住民参加型コミュニティの運営、民間の比較サイトから学ぼう

日経BPガバメントテクノロジーの記事によると、三重県の住民参加掲示板「e-デモ会議室」が終了するとのこと。今回は、住民参加型コミュニティの運営について考えてみたい。

三重県の場合、会議室は終了するが、4月から県がテーマ設定する新掲示板サービスが開始するそうなので、こちらに期待したい。

さて、国民や住民が参加して、自由に意見を述べられる場を提供することは、透明で公平な電子政府を実現するために欠かせないものである。

様々な形式の住民参加型コミュニティが生まれることは、基本的に大歓迎だ。

●公共サービスや事業を、市民が評価・比較するコミュニティを

具体的なサービスモデルとしては、公共の施設や事業を商品やサービスと考え、利用者(住民)が自由に意見を言える場「公共サービス評価コミュニティ」を提案したい。価格.comの行政サービス版といった感じである。

閉鎖的に運営される市民会議室もあるが、あれは良くない。せっかくのコンテンツが生かされないからである。

「公共サービス評価コミュニティ」では、閲覧利用は誰でも可能で、投稿は登録者のみとすると良いだろう。構築・運営は、現実問題として民間企業に委託した方が良い。

●改善に繋がる評価をしよう

評価は、誹謗・中傷とは異なる。長所を伸ばし、短所を改善するために行うのである。

公共施設として「図書館」を例に取ると、次のような評価項目があると良い。

1 アクセス(駅から近い、駐車場があるなど)
2 職員の対応
3 設備(建物、座席、検索機器、ネット端末など)
4 ソフト(蔵書の数、雑誌の種類、専門書の充実度など)
5 満足度

住民からの評価や口コミにより、

A図書館は、駅から近くて便利。蔵書も多いけど、職員が不親切だなあ。
B図書館は、アクセスは不便だけど、インターネットが利用できるパソコンが置かれているのが良い。
C図書館は、蔵書数は少ないけど、ビジネス関連の書籍が充実している。

といった具合に、その施設の強みと弱みが見えてくる。利用者が、どのような設備やサービスに魅力を感じるかも理解できる。

事業計画として道路、地下鉄、公園、市庁舎、コンサートホール等の建設を例に取ると、次のような評価項目が考えられる。

1 事業の必要性(優先度)
2 事業の採算性
3 地域社会への貢献度
4 住民からの期待度

地下鉄は、あったら便利と思うけど、採算性に不安がある。もっと教育とか福祉に税金を使って欲しいよ。となれば、運営や資金調達について民間企業の支援を得て、自治体の負担やリスクを軽減する等の措置が必要とわかる。

新しい市庁舎の建設について採算性の評価が低ければ、立地条件の良い場所を選び、中・高層のビルにして、民間企業からテナント募集をしようと事業変更が検討される。

という具合に利用されると嬉しい。

●情報公開による透明性向上を

「公共サービス評価コミュニティ」が実現するためには、公共事業やサービスについて、情報公開が十分に行われていることが条件となる。もちろん、ウェブサイト上で閲覧できるということだ。

住民参加型コミュニティには、行政運営の透明性を向上し、不正を浄化する効果があることを理解しておこう。住民の誤解を解き、きちんと理解してもらった上で、事業遂行の支援を得ることもできる。

●目的や成果を明確にしないとダメ

こうした住民参加型のコミュニティサービスは、ただ多くの住民に参加してもらえば良いというわけではない。

目指すべき成果は、

・多くの住民に、公共サービスの存在を知ってもらい利用してもらうこと
・公共施設の運営やサービスが改善されること
・必要な事業に適切な予算が使われること(投資効果の改善、調達制度の見直し)

などである。

具体的な成果が期待できなければ、行政の単なる自己満足と言われても仕方がない。

言うまでもないが、市民からの評価や意見を生かして、具体的な成果を生み出せるかどうかは、行政の手腕にかかっている。この部分を行政が放棄してしまうのであれば、「行政職員を減らして人件費を削減する」という形の成果が求められることになる。

もし行政側に、「行政サービスを改善したい」「役所の運営をスリム化したい」「税金を有効に使いたい」といった欲求がないのであれば、住民参加型コミュニティの運営は、お金と時間の無駄になるだけなので、止めたほうが良い。

●ビジネスとしての可能性

当然ながら、「公共サービス評価コミュニティ」はビジネスとしての可能性も秘めている。

電子政府ベンダーが、価格比較サービスを提供している企業と協力・連携すれば、「公共サービス評価コミュニティ」の構築・運営を、自治体向けのサービスとして展開できるはずだ。

大切なのは、民間企業が中心となってビジネスを展開することである。

もし、政府の予算を使い、外郭団体経由で実証事業等を行うようなことになれば、ビジネスとしての芽は摘まれてしまう。

期間終了後にサービスは終了し、自由な事業・サービス展開を期待できないからだ。税金を使って報告書を作っておしまいとなり、国民の生活はちっとも便利にならないのである。

新しい電子政府サービスを本気で考えたいのであれば、実証事業に終わらせない環境で、民間企業を活用しなければいけない。

関連サイト>>
e-デモ会議室及びe-デモ・ジュニアの廃止について(三重県)
ICTを活用した地域社会への住民参画のあり方に関する研究会(総務省)
藤沢市市民電子会議室
インターネットでつくる国土計画:電子会議室(国土交通省)
自治体の電子コミュニティはどうすればうまくいくのか?(日経BPガバメントテクノロジー)
SNSを自治体で初めて導入、悪意なき電子コミュニティを構築(日経BPガバメントテクノロジー)