なぜ「マイナンバーカードが身分証明書として使えない」という問題が起きるのか
マイナンバー制度が始まって8年ほど経ちましたが、いまだに「マイナンバーカードが身分証明書として使えない」という話を聞きます。こうした問題が起きるのは、「政府やデジタル庁に利用者視点が欠けている」からです。ここで言う利用者視点とは、「提示されたマイナンバーカードで本人確認する側」である民間企業等の視点です。
マイナンバーカードの利用は民間企業等に強制できない
デジタル庁の「よくある質問:マイナンバーカードについて」を見てみましょう。
A3-8
マイナンバーカードは、顔写真付きの身分証明書として使用できるカードであり、本人確認(マイナンバーの確認と身元の確認)を1枚で行うことができます。
A3-11
マイナンバーカードには氏名、住所、生年月日、性別が記載され、顔写真があります。このため、レンタル店などでも身分証明書として広く利用が可能です。ただし、カードの裏面のマイナンバーをレンタル店などが書き写したり、コピーを取ったりすることはできません。
公式回答の通り、「マイナンバーカードは、顔写真付きの身分証明書として使用できるカード」であることがわかります。
次に、津山市の「マイナンバーカードは身分証明書として使えますか」への回答を見てみましょう。これは非常に良い回答です。
回答
市や銀行など、本人確認の必要な窓口でマイナンバーカードを身分証明書として利用できるかどうかについてですが、マイナンバーカードの券面には、氏名、住所、生年月日、性別、顔写真が記載されており、公的な身分証明書として広くご利用いただけます。
ただし、カードの裏面に記載されているマイナンバーをコピー・保管できる事業者は行政機関や雇用主等、法令に規定された者に限定されているため、規定されていない事業者(例えばレンタル店など)の窓口においてマイナンバーを提供したり、事業者がマイナンバーを書き写したり、コピーを取ったりすることは禁止されています。また、マイナンバーカードを身分証明書として取り扱うかどうかは最終的には各事業者の判断となります。
この回答にあるように、「マイナンバーカードを身分証明書として取り扱うかどうかは最終的には各事業者の判断」であり「強制はできない」ということです。
次に、総務省のチラシ「マイナンバーカードが本人確認書類として利用できない」を見てみましょう。
大手レンタルショップで本人確認書類の提示を求められたので、マイナンバーカードを提示したところ断られた。という相談に対して、
・マイナンバーカードを本人確認書類として取り扱うよう改善を要請しました!
・その結果、同社でマイナンバーカードを本人確認書類として取り扱うよう改めて社内に徹底しました。
となっています。「改善を要請」というのは微妙な表現ですが、これが政治的な圧力などにより実質的な強制になったりすると、違法性が高くなりますね。
身分証明書としての運転免許証とマイナンバーカードの違い
次に、よく身分証明書として利用される運転免許証とマイナンバーカードの違いについて考えてみましょう。
「身分証明書の提示を受けて本人確認する側の視点」では、運転免許証では「運転免許証番号(カード発行識別番号」が使える安心感」があるのに対して、マイナンバーカードにはそれが無いという違いがあります。
「運転免許証番号」の目的は、「警察の運転者管理業務を的確に行うため」ですが、日本では身分証明書法等により身分証明書の定義や利用について明確な法令を整備していない中で「運転免許証で本人確認する」ということが習慣化した経緯があります。現在は、行政機関における本人確認が一般的になっていますが、戸籍の窓口での「本人確認」が法律上のルールとなり本人確認書類が指定されたのも2008年からと、かなり最近のことです。
さて、「運転免許証番号が使える安心感」とは、「運転免許証番号」を記録しておくことで、同じ「運転免許証番号」が記載された偽造カードの提示を検知して拒否することができるという利点です。また、他店舗と「運転免許証番号」を共有することで、「偽造運転免許証のブラックリスト」を作ることもできます。お店や店員にとっても、特定の「運転免許証番号」の運転免許証で確かに本人確認をしましたという事実を証明しやすくなります。
マイナンバーカードにも、表面の写真の下に「製造番号」があるのですが、この製造番号の利用については、総務省やデジタル庁の公式説明が全く無くて、ほとんど謎の番号となっています。つまり、「マイナンバーカードの製造番号は怖くて使えない」ということです。
なぜ「マイナンバーカードが身分証明書として使えない」という問題が起きるのかの答えは、「運転免許証で本人確認した場合と比べて、マイナンバーカードは不安な要素が多いから」だと言えます。
偽造マイナンバーカードを提示された場合の対策や早期発見は可能なのか、確かに本人確認をしたのかと追及されたときに、その事実をどうやって証明できるのかなどの問題に対して、現在のマイナンバーカードは、あまりにも未成熟なのです。
ちなみに、エストニアのIDカードは、オンラインで有効性確認ができます。警察・国境警備局のウェブサイトで、IDカードの文書番号を入力して問い合わせると、すぐに結果を表示してくれます。カード裏面のQRコードをスマホ等で読み取ると、有効性確認のサイトへ飛んで自動的に有効性を確認してくれます。
エストニアでは、様々な場面でIDカードの提示を求められる機会があり、提示される側でもIDカードの有効性を簡便な(特別な機械やアプリケーションを必要としない)方法により確認できることが必要なのです。
日本のマイナンバー制度においても、「身分証明書を提示される側」のことを考えたマイナンバーカードの運用方法をデザインする必要があるでしょう。