エストニアで自治体システムの標準化や共通化が、あまり話題にならない理由

日経のニュースでも、自治体システムの標準化や共通化が話題になっていますが、エストニアではそうした話題はほとんどありません。と言うのも、エストニアの基礎自治体は規模が小さいので、タリン市(人口43.7万人)やタルトゥ市(人口9.2万人)といった大都市を除けば、自前でシステムを開発する余裕が無いからです。その一方で、データの標準化共通化は非常に進んでいます。

業務に必要なデータベースやサービスは国が整備運用していますし、文書管理システムなどは内務省や財務省、自治体協会等が作って配布しているものを使います。自治体がローカルで処理するもの、条例等を定めて独自に提供するサービスなど、業務によってはベンダーが提供するソフトウェアを使いますが、こうしたパッケージソフトが情報セキュリティ標準の要件を満たしていないことなどが問題になっているようです。政府の調査によると、自治体が利用する情報システムは、約40あるそうです。当たり前ですが、エストニアでも、完璧ではないということです。

いずれにしても、重要なのは、データの相互運用性であり、ここをしっかり押さえておくことで、組織を越えて(時には国を越えて)最新の情報をやり取りしながら、コンピュータによる自動処理が可能になります。

エストニアでは、日本以上に都市への人口流出や地域の過疎化が進んでおり、最低限の住民サービスさえ提供するが難しくなっていました。そのため、2017年に大規模な行政改革が行われ、基礎自治体の約8割を占めていた5000人未満の自治体を統合整理し、200以上あった自治体は79になりました。その結果、5000人未満の自治体は2割以下になり、地方議員の数も約半分になりました。

日本の住民基本台帳や戸籍に該当するような住民データについては、家族アーカイブも含めて内務省が一括管理しています。この内務省の役割のことをデータコントローラーと呼びます。自治体の役割は、データコントローラーが定めた規則に従ってデータを提供することです。これをデータプロバイダーと呼びます。各自治体は、業務に必要な範囲で住民データにアクセスして利用することができます。

日本の場合、1700以上の自治体がデータコントローラーになっているため、データを管理するための規則が1700以上になっており、ここを見直さない限り、データ駆動型のデジタル国家は実現できないと思います。国家としてのデータ管理に手をつける事は、政治的にも実務的にも非常に難しい案件ですが、じっくり時間をかけてでも取り組む価値のあることだと思います。適切に確立・管理された公的データベースの仕組みは、次世代に残せる貴重な遺産になることでしょう。