番号制度カンファレンス ――国民が主役のマイナンバー制度に向けて

マイナンバーがやってくる~共通番号制度の実務インパクトと対応策でもお知らせしましたが、ITpro EXPO 2012(東京ビックサイト)で開催された「番号制度カンファレンス ――国民が主役のマイナンバー制度に向けて」に参加してきました。

特にパネルディスカッションが面白かったので、簡単に整理しておきます。

パネリストは次の通りです。

「番号制度で日本はこう変わる! 番号創国に向けた国と地方の役割」

【パネリスト】
衆議院議員(民主党) 岸本 周平氏
参議院議員(自民党) 礒崎 陽輔氏
衆議院議員(公明党) 高木 美智代氏
佐賀県多久市長、全国市長会・共通番号制度等検討会 座長 横尾 俊彦氏
奈良県天理市長 南 佳策氏
内閣官房参与 峰崎直樹氏

【コーディネーター】
学習院大学法学部 教授、
CLIC電子地方政府構想委員会 委員長 森田 朗氏

マイナンバー制度に賛成する与野党3党、自治体首長の主張や議論を森田先生が取りまとめる形です。峰崎参与からは、法案の状況について解説がありました。プログラムには峰崎さんのお名前がなかったのですが、(政務官に代わって)急遽参加されたのかもしれません。

●法案の成立について

法案が成立するためには、
1 秋の臨時国会が開催される
2 マイナンバー法案が審議される
3 修正案がまとまる

が必要ですが、公明党は解散が先と考えているようで、三党党首会談の希望もありました。自民党は、場合によっては臨時国会での審議もありと考えているようです。岸本議員からは「臨時国会で成立させた後に年内解散しても良い」といった発言もありました。

年内臨時国会が開催されれば成立する可能性は高いのですが、今のところは年内成立の確率30%ぐらいではないでしょうか。11月末がタイムリミットですね。

成立しやすくするために、社会保障・税一体改革関連法案からマイナンバー法案を分離させたのは、結果として失敗だったと峰崎参与も言われていました。

参考>>行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案(マイナンバー法案)社会保障・税一体改革に関連する国会提出法案等

●ICカードについて

ICカードの配布に積極的なのは自民党でした。民主党は、ICカードの全員配布は不要で、紙カードとICチップ(カード、スマートフォン等)の選択方式を考えているようです。

ICカードで混乱しているのは、現在のマイナンバー制度が、どのようなIT社会を目指すのか不明確だからでしょう。エストニアのようなIT社会を目指すのであれば、ICカードは必須ですが、デンマークのようなIT社会を目指すのであれば、ICカードは不要です。

また、スマホを活用する場合も、やり方によってコストや利便性、プライバシーへの配慮等も変わってきます。

このあたりの見解は、政府内でも統一されているとは言いがたく、マイナンバー制度が抱える課題の一つと思います。

参考>>海外における国民IDの動向(PDF)諸外国における国民ID制度の現状等に関する調査研究報告書(PDF)

●個人情報保護について

個人情報保護について一番積極的なのは、公明党でした。具体的には、個人情報保護委員会設置法を制定し、EUレベルの個人情報保護制度を確立させるというもの。

マイナンバー制度の監督機関である個人番号情報保護委員会をまずは設置して、これをプライバシー・コミッショナーのような独立性・権限にまで強化していくといった方法もありでしょう。

個人情報保護制度の不備については、多くの方から指摘されているので、マイナンバー制度を機会に見直すのが悪くないと思います。

参考>>個人情報保護制度における国際的水準に関する検討委員会・報告書(PDF)マイナンバー導入に向けた検討から見る我が国の個人情報保護制度の将来(PDF)

●民間利用について

民間利用に積極的なのも自民党でした。ただし、マイナンバーそのものを民間利用するのではなく、ICカードの民間利用、情報連携の民間利用、住基4情報の民間利用といった提案でした。

マイナンバーを含む特定個人情報は、社会保障・税・防災以外の分野へ利用拡大することは難しいので、実際には上記のようにマイナンバー制度を構成する「マイナンバー以外の機能を民間でも活用できるようにする」というのが、「マイナンバー制度の民間活用」と言えるでしょう。

参考>>マイ・ポータル等における民間連携・民間活用の実現に向けた方針案(PDF)

●国民への説明について

マイナンバー制度について、国民の理解度が2割以下なのは問題で、国民へのわかりやすい説明が必要という認識はパネリスト全員で共有しているようでした。

マイナンバーに限らず、新しい制度について国民が理解してないのはいつものことなので、個人的には、マイナンバー制度についてよく知っている国民が10%以上いるだけでも驚きです。「消費税率の段階的引上げ」についても、正確に理解している国民は少ないでしょう。

とは言え、国民への説明、特にメリットについて具体的な事例を含めてわかりやすく提示することが必要です。併せて、費用についても説明が必要ですが、政府の方でも、「正確な費用についてはわからない」というのが正直なところでしょう。これから仕様等が決まっていくと、より正確な費用が明らかになってくると思います。

峰崎参与は、マイナンバー法案の国会審議が始まり、テレビで大きく取り上げられて、諸外国の先進事例と共に、いかに日本が遅れているかを示してくれれば、国民の理解度も変わるだろうと期待しているようでした。

参考>>視点・論点 「マイナンバー法案の課題(1) 番号制度導入がもたらすもの」

●地方自治体への説明と支援について

マイナンバー制度の特徴は、市町村の仕事が法定受託事務となっており、制度の施行が国主導で行われることです。また、情報保有機関としての自治体は、マイナンバー法に基づいて国の機関から情報を求められた時には、それに応えなければいけません。

その反面、主な費用を国が負担するとしても、マイナンバーの付番等に必要なシステム改修や事務処理などは、自治体にとって大きな負担となります。

マイナンバー制度はかなり複雑で、法律を見慣れた人であっても、マイナンバー法を見ただけでは制度の内容がよくわからないと思います。さらに、情報提供ネットワークシステム等の仕組みを理解している人は、ほとんどいないのが現状です。「仕組みが決まっていない」とも言えますが。。

横尾市長からは、国がガイドライン等を示して、事前検証等をしっかり行った上で、全自治体が期限内にきちんと対応できるよう支援して欲しい旨の主張がありました。

参考>>地方公共団体における番号制度の活用に関する研究会番号制度に係る地方団体の税務システムのあり方に関する調査研究報告書

●システム調達について

三党の意見が一致したのが、システム調達についてです。共通業務については自治体や省庁ごとのバラバラなシステムは不要で、お互いの情報交換ができるよう、システムの標準化や共通化が必要で、クラウドも積極的に活用すれば良いという意見でした。

これには作者も賛成で、政府CIOの腕の見せ所だと思います。

参考>>政府情報システム刷新のための共通方針(PDF)

●その他

民主党:所得再分配は、所得控除から税額控除、税額控除から給付付き税額控除へ
自民党:給付付き税額控除より軽減税率
公明党:給付付き税額控除と軽減税率の両方をしっかり検討

法定調書等の法定資料については、議員さんの理解不足があったような。。

日本で問題となるのは、財務省の主要国における法定資料制度の概要(個人)にあるように、利子所得が源泉分離課税になっていて、法定資料の対象外とされていることです。

注記にあるように、「ストックの金融資産については、基本的にマネロン対策のための法律に基づき、口座開設時に本人確認及び同記録保存義務が金融機関に課されており、その情報を税務当局も利用することができる。また、各国とも、口座残高情報については法定資料の対象外」です。

つまり、諸外国では、銀行口座に納税者番号等が紐付けられており、誰の口座か当局(税務署等)が特定できるようになっていると。しかし、口座の中身(残高)については、当局は把握できないということです。ただし、預けている預貯金等に利子が発生した場合は、利子所得として金融機関から当局に通知されるので、誰がいくら利子所得があったかを自動的に当局が把握できる仕組みになっているのです。

利子所得を当局が把握できると、「無職だから収入は無いけど、お金はたくさん持っていて利子だけで楽に食べていけるよ」という人に対して、社会保障関連の給付(所得の再分配)を制限することが可能になります。

森田先生からは、マイナンバーのような基盤やプラットフォームは共通が良い。どんなアプリを載せるかを自治体が選ぶのが地方分権であるといったお話しがありました。

マイナンバー制度を実現して効果的に活用するためには、まだまだ多くの困難がありますね。