復旧・復興支援制度データベースから考える、電子政府APIの提供と活用

6月2日に開催された復旧復興支援データベースAPI ハッカソンに参加してきました。知り合いに誘われておっかなびっくりの初参加でしたが、皆さん良い人ばかりで楽しいひと時を過ごすことができました。

API公開については、商号検索サービスへの期待、「API公開」の意味を考え「無料の企業検索サービス」の実現をでも書いたように、電子政府評価委員をしていた頃から、作者自身その実現を訴えてきた一人です。

もちろん、電子政府に関する「API公開」とそれに伴う開発支援には税金が使われるわけですから、ただ漫然と「API公開」することは許されません。

・設計・開発の基本方針として「APIの提供」を明記しておく
・API提供の方法等について、政府で統一したガイドライン等を定める
・公開されたAPIを民間等が活用できるように、開発支援環境を整える
・明確な成果目標を定めて、PDCAサイクルを実施する
 (APIを使って実現されたサービスの数や利用者数、利用者の満足度など)

などが必要でしょう。また、電子政府の総合窓口(e-Gov)電子申請システムの仕様公開、成果を生み出すためにはで書いたように、3つのポイントが大切です。

1 API公開は手段であって、目的・目標ではない
2 目標や成果を、「利用者の視点」で決める
3 公開にあたっては、開発者の視点を重視する

先進的な事例として注目に値する「復旧復興支援データベースAPI」ですが、公開前にもう少し開発者や支援制度利用者の声を聞いておけば、もっと良い形でスタートできたのではないでしょうか。

●目指すべき成果とは

電子政府における「API公開」は、オープンガバメントやオープンデータの一環でもあります。そのため目指すべき成果は、大きく分けて次の3つになります。

1 公共サービスの改善
2 ビジネスの創出・活性化
3 政府の透明性・国民参加の向上

復旧復興支援データベースAPIは、多少のニーズ想定はあったものの、その公開自体が目的・目標になった印象があり、課題を多く抱えている印象があります。「利用者の視点」で目標や成果を明確化し、開発者の声を聞きながら公開する情報の種類や提供方法などの改善が必要でしょう。

ハッカソンでは多くのアイデアが上がりましたが、「公共サービスの改善」と「政府の透明性・国民参加の向上」が主だったように思います。

作者が事前に考えていたアイデアも、次のように「公共サービスの改善」と「政府の透明性・国民参加の向上」を目指したものです。

(1)つぶやきボット
・目的:支援制度のPR
・トラブル例(カテゴリ)に対する提案をつぶやく。
・震災で仕事を失いました:釜石市で短中期の雇用就業機会を創出中(リンク表示)
・生活費に困っています:支援金・見舞金のもらい忘れはないですか(リンク表示)
・期限終了のアラート(1ヶ月前、1週間前、前日など)

(2)カスタマイズ冊子作成
・目的:パソコン等が使えない人への仲介・支援
・個人の属性情報や希望等を入力すると
・カスタマイズされた冊子PDFが自動作成
・印刷・メール送信機能など

(3)支援制度の利用状況発信
・目的:制度の利用状況の見える化で説明責任を果たしつつPR効果も狙う
・よく利用されている支援、利用されない支援ベスト10(利用者数、件数、金額、地域など)
・支援に使われているお金の割合(税金、国内寄付、海外義捐金など)

(4)申請書作成支援
・目的:検索した後のフォローとして
・電子申告より人気が高い確定申告書作成サービス
・個人の属性情報や希望等を入力すると
・おすすめの支援制度が表示
・支援制度を選ぶと申請書が自動作成、添付書類一覧も
・印刷・メール送信・送付用封筒作成機能など

「公共サービスの改善」を実現したい場合、士業サービスの業務フローに多くのヒントがあります。

士業が行うのは、手続の代理・代行・書類作成などですが、詳しく分類すると次のようなフローになります。

1 現状の確認・整理
2 解決方法の提案(他士業との連携・紹介を含む)
3 行政窓口での相談・付き添い・交渉
4 資料収集・書類作成
5 申請(オンライン、郵送、窓口提出)
6 申請後のフォロー
  ・許認可や補助金等の受領確認
  ・派生する手続の申請・届出
  ・関連する手続の紹介
  ・更新時期の案内など

復旧復興支援データベースAPIで直接的にできることは、主に「解決方法の提案」であり、検索条件の指定で補足的に「現状の確認・整理」も含んでいます。

支援制度の利用者に喜んでもらうためには、上記のどれかを充実・追加すれば良いのです。アイデアとして挙げた(4)申請書作成支援は、その一例です。

●ビジネスの視点からのAPI活用

復旧復興支援データベースAPIで「ビジネスの創出・活性化」を考えるためには、復旧復興支援制度を取り巻く既存のビジネスモデルに注目すると良いでしょう。

支援制度は、簡単に言えば補助金制度であり、お金の支援です。お金が動くところには必ずビジネスチャンスがあります。「みんなの税金や寄付金で成り立っている復旧復興支援でビジネスするなど、けしからん!」と言わずに、支援制度の利用者に喜んでもらいつつお金がもらえる仕組みを考えてみましょう。

具体的に発生する金銭として、次のようなものが考えられます。

・士業の手続代理・代行費用
・金融機関の口座開設・融資
・職業訓練目的の各種講座受講料
・医療、医薬品、介護の費用
・子育て、教育支援の入学金・授業料
・事業に必要な設備・備品の費用
・事業に必要な不動産賃貸料
・住宅や工場の建設・リフォーム費用

これらのお金に繋がるように、復旧復興支援データベースAPIを活用すれば良いのです。

例えば、金融機関が復旧復興支援データベースを利用する場合は、多くの選択肢があっても利用者は困惑するばかりです。支援制度を検索・選択する画面には、金融機関と利用者の両方が嬉しい制度だけが表示されるように、あらかじめ絞り込んでおきます。

そして、もし利用者が支援制度を実際に活用すれば、金融機関にも預金額が増えたり、追加の融資が発生したりするような仕組みにしておきます。そうした仕組みがあって初めて、金融機関は利用者の支援申請を本気で手伝ってくれるのです。そして、その手段として復旧復興支援データベースAPIが使えるとわかれば、喜んで使ってくれることでしょう。

動く金額が大きい建設・リフォーム業界なども、復旧復興支援データベースAPIを活用してくれる可能性がありますね。