エストニアの国家情報システムにおけるデータの識別について
エストニアの話題ですが、内容が少しマニアックなので、個人サイトのブログに投稿しておきます。
エストニアの国家情報システム(主に公的データベース)には、3種類のユニークな(重複しない)名前が付いています。エストニア語による正式な名称、英語名、省略名の3つです。コンピュータ上で情報システムを識別する際は、このうちの「省略名」を使用します。
例えば、全国の処方箋データを管理する「処方センター」の省略名は「rets」なので、Xロード上での「処方センター」の識別子は、「EE/GOV/74000091/rets」となります。
EEはエストニアの国名コードで、 GOVは政府・公的機関を示す分類子、74000091は登録コード(法人番号)で、「EE/GOV/74000091/rets」はエストニアの公的機関である健康保険基金(74000091)が管理する国家情報システムであることがわかります。国内でデータ交換する場合は国名コードを除いた「GOV/74000091/rets」でも問題ありません。
「処方センター(rets)」に格納されるデータが欲しい場合は、可能な限りデータを指定する必要があります。例えば、患者の処方箋リストを取得したい場合は、「GOV/74000091/rets/reseptide_loetelu_patsient_nt/v1」にあるデータの中から、患者の個人識別コードに該当するものを検索して指定することになります。患者の処方箋リストは、基本的な処方箋データのみを返す簡単なクエリ(データ照会のリクエスト)です。
より詳細な処方箋データが欲しい場合は、「GOV/74000091/rets/retseptide_info_patsient_nt/v1」にあるデータの中から、患者の個人識別コードに該当するものを検索して指定します。この場合、 1つまたは複数の処方箋に関する詳細な情報をリクエストすることができます。
患者を特定するための識別子は、エストニアの個人識別コードが使用されますが、外国人などエストニアの個人識別コードを持たない(あるいは不明)の場合は、外国政府が発行する個人識別番号や旅券番号等が識別子として記録されて使用されます。
EU加盟国であるエストニアでは、個人データを処理する場合に「最小限のデータの取得」が求められるので、組織や分野を越えて欲しい情報だけをピンポイントで指定して取得して自動処理できる仕組みを確立しました。この仕組みがXロード(X-tee)と呼ばれるものです。
参考資料:エストニア健康保険基金 同意サービス 健康保険基金の X-tee データ サービスとのインターフェイスガイド(PDF)
処方箋データと異なり、目的によってはより最小限の個人データの取得で足りる場合もあります。例えば、エストニアの首都タリン市では、タリン在住者、タリン市内の学校に通う学生(19歳以下)、65歳以上のエストニア共和国在住者は、市内の公共交通機関を無料で利用することができます。この無料特典を利用するためには、IC乗車券のパーソナライズ化(利用者の個人情報との紐づけ)を行う必要があります。
タリン在住者の場合は、バス事業者が人口登録簿データベース(rr)にアクセスして、その人の住所の地域(郵便番号)だけを取得して、IC乗車券と紐づけします。こうしておくことで、バス事業者であるタリン市の交通局は、どの地域に住んでいる利用者が多いのかを分析することができます。利用者の郵便番号データは、月に1回の頻度で自動確認・更新されます。タリン市内の学校に通う学生の場合は、バス事業者が教育情報データベース(ehis)にアクセスして、タリン市内の学校への在籍の有無だけを確認します。