国による住民基礎データの管理と地方自治の関係について
エストニアの「国民ID(個人識別コード)」と日本の「マイナンバー」を比較したブログを投稿したのは2017年なので、もう7年以上前のことです。当時は、日本で誤解も多いエストニアの個人番号制度について、一般の人はもちろん、行政関係者や情報システムに関わる人たちにも理解しやすいようにと考えながら書いた記憶があります。
この投稿について、先日、読者の方からコメントをいただきリンク切れ等も修正したので、関連する話を少し書いておこうと思います。
エストニアが採用する人口登録簿(英語名:Population Register )は、住民の基礎データを国が一括管理するデータベースで、国家運営の基礎となるベースレジストリの代表的なものです。例えるなら、日本の戸籍と住民基本台帳を全国一つに統合し、そこに国勢調査に必要なデータを追加して、さらに医療データを連携することで児童の人権保護を強化したようなものです。
人口登録簿は、北欧諸国で発展したものですが、スウェーデンやフィンランドは情報公開制度や個人情報保護制度を世界に先駆けて確立した国であり、地方分権でも進んでいるとされます。これらの国の基礎自治体の役割は、学校教育や社会福祉が中心となっており、住民との直接的な交流(オフライン、対面でのやり取り)が必要な行政サービスを維持するために、小規模自治体の合併や行財政改革が行われてきました。その一方で、出生届や各種手当の給付など、非対面やオンラインで済ませることができるものを中心にデジタル化・自動化が進みました。
参考:スウェーデンにおける国と地方の役割分担(PDF)|フィンランドにおける地方(地域)をめぐる行財政改革の動向(PDF)
エストニアや北欧諸国を見る限りでは、国が住民データを管理することで地方の自治権が侵害されるかどうかについては、すでに答えが出ています。むしろ、地方自治を維持・強化するために、基礎自治体に負担をかけない方法として「国による住民データの維持管理」を選んでいると言えます。近年、デジタル化が進んだこれらの国で起きたのは、広域自治体の廃止や基礎自治体の権限強化なのですから。
日本は北欧諸国のような「高福祉高負担」の国ではありませんが、国民負担率は年々上昇し、将来的には市町村の減少も避けられないと言われています。日本の基礎自治体が住民記録システムの維持管理から解放されて、法定受託事務も激減することで、地域の問題により集中できる社会の実現に期待したいと思います。