社会保障・税番号大綱案を読み解く(23)、医療分野は特別扱い

社会保障・税番号大綱案を読み解く(22)、法人番号はオープンガバメントと一体での続きです。

今回は、情報の機微性に応じた特段の措置(P.55)について整理します。

●医療情報が別扱いとされる理由

大綱では、「情報の機微性に応じた特段の措置」について次のように整理しています。

情報の機微性に応じた特段の措置
・社会保障分野、特に医療分野等において取り扱われる情報には、個人の生命・身体・健康等に関わる情報をはじめ、特に機微性の高い情報が含まれている
・個人情報保護法成立の際、特に個人情報の漏洩が深刻なプライバシー侵害につながる危険性があるとして医療分野等の個別法を検討することが衆参両院で付帯決議されている
・番号制度の導入に当たり、番号法において「番号」に係る個人情報の取扱いについて、個人情報保護法より厳格な取扱いを求めることから
・医療分野等において番号制度の利便性を高め国民に安心して活用してもらうため、医療分野等の特に機微性の高い医療情報等の取扱いに関し、個人情報保護法又は番号法の特別法として、その機微性や情報の特性に配慮した特段の措置を定める法制を番号法と併せて整備する
・法案の作成は、社会保障分野サブワーキンググループでの議論を踏まえ、内閣官房と連携しつつ、厚生労働省において行う

★作者コメント
社会保障・税番号大綱案を読み解く(17)、「情報連携に該当しない」分野に注目しようで解説したように、医療情報は、情報連携基盤を使わずに、本人同意を前提とした特別な方法により情報連携・交換等が行われます。

もちろん、医療情報の利用にも例外があります。例えば、生活保護を受ける世帯のレセプト(診療報酬明細書、調剤報酬明細書)は、本人の同意なしに行政機関が点検(PDF)します。

なお、機微性の高い個人情報(特に取扱いに配慮が必要な個人情報)は、JISQ15001(個人情報保護マネジメントシステム-要求事項)を参考にすれば次の通りです。

・思想、信条、宗教に関する事項
・人種、民族、門地、本籍地(所在都道府県に関する情報を除く)、身体・精神障害、犯罪歴、その他社会的差別の原因となる事項
・勤労者の団結権、団体交渉、その他団体行動に関する事項
・集団示威行為への参加、請願権の行使、その他の政治的権利の行使に関する事項
・保健医療、性生活に関する事項

一般の人たちの感覚は少し違っていて、内閣府が実施した個人情報保護に関する世論調査(平成18年9月)などを見ると、国民が他人に知られたくないと考える個人情報は、資産や収入など金銭に関するものが多くなっています。

上記個人情報の中では、「身体・精神障害」や「保健医療」の情報のうち医療保険に関するものは、何らかの形で「番号」が紐づけられて、現在よりも検索・追跡がしやすくなるでしょう。番号制度が導入されると、病歴が他者(就職先など)に漏れると心配する人もいるようですが、実際には、医療情報にアクセスできる人は限られるので、情報漏洩の危険性が特に高まるわけではありません。医療情報にアクセスすることを許された人が「番号」を有効活用できれば、作業の効率性や正確性が向上することで、医療サービスが良くなるかもしれません。

怖いのは、本人が同意して民間事業者等に自分や家族に関する医療情報を「番号」とセットで提供した場合に、その情報が独り歩きすることでしょう。この辺りについては、好ましくないユースケース(不適切な「番号」の利用例)等を検証した上で、具体的な防止・解決策を検討する必要があるでしょう。

医療分野の個人情報が特別扱いされるのは、情報の機微性だけでなく、年々増加する医療・介護費の問題、厚生労働省等の権益、業界の閉鎖性などが複雑に絡み合っていますので、少し注意が必要です。医療情報をどのように取り扱い利活用していくかが、医療・介護費、厚生労働省や関連業界の権益に大きな影響を与えるということです。