新型コロナの問題で注目されるマイナンバー制度への誤解と過度な期待
新型コロナの問題に関連して、「マイナンバーを活用すれば・・・」といった発言を目にする機会が増えました。良い機会なので、私なりにマイナンバー制度を総括しておきたいと思います。
まず、マイナンバーはいわゆる「国民共通番号」ではなく、「中途半端な分野別番号」です。なので、エストニアや北欧のような個人番号と比較しない方が良いです。「中途半端な分野別番号」なのに「極めて使いにくい」かつ「国民や公務員に多大な負担を強いている」という、非常に特殊な番号がマイナンバーの正体です。
マイナンバーカードも、マイナンバーと同じく「中途半端」で「極めて使いにくい」かつ「公務員に多大な負担を強いている」、やはり非常に特殊なカードです。格納される電子証明書も、「電子メールやワードで作成した文書に署名して、相手方がそれを検証する」といった当たり前のことさえできない、非常に特殊なものです。マイナンバーカードの交付枚数をいくら増やしても、人々の生活は楽になりません。
情報連携を実現するとされる「情報提供ネットワークシステム」も、非常に特殊です。考えた人には申し訳ないですが、最高裁判決に過度に忖度した醜悪なシステムです。なぜ醜悪なのかと言えば、お金がかかる割には、人々を幸せにしないからです。エストニアのXロードと異なり、日本の情報提供ネットワークシステムは、前近代的な人海戦術を前提とした人と人の情報のやり取りを行うシステムです。これでは人の仕事が減ることは無く、負担が増えるばかりです。
こうした状況の中で、マイナンバーの活用範囲を広げても、あまり意味はありません。マイナンバーの利用を強いられることによる負担の方が大きくなるでしょう。なぜそうなるかと言えば、「マイナンバーに対する基本的な考え方(設計思想)」が歪んでいるからです。そこから派生して、「歪んだマイナンバーカード」が作られ、「歪んだ情報連携のシステム」が作られてしまいました。
問題の根本原因となっている「マイナンバーに対する基本的な考え方(設計思想)」を変えない限りは、いくらマイナンバーカードを増やしても、国民は幸せにならないのです。
新型コロナに関連して、特別定額給付金(10万円)が全住民に支給されることになりました。今まで何兆円も使って電子政府を作ってきたのだから、「電子政府を使って受け取ることができる」と考えるのが普通でしょう。
私の場合、マイナンバーカードも取得しており、それを使って電子申告もして指定の銀行口座に還付金の返還を受けています。マイナポータルのアカウントも開設しています。それなら、マイナポータルに「特別定額給付金支払い」について、「○月○日に○○銀行の普通預金口座XXXに振り込みます」とオンライン通知が来て、「承諾」ボタンをクリックすれば全てが完了するはずです。これを実現するかしないかは、マイナンバーとは何の関係もありません。行政は、すでに必要な情報も手段も持っているのですから。
真っ当な電子政府サービスを提供できないことをマイナンバーのせいにしないで欲しい、心からそう思います。
マイナンバーを始めとした各種番号は、単なる識別・整理番号であり、それ以上でもそれ以下でもありません。「必要な情報を誰がどのように管理するか」が重要であり、マイナンバーのような番号制度は、その中の一要素に過ぎません。
公的な情報の管理のほとんどは、各省庁の権利やパワーと密接に関係しています。国民の生活に関係する情報の多くは、各自治体でバラバラに管理されています。CIOとは、Chief Information Officerであり、直訳すれば「最高情報責任者」です。見るべきは、情報システムではなく、「情報」なのです。
本当に電子政府を良くしたいのであれば、マイナンバーではなく、もっと「情報」に目を向けましょう。