Q&A共通番号ここが問題―解体される社会保障 仕分けられる国民

Q&A共通番号ここが問題―解体される社会保障 仕分けられる国民
クリエーター情報なし
自治体研究社

社会保障制度の持続可能性や財政健全化の必要性が多くの国民に認識されるようになった現在、番号制度に反対する人は少なくなっています。官民で実施されるアンケート等では、だいたい7割ぐらいの人が「賛成」で、1-2割ぐらいの人が「反対」、残りが「よくわからない」といった感じです。

多くの反対派に共通するのは、具体的な代替案や解決策を提示できない、諸外国で機能している番号制度を否定できないといったことでしょうか。

そもそも完璧な制度や問題の無い制度などこの世に存在するわけもなく、全ての人が賛成してくれる制度もありません。ですから、問題点を指摘することは誰にでもできます。アメリカや韓国の成りすまし等を指摘して、番号制度は危ないと主張することも、その一例です。

そういった人たちは、周囲にいるアメリカ人、韓国人、シンガポール人などに聞いてみると良いでしょう。「あなたの国では番号で市民を管理していますが、とても危ないと思いませんか?」と。

こうした国の人々は、社会保障番号や住民登録番号といった番号の恩恵を受けているので、「便利だし必要でしょ」「番号無しに、どうやって市民を識別・把握するの?」といった答えが返ってくることでしょう。彼らは番号制度の恩恵を享受し、そのメリットを理解し、デメリットを許容しているのです。もちろん、デメリットが多くなったり、不正利用の動きがあれば、国民として声を上げ改善を求めるでしょう。

作者の知る限り、数ある先進国の中で、近年において番号制度を導入した国はあっても、廃止した国はありません。利用方法や運用を見直す国はあっても、廃止した国はありません。

番号制度が万能で無いことは、政府も含めて多くの関係者が理解しています。

制度設計や使い方を誤れば、プラスの効果が無いばかりか、大いなる無駄遣いとなる可能性もあります。それは、どんな制度にも言えることです。

社会保障費の抑制や増税を行わなければ、社会保障制度が崩壊してしまうことは、中学生でもわかることです。

番号制度でさえ導入・活用できないようならば、社会保障制度の改革などできるわけもないでしょう。

番号制度が予定通りに導入されても、実際に稼動するのは2015年以降で、具体的な効果を上げるのは、さらに2-5年ぐらいかかるでしょう。今の日本に、先送りをしている余裕はありません。

●紙書類の発想から抜けられない人たち

本書で書かれていること全般がそうなのですが、番号制度に反対する人の多くは、住民票や戸籍といった紙書類を前提にした発想から抜け出ることができません。デジタル社会に対応するためには、「戸」や「世帯」といった単位での管理ではなく、個人単位のデータ管理を基礎とする必要があります。

先進国では、住民登録や不動産登録などの国家の基本となる登録情報について、デジタル社会への対応を進めています。例として、エストニアなど欧州の国々、韓国などがあります。日本が情報連携基盤で参考にしたとされるオーストリアも同様です。

例えば、同じ「世帯」でも「住民票の世帯」「税法上の世帯」「社会保障制度上の世帯」といった形で、定義が異なる場合があります。

番号制度が有効に機能していれば、制度によって世帯が異なっていても、特に問題はありません。世帯情報を個人の属性情報として扱うからです。

例えば、12345さんの住民票の世帯は、11111,22222,33333を含む4人世帯ですが
税法上の世帯は、11111,22222,44444を含む4人世帯で
社会保障の世帯は、11111,22222,44444,55555を含む5人世帯です。
このうち同居者は、11111,44444,55555です。

行政等の職員は、自身の仕事に必要な範囲と権限で世帯情報を確認し、所得等の合算結果を求めたりすれば良いのです。もちろん、情報を利用する場合は、職員の本人確認・権限確認・アクセス記録保存などを行います。

こうした属性情報が増えるほど、きめ細かいサービスを提供することが可能になります。しかし、必要な属性情報を迅速かつ正確に確認できないと、仕事が二度手間になったり、間違った請求や給付が行われることになります。共通番号と言われる識別番号は、必要な属性情報を迅速かつ正確に確認するために有効な手段となり得ます。

番号制度でも時々話題になるDV被害も、個人の属性情報として管理しておけば、加害者からの追跡等を防止することが可能になります。12345さんやその扶養家族に関する問い合わせや情報閲覧公開請求があった場合、閲覧等を許可する業務フローの中に「DV被害のチェック」を入れておけば、加害者22222からの請求を拒否すると共に、12345さんに対して、請求があった場所や日時を通知することができます。

個人単位で属性情報を分散管理しておくと、必要最低限の情報利用で済むため、個人情報保護の観点からも好ましいのです。戸籍や住民票では全部事項か一部事項かといった大雑把な情報提供になりますが、個人単位であれば、生年月日だけ、未成年か成人かの確認だけ、性別だけ、DV被害情報だけといったピンポイントで最低限の情報を提供したり共有することができます。

●制度から漏れる人の対応は別の話

番号や電子データで税や社会保障を管理すると、各個人や家庭の状況をあまり考えない、画一的で人間味の無い冷たい対応やサービスになる。番号やICカードが無いと社会保障や行政サービスが受けられなくなる…といった主張は全くの誤解(デマ)です。番号やICカードは、社会保障や行政サービスを受ける資格等を確認するための手段の一つに過ぎません。病院で提示する健康保険証や診察券などと同様です。

番号や電子データで税や社会保障を管理することで、必要な属性情報を迅速かつ正確に確認できるようになり、個人や家庭の実情を踏まえたより温かみのあるサービスを実現できるのです。戸籍や住民登録の制度から漏れてしまった人たちを把握し、ケアする余裕が生まれるのです。番号制度の歴史が古い北欧諸国は、社会保障制度の先進国でもあります。一部の人たちが制度から漏れるのであれば、その人たちには別の対応でケアすれば良いのです。

属性情報を収集し更新する過程では、現場の窓口等で多くの人が介在します。そうした介在する人たちを支援するのが番号制度の役割です。サービス対象者やサービス提供者をサポートし、より良いサービスを実現するのが番号制度の役割です。

番号制度が何かをしてくれるわけではありませんし、番号制度で監視国家が生まれるわけでもありません。

番号制度を導入したために独裁国家や監視社会になった国などありません。

独裁国家であれば、自分たちにとって使いやすい番号制度(手段)を導入するだけの話です。

現在、政府が検討している番号制度の番号(マイナンバー)は、数ある番号の一つに過ぎません。そんな番号で、どうやって深刻なプライバシー侵害や情報漏えいなどの危険が高まるのでしょうか。具体的にこのような方法や経緯で、これだけのリスクが高まるといった主張を作者は聞いたことがありません。反対派の意見では、いつでも漠然とした話ばかりです。番号制度と直接関係の無い話も多いです。

番号制度に対して国民がするべきことは、メリットばかりを訴える甘言や、デメリットばかりを主張するデマや既得権益層に惑わされることなく

・番号制度の背景や趣旨を理解する
・趣旨に沿った目標の実現を政府に約束させる
・費用対効果をチェックする
・不正、不適切な利用が無いように監視する

といったことでしょう。もちろん、番号制度の背景や趣旨を理解した上で、反対するのも良いでしょう。

しかし、番号制度の導入が進められ現実化していく中では、実際に社会の役に立つ番号制度にしていくための方策を考えて支援した方が、より現実的かつ建設的であり、自分自身や家族、日本の将来のためになることでしょう。

“Q&A共通番号ここが問題―解体される社会保障 仕分けられる国民” に2件のコメントがあります

  1. 戸や世帯の課題
    戸や世帯が悪く書かれてますが、制度毎に定義が違ったり、解釈上の曖昧さがあるのが課題と思います。
    窓口裁量主義とことなかれ主義の相乗が、ものいう疑似弱者に社会が食い物にされる環境を提供し続けているように感じています。
    法治(法のもとの平等)と適切なルールを求め続ける社会(屋上屋を重ねるのではなルールを改正し続けることをおそれない社会)を求めていきたいと思ってます。

  2. 電子政府の役割
    コメントありがとうございます。

    制度毎の定義を共通化したり、解釈の曖昧さを減らして透明性を高めることは有効と思います。その一方で、目的が異なる制度であれば、定義が異なることもあると思います。

    電子政府の役割の一つは、コンピュータで自動処理できるものはどんどん効率化する一方で、地域や個人の実情に応じたケアを充実させていくことだと思います。

    使えるお金(と公務員)が少なくなる中では、かなりの改革と工夫が必要になりますが、できないことでは無いと思っています。実現している国もありますし。

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