マイナポータルAPIによる民間サービスへの自己情報提供とサービス品質の改善
市町村単位で住民の基礎データ(住民基本台帳と戸籍)を管理している日本では、行政サービスをオンライン化した時に、引越し手続オンラインサービスのように「オンラインで完結しない」や「自分が住んでいる自治体が対応していないので利用できない」など、主に役所の縦割りを原因としたサービス品質の低下が見られます。
こうした問題は、現在のマイナンバー制度やデータ連携基盤(情報提供ネットワークシステム)では解決できないのですが、別の方法により国民が利用するサービスの品質を改善することは可能です。その一つが、デジタル庁が提供するマイナポータルAPIという仕組みです。
デジタル庁は、マイナポータルAPIについて、次のように説明しています。
マイナポータルAPIは、
・民間や行政機関等の組織が提供する外部サービスからの電子申請をマイナポータルで受け付けたり
・システム利用者の同意のもと、行政機関から入手した自らの個人情報を外部サービスに提供することを可能にするものです。
・これにより、利用者において使い勝手の良い製品やシステムの提供が期待されます。
特に期待されるのが、「行政機関から入手した自らの個人情報を外部サービスに提供する」という仕組みです。この場合、役所側の理由によりサービス品質を期待できない「行政サービスのオンライン化」ではなく、役所側の理由に関係の無い「すでに利用している民間サービスの品質改善」を期待できるからです。
実際にマイナポータルAPIを利用している民間サービスは、マイナポータルAPIの活用事業者一覧で確認することができます。
ちょっとわかりにくいのですが、この一覧の中で「利用API」の項目が「自己情報取得API」や「医療保険情報取得API」となっているサービスが、「行政機関から入手した自らの個人情報を提供できるサービス」と考えて良いでしょう。
マイナポータルAPIを活用している民間サービスの品質が良くなるかどうかは、サービスを提供する事業者次第です。一覧を見ると、電子お薬手帳や健康管理などのサービスの数が多く、民間や自治体で同じようなサービスを提供している印象を受けます。
電子政府の先進国では、日本のマイナポータルAPIのように本人が一つ一つ確認して同意する必要が無く、公的なサービスについては法令で定める目的に従い必要最小限の個人データを自動的に取得・連携して処理することで、本人の負担を限りなくゼロにしています。欧州や韓国などで実現している「記入済み申告」(税務当局が事前に記入した申告書を本人に提示して確認してもらう方式)などは、その一例です。
純粋な民間サービスについては、マイナポータルAPIを活用することで、サービス品質を改善しようとするのは良いことだと思います。他方、国や自治体、あるいはそれに類似する組織が提供する公的なサービスについては、安易にマイナポータルAPIに頼ることなく、必要な法令を整備することで透明性を確保しながら、できる限り本人や家族の負担が無い方法により、申請等が不要なサービスの自動化を実現して欲しいと思います。