しない」分野に注目しよう
社会保障・税番号大綱案を読み解く(16)、住基ネットの基本4情報が共通の識別子にの続きです。
引き続き、大綱における、情報連携(P.43)について整理します。
●実務に配慮する「情報連携の範囲」
・利便性やサービスの質の向上、行政事務の効率化等を実現するために
・情報連携基盤を用いることができる事務の種類
・提供される個人情報の種類
・提供元・提供先等を法案策定までに明らかにする
情報連携の範囲については、番号法令で規定されますが、作者が注目しているのは情報連携の範囲から外れる「情報連携に該当しない」とされる情報利用です。
社会保障・税番号要綱、プライバシー専門家の影で政府は笑うで書いたように、「IDコード(符号)」や「情報連携基盤」が上手く機能しなくても、政策上重要な情報の利用については「情報連携に該当しない」とすることで、「(社会保障と税の)番号」は機能するようになっています。
大綱で明確に「情報連携に該当しない」としているのは、
P.42の注釈31
事業者からの法定調書の提出や制度上情報の共有が想定されている確定申告書等の国から地方団体への送付など、法令に基づき書面又は電子的手法を通じて情報収集がなされているものについては、情報連携に該当しない。
加えて、明言はしないものの
P.43の注釈32
制度上情報の共有が想定されており現に書面又は電子的手法を通じて情報共有がなされている場合等、個別の事情を踏まえた取扱いについて検討する
と書いてある分野については、恐らく「情報連携に該当しない」とするのでしょう。
上記「情報連携に該当しない」の説明を読むと、「情報共有」と「情報連携」に分けているようにも見えます。しかし、「情報共有」か「情報連携」かの見極めは難しく、単なる便宜上の分類だと思います。
つまり、既存の業務で行われている分野や機関を超えた情報利用(共有・照会・照合・交換・収集・連携など言葉は何でも良い)で完全にオンライン化されていないものについては、「情報連携に該当しない」とすることで、番号制度(に伴う「情報連携基盤」の)導入によって業務に支障を来たさないようにしているのです。
そして、これから新たに分野や機関を超えてオンラインで情報利用する場合は、原則として「情報連携に該当する」としますが、政府の判断により「情報連携に該当しない」としたり「情報連携に該当するけど情報連携基盤は使わない」とすることがありますよと。良いか悪いかは別として、きわめて現実的な判断と言えるでしょう。
●医療情報は本人同意を前提とした特別な情報連携で
・医療・介護等の分野での情報連携については
・特に情報保有機関が相当数に上り非常に多くの情報がやり取りされることや
・民間の医療機関等も含まれることから
・法制上の特段の措置と併せて、負荷や費用の面で効率的なシステムとなるよう
・特段の技術設計を行う方向で検討する
政府の判断により「情報連携に該当するけど情報連携基盤は使わない」とする例として、医療情報の利用が挙げられるます。
社会保障・税番号大綱案を読み解く(7)、番号制度に大切なリスクコミュニケーションで書いたように、番号制度の導入は「原則として本人同意を前提としない仕組み」ですが、その一方で、
機微性の高い個人情報のやり取り等あらかじめ本人の同意を得て「番号」の利用又は情報連携を行う必要がある個人情報については、その旨法律又は法律の授権に基づく政省令に記載する
としています。また、大綱の「情報の機微性に応じた特段の措置(P.55)」にも
医療分野等において番号制度の利便性を高め国民に安心して活用してもらうため、医療分野等の特に機微性の高い医療情報等の取扱いに関し、個人情報保護法又は番号法の特別法として、その機微性や情報の特性に配慮した特段の措置を定める法制を番号法と併せて整備する。
とあります。最近公開された医療情報化に関するタスクフォースにおける調査の方針(PDF:平成23年7月14日改正)を見ると、引き続き検討する事項として次の3つが挙げられています。、
1 「どこでもMY 病院」(自己医療・健康情報活用サービス)構想の実現
2 シームレスな地域連携医療の実現
3 レセプト情報等の活用による医療の効率化
このうち「どこでもMY 病院」構想(PDF)にあるような、薬局や病院等が保有する患者の医療情報(医療カルテ等)の利用については、「本人同意を前提とした、情報連携基盤を使わない情報連携」になりそうです。レセプト(診療報酬明細書、調剤報酬明細書)も、上記の医療情報の一種として扱われるようです。
マイ・ポータル上で本人が閲覧・確認できるのは、健康保険や介護保険に関して言えば、保険料の納付状況や給付金額(自己負担金額)など、医療情報に比べると機微性の低い情報に限られるでしょう。
●住基ネット基本4情報との同期化
・情報連携基盤とつなぐ情報保有機関は
・番号制度導入時において
・「符号」を自らが有する個人情報のデータベースと紐付けるため
・自らが保有する基本4情報が住基ネットの基本4情報に突合するよう努める
・情報連携基盤とつなぐ情報保有機関は
・住基ネットを通じて基本4情報の提供を求めることができることを
・住民基本台帳法に規定する
・住基ネットの基本4情報と突合した
・情報連携基盤とつなぐ各情報保有機関が保有する基本4情報について
・情報連携基盤とつなぐ各情報保有機関は
・必要な頻度で住基ネットの基本4情報との同期化に努める
前回説明したように、住基ネットの基本4情報が共通の識別子になります。「住基ネット情報との同期化」については、要綱に出てきた際に驚いたのですが、大綱でより具体的になった記述により作者の勘違いではなかったことがわかりました。
ここにある記述は、どう読んでも「情報連携基盤とつなぐ情報保有機関による、住基ネット基本4情報の共有」であり、デンマークなど北欧型「政府・公共機関等による住民基本情報の共有」です。政府も、ずいぶんと思い切ったことを書いたものです。
なお、「情報連携基盤とつなぐ情報保有機関」になるであろう機関・組織は、情報保護評価の対象となりうる機関及びそのシステム(PDF)で示されている機関とほぼ同じ(社会保障分野1-27の機関、税分野1-3の機関など)と考えて良いでしょう。将来的には、もっと増える可能性があります。
情報連携基盤とつなぐ情報保有機関の例
・情報連携基盤の運営機関の具体的な組織の在り方については、
・引き続き検討する
情報連携基盤の運営機関については、社会保障・税番号大綱案を読み解く(9)、情報連携基盤の運営機関は冷静に考えようをご覧ください。