「デジタル化しない」という人災による被害が増えていく

理事として参加している日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会(JEEADiS ジェアディス)のブログに、「エストニアにおける新型コロナへの対応状況(2020年5月8日):感染者数の傾向と出口戦略の決定」や「エストニアの電子政府を支え、有事にも活用される住民登録データベースと身分証明書」などを投稿しているのですが、改めて日本との違いを感じ、色々と思うことがありましたので、その雑感を書いておきたいと思います。

結論から先に述べると、いよいよ日本でも「デジタル化しない」という人災による被害が顕在化していく、ということです。

私自身は、2000年代の初めから、できるだけ早く電子政府で「人がいらない仕組み」を作っておかないと、公務員自身が大変になり、その結果が国民への実害となり、ますます政府や公務員への不信が増大しますよ、と訴えてきたのですが、多くの公務員にとっては他人事であったり、わかっているけど今の仕事で手一杯といった状況が続いてきました。

電子政府が始まった頃には、すでに公務員数の削減が進み(人口当たりの日本の公務員数は非常に少ない)、少子高齢化や人口減少が進む中で、公務員数が増えていくというシナリオは現実的なものではありませんでした。給与についても、日本の公務員給与は国際的には最高水準にあり、こちらも増加する期待はできない状況でした。

エストニアで電子政府が進んだ理由の一つは、「使えるお金も人も少なかった」からです。地方の過疎化についても、エストニアは日本よりずっと進んでいます。

2020年5月11日付けのNHKニュース「新型コロナ 感染者情報一元的に管理 新システムの運用開始へ」が話題になってます。ネット上の反応は、「これは良いシステムだ」と感心する一方で、「えっ、今になって?」といった驚きもありました。

ツイッターの反応にあるように、PCR検査についても「今でもFAXを使っていることが信じられない」と思う人は多かったでしょう。

NHKニュースで紹介された一元管理のシステムは、「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム」というものです。同システムは、新型コロナウイルス感染症対策本部が3月28日に決定した「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」の「サーベイランス・情報収集」の一環として示された下記のシステムを具現化したものです。

『厚生労働省は、医療機関や保健所の事務負担の軽減を図りつつ、患者等に関する情報を関係者で迅速に共有するための情報把握・管理支援システムを早急に構築する。また、本システムを活用し、都道府県別の陽性者数やPCR等検査の実施状況などの統計データの収集・分析を行い、より効果的・効率的な対策に活用していく。』

基本的対処方針では、同システムとは別に、医療機関の空床状況や人工呼吸器・ECMOの保有・稼働状況等を迅速に把握する「医療機関情報把握システム」の構築も示されています。いずれにしても、今回のような有事には、既存の感染症発生動向調査(NESID)では、関係者の負担が大きく、迅速かつ正確な対応ができなかったということでしょう。

ところで、「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(仮称)~情報共有の迅速化・事務負担軽減につながる機能~」を見ると、少し気になる記述があります。

1.発生届を電子的に行うことが可能となります!
・医師が発生届を電子的に行った場合、保健所がシステムに入力する手間が省けます。
・医師も手書きでFAXする作業から解放され負担が軽減されます。
・本システム稼働後は、新型コロナウイルス感染症についてはNESIDへの入力を不要とします(新型コロナウイルス感染症に係るNESIDの情報は本システムに移行します)

これを読むと、医師が手書きのFAXで発生届を提出する場合は、やはり保健所がシステムに入力しないといけないようです。実際の運用でどうなるのかが気になるところです。

ちなみに、エストニアで医師によるデータ提出が義務化されており、コンピュータの助けを借りて、半自動的にデータが集まり共有できる仕組みがあります。

コンピュータは人間を助けるために作られました。しかし、いくらコンピュータが人間のために働きたいと思っていても、人間の側にその準備ができていなければ、コンピュータは上手に働くことができません。かえって、人間の負担になってしまうこともあります。

これからの日本で、「デジタル化しない」という人災による被害を拡大させないためにも、改めて人間とコンピュータの関係を見直す必要があるでしょう。人間もコンピュータも幸せと思える社会について考えることは、とても楽しいことに違いありません。