国民ID制度が日本を救う 、日本の電子政府を良くしたいなら公務員改革と向き合え
国民ID制度が日本を救う (新潮新書) | |
クリエーター情報なし | |
新潮社 |
ちょっと大げさなタイトルですが、書かれている内容は、電子政府関係者から見ればもっともなことばかりです。
電子政府ベンダーさんとお話して感じるのは、次のようなことです。
○プラスの側面
・海外と比べて遅れている電子政府を良くしたい
・社会に役立つ、人々に喜ばれる電子政府を作りたい
・行政はもっと効率化できるし、サービスも良くできる
・業務の標準化やクラウドの活用等でコストも低減できる
・プライバシーを考慮しつつ、情報活用・連携を進めたい
○マイナスの側面
・今までの儲かる仕組みを維持したい
・目先の利益を優先してしまう
・本当に電子政府で便利になったら仕事が無くなる
役員クラスから新人社員さんまで、どんな人でもプラスとマイナスの両面を持っていて、そのバランスに苦労しているのだと思います。分野や時期によって、プラスとマイナスの割合も変化することでしょう。これは、公務員の方々でも同じと思います。
かく言う私自身も、電子政府に関連してお金をもらっている以上、税金で食べさせてもらっている面があるわけで、同じようにプラスとマイナスの側面を併せ持っています。
本書は、プラスの面を前面に押し出した内容で、「なぜ海外では進んでいるのに、日本では進まないのか」といった悔しさみたいなものも伝わってきます。同じような思いを抱いている電子政府関係者は多いことでしょう。
●電子政府が良くなれば、仕事が減り職を失う人がいる
諸外国のように国民ID制度(番号制度、身分証明カード、情報連携等)を基礎とした電子政府が進めば、行政の仕事は確実に減り、職種によっては職を失う人も出てくるでしょう。
日本の電子政府を本当に良くしたいのであれば、この問題、すなわち「公務員制度改革を含む行政改革」と真剣かつ誠実に向き合う必要があります。それは、
・公務員の仕事を減らしたり(=権益の削減)
・不要となる公務員を解雇・転職させたり
・関連する天下り団体を解散させたり
・勤続年数に応じて自動的に昇給する仕組みを廃止したり
・退職金や給与を削減したりすることで
・人件費の総額を減らす
といったことを含んでいます。
実際、先見性のある首長がいる自治体などでは、こうした問題に正面から向き合い、人員削減やワークシェアリング等による給与削減などを行っています。このような自治体であれば、情報化やIT活用の下地ができているとも言えます。
上記のような問題に対して、明確なビジョンを示せない状態で電子政府を進めても、絵に描いた餅で終わる可能性が高いのが現実です。かと言って、無理に進めても、電子政府の当事者である公務員の反発に合って頓挫してしまいます。
電子政府で、社会コストを減らし国際競争力を高めながら、公共サービスを改善していくためには、かなり綿密なプランが必要になります。
いつ終わるかもしれない痛みを我慢してもらうやり方は、そう続くものではないですし、どうせ電子政府を進めるなら、楽しく希望を持って進めたいものです。
例えば、トランポリン型の社会保障を整備したり、公務員と民間における雇用の流動性を高めるインセンティブを与えることで、痛みを緩和したり、将来のキャリアパスを立てやすくすることができます。50代の給与を減らす代わりに、20-30代の給与を増やすことで、やる気のある優秀な人材を確保しても良いでしょう。こうした改革や政策とセットで電子政府を進めることが大切と考えています。
電子政府は多くの変革を伴うものですが、情報システムや法制度の変化に比べて、そこに関係する「人」が変化するにはより多くの時間がかかりますし、その人たちの立場に合わせたフォローアップが必要になります。
以前、電子政府の次世代戦略マップを書いたのも、こうした考えを将来の電子政府に反映させたいと思ったからです。
少なくとも今のままでは、番号制度(より広範囲な情報連携・情報活用を含む)や電子政府に賛成する人も、反対する人も、共倒れになってしまうのではないかと心配しています。
そんなことを考えていたら、全く違う分野ですが、同じように苦労されている人が書かれた本「日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる」を読む機会がありました。
日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書 360) | |
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NHK出版 |
日本の将来を考えて、若い世代の人が奮起されているのは、大きな励みになります。良書なので、こちらもオススメします