韓国はなぜ電子政府世界一なのか、ルールを覚えて勝つための努力をしているから
廉宗淳さんの連載「韓国はなぜ電子政府世界一なのか」がダイヤモンド・オンラインで始まりました。第一回は、「改札を機械化する日本、改札をなくす韓国――情報化の本質とは何か」で、日本の電子政府を考える上でも、とても参考になります。次回以降の連載も楽しみですね。
今回は、作者が理解しているところの「韓国はなぜ電子政府世界一なのか」をお話ししたいと思います。
●電子政府への投資回収
韓国の電子政府を語る上で欠かせないのは、1997年のアジア通貨危機でしょう。日本が敗戦後の焼け野原から立ち直ったように、一度落ちるところまで落ちてしまうと、様々な改革が実施される機会となり、上手くいけば落ちる前よりもたくましい国家に生まれ変わることができます。
アジア通貨危機から立ち直るために、韓国は国家の重要な武器の一つとしてITを選びました(選ばされた)。その成果が、現在のサムスン電子であり、電子政府世界一に繋がっているのだと思います。
もう一つ重要な視点があります。それは、韓国政府にとっての電子政府は、将来の海外輸出産業への投資でもあったことです。
日本の場合、電子政府は国内インフラへの投資であり、国内産業、いわゆるITゼネコンと言われる業界への税金投入ですが、韓国の場合はそれらに加えて「将来の海外輸出産業への投資」でもありました。
※ちなみに、韓国と並ぶアジア地域の電子政府リーダーであるシンガポールは、海外からの投資を呼び込むために電子政府を活用しました。
もちろん、韓国が最初からここまで考えていたかは微妙ですが、電子政府の分野で「日本に追いつけ追い越せ」と言っていた段階は終わり、現在は「いかにして電子政府への投資を回収するか」「とりわけアジア地域における電子政府先進国としての地位をいかに高めるか」という段階に入っています。
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●ルールを熟知して1位を勝ち取る
国連の電子政府ランキング2012(United Nations E-Government Survey 2012: E-Government for the People)で、電子政府リーダーとされる国々は次の通りです。
日本は18位ですが、世界全体から見れば、まだまだ電子政府先進国なんですね。
さて、このランキングが各国の電子政府の正確な実力を表しているかと言えば、そうではないと思います。例えば、韓国とシンガポールは、それぞれ1位と10位ですが、正直ここまでの差は無いでしょう。
※シンガポールは、オンラインサービス指標は韓国と同じく満点ですが、インフラ指標と人的資源指標で韓国に差をつけられています。
韓国の電子政府の実力が世界のトップクラスであることに疑いはありませんが、国連の電子政府ランキングは政治的な意味合いも含まれており、その分は差し引いて見た方が良いと思います。
しかし、「電子政府輸出」を目指す韓国にとって、国連の電子政府ランキングは最高のひのき舞台です。ここでいかにプレゼンスを高めるかが、韓国政府にとって重要なことなのです。
つまり、韓国の電子政府は、国連の電子政府ランキングで1位をもらっているのではなく、「1位を取りにいっている」のです。そのために周到な準備を重ね、積極的に英語で情報発信し、ルールを熟知し(必要であればルールを変更して)、1位を勝ち取るための努力を続けているのです。1位になることの重要性を認識して、政治と経済が共同でコミットしている(力を注いでいる)のです。
その結果が、国連の電子政府ランキング1位であり、アジア市場で直接的なライバルとなるシンガポールに大差をつけた1位なのだと思います。
●日本の電子政府は海外に通じるか
韓国の電子政府輸出は年々増加しており、今後も増えていくことでしょう。しかし、その実績、特に導入した国々の満足度といった点では、まだまだ課題が多いと思います。
とは言え、今の韓国であれば、失敗にめげることなく試行錯誤を続けながら、そうした課題もクリアしていく可能性があります。
それでは、日本の電子政府は、韓国のように電子政府輸出国となり得るでしょうか。作者自身は、その可能性はあると考えています。
昨年、久しぶりに海外の方から電子政府関連の問合せをいただきました。現在は、英語での情報発信やメールの受付をほとんどしていないので、ちょっと驚いたのですが、日本語ができないにもかかわらず、頑張ってメールを送ってくれたようです。
問合せをくれた方は、これから成長を遂げるであろうアジアの国の人でしたが、日本の電子政府インフラに関心を持っているようで、その後も何度かやり取りをしています。
日本ほどの大国ともなると色んなしがらみがあり、過去のインフラに縛られているため、電子政府本来の実力を発揮できない。せっかくの効率的な仕組みやシステムを考えても、利害関係の調整をしているうちに、とんでもなく高価で使えないものができてしまう。住基ネットなどは、その最たる例でしょう。
ところが、これからインフラを作っていくような途上国・新興国であれば、日本の電子政府ベンダーが活躍できる機会があります。日本では実現できなかったことを、途上国・新興国で実現させて、その国の発展に貢献できる可能性があるのです。
実際、鉄道や発電施設などのインフラ事業で日本の企業が活躍しています。それを同じようなことが、IT産業でできないわけはありません。韓国電子政府との差別化という視点では、輸出相手国のIT産業や人材育成支援に力を入れるのも良いでしょう。
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もちろん、日本の政府や電子政府ベンダーが、「ルールを覚えて勝つための努力を続けること」が最低条件ですね。