コストマネジメント思考法 ―どんな状況でも利益を生み出す

コストマネジメント思考法 ―どんな状況でも利益を生み出す
栗谷 仁 (著)
東洋経済新報社

コストマネジメントの基本的な考え方や手法については、官と民、営利と非営利などに関係なく、あらゆる社会経済活動で役に立つものです。ですから、できれば全ての公務員の試験や研修における必須科目にして欲しいと思います。

行政の事業等を評価する際に、担当職員がコストについて上手く説明できないことがあります。これは、その職員が特にコスト意識が低いというわけではなく、コストマネジメントの基本的な考え方や手法を学習する機会がなかったのだと思います。

「マネジメント」と言うのは、知識が体系化されて、その手法が確立していることを意味します。ですから、コストマネジメントについても、ある程度の時間をかけて学習すれば、誰でも実践して効果を生み出すことができます。

本書で説明されているように、コストマネジメントには2つの場面があります。

一つは「必要性の判断」で、もう一つは「コストの適正化」です。

電子政府では、「必要性の判断」が不十分であった(あえて無視した)ため、使われないサービスやシステムが乱立しました。その後、数多くの電子政府システムが「コストの適正化」により価格が下がり、「必要性の判断」から廃止されるものも増えました。今後の電子政府では、企画の段階で「必要性の判断」が厳しくチェックされて、かつ定期的に「必要性の判断」の再確認がされるようになるでしょう。

大切なのは、コストマネジメントを「費用の節約」と考えないことです。利益を生み出すためには、コストを増やす場面もあります。

最後に、コストマネジメントの「必要性の判断」に関係する話として。

テレビで「振り込め詐欺」の被害を受けた高齢者のニュース報道がありました。

その後、通販のCMは始まり「ただ今から30分以内限り!」と連呼して、時間限定の価格で商品の注文を受付けていました。

このCM。手法としては「振り込め詐欺」に出てくるニセ息子の「いま振り込まないと会社クビになっちゃうんだ!」とあんまり変わらない気がしました。

お金を使う側からすれば、「必要性の判断」が適切に行われれば、たいして必要でもない物を買わずに済むので、コストマネジメントとしては良い行動です。

しかし、お金を払ってもらう側からすれば、「必要性の判断」を適切に行われると困るので、「必要性の判断」を一生懸命に邪魔します。「いかに正常な判断がされない状況を作り出すか」という観点で言えば、「振り込め詐欺」も「コマーシャル」もあまり大差はないのですね。

別の言い方をすれば、コストマネジメントは、周囲の雑音に影響を受けることなく、決められたプロセスに従って、地道に実践し継続していくことが大切と。

これは、家計や企業だけでなく、国や地方の財政でも同じことです。