「デジタル田園都市国家構想」について、エストニアのXロードなど
日本の政府が進める「デジタル田園都市国家構想」について質問されることがありますが、「よくわかりません」というのが私の現在の回答です。
「デジタル田園都市国家構想」は、自民党の検討会の中で出てきたアイデアで、それほど新しいものでは無いと理解しています。当初からイメージ図みたいなものがあり、それが少しずつ修正されて現在に至っていますが、具体的なアーキテクチャ(設計方法やシステムの構造など)が示されているわけではありません。2022年4月現在は、「デジタル田園都市国家構想基本方針(骨子案)」が検討されている段階のようです。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/dai7/gijisidai.html
デジタル田園都市国家が目指す将来像について
第二回デジタル田園都市国家構想実現会議(令和3年12月28日)
デジタル大臣 牧島かれん
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/dai2/siryou2-1.pdf
デジタル大臣が提出した資料のスライド2にある「デジタル田園都市国家構想の成功の鍵」で、「デジタル田園都市国家構想」の全体イメージ図みたいなものがあります。以前より、すっきりしたデザインになり、政府が進めたい社会の方向性も何となく示されています。
考え方としては、「より良い社会にしていくためには、官民のサービス連携が必要で、サービス連携のためにはデータ連携が必要で、サービスやデータを連携するための基盤を整備します」というものです。
個人的には、この考え方が、そもそも間違っているように感じています。少なくとも私が理解しているエストニアのデジタル国家の考え方とは、かなり違います。ですから、今の考え方で「デジタル田園都市国家構想」を進めると、これまでと同じ道をたどるのではないかと心配しています。
次に気になるのが、では「誰が基盤を整備するのか」という問題です。
デジタル田園都市国家構想関連施策の全体像
令和3年12月28日 デジタル田園都市国家構想担当大臣 若宮 健嗣
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/dai2/siryou1-2.pdf
上記の担当大臣が提出した資料のスライド5に、「デジタル田園都市を支えるデジタル共通基盤(イメージ)」というのがあります。
ここでは、1)デジタルインフラ層、2)データ連携基盤層、3)サービス層という3つの階層に分けて整理しています。説明文は、次の通りです。
〇デジタル・インフラ及び、行政機関間のデータ連携基盤(公共サービスメッシュ)を国が主導して整備。
〇各エリアのデータ連携基盤も、国が必要な部品とアーキテクチャを提供し、その整備を積極的にリード。
〇こうしたデジタル基盤を活用した様々なサービスの実装を、関係者の力を総動員して実現する。
先述したデジタル大臣の資料のスライド11「デジタル田園都市を支えるデジタル基盤の構築について」は、もう少し詳しい説明があります。
〇デジタル田園都市の実装は、まずは、先進的なサービスの開発・実装から展開し、徐々にその充実を図る。
〇民間同士、官民など、セクター間のデータ連携実需が見えてきた段階で、データ連携基盤の整備をはじめる。
〇KPIに基づくEBPMを基礎に、取組全体の改善を随時、アジャイルに続けることとする。
〇行政機関間でデータ交換を行うための基盤、「公共サービスメッシュ」は、国自身が整備を行い、自治体事務にも提供を行う。
〇官民連携や民間サービス間でのデータ交換を行うためのエリア・データ連携基盤については、コアとなる部品とアーキテクチャを国が提供する。
〇データ連携基盤の機能、使い勝手などについては、各エリアでの利用状況や現場の声を踏まえ、随時改善を続けることとする。
このように、「誰が基盤を整備するのか」については、国が主導的な役割を担うとしています。具体的には、デジタル庁が中心となって進めていくと考えられるので、デジタル庁の力量が試されることになるでしょう
最後に、『エストニアのデータ交換基盤であるXロードは、日本の「デジタル田園都市国家構想」にも使えるのか』という点にも触れておきます。
結論としては、「理論的には可能だが、実装と運用はかなり難しい」というのが現時点での私の考えです。
Xロードはオープンソースで、接続する情報システムの仕様にも依存しないので、そこは問題ではありません。しかし、「公的データベースが適切に整備されている」という条件を満たして、初めてその能力を発揮することができます。つまり、データガバナンスが未整備の日本では、Xロードを全国規模で分野を超えて実装し、そこから様々なサービスを展開していくことは難しいということです。
もう一つの問題は、いわゆる「IoT(アイオーティー):Internet of Things」に関するものです。Xロードのセキュリティは、Xロードに参加するコンピュータ(サーバ)を正確に識別・認証することによって担保されます。
「デジタル田園都市国家構想」の対象範囲であるスマートシティやスマートヘルスなどは、スマホやタブレット端末やスマートウォッチ、ネット対応テレビやスマートスピーカーなどのデジタル情報家電といった個々の端末からリアルタイムでデータを収集し活用することを想定していると思います。こうしたIoTのデータ活用をXロードだけで実現するのは難しいので、別の仕組みで補完する必要があるでしょう。エストニアで、IoTのデータ活用するケース(例:医療画像データの収集)では、そうした補完策を実施しています。